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第1章:笑わない操り人形
2.噂とカイル・セントリア
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「少し待ってくれ──」
その呼びかけに応えるように、ナルは歩みをとめてカイル・セントリアの美しく整った瞳と視線を合わせる。
「……私に、何か用かしら?」
驚いた……噂ではカイル・セントリアは人に興味は無かったはず、特に女性に対しては。
驚いても尚、ナルは平然を装うため、カイルから視線を外さずに表情も変えない。
「急で悪いのだが……少し我が家へ寄ってくれないか?」
「え……?」
突然の家への招き……まさか、私の正体がバレている?いや、そんなことはない……か。
それにしても、セントリア公爵家からの誘いは、受けておかないと色々と怪しまれてしまうだろう。
なら……
「えぇ、ちょうど今暇していたところなの」
「そうか?それなら良かった!」
とても人間と関わらない人間と思えないほど、カイル・セントリアは屈託のない笑顔を見せた。
噂と違う……これが特別な状況なのか、それとも噂が間違っているのか?
「噂なんて、あてにならないものね」
「なんか言ったかい?」
「いえ、何も」
グラシア家にいた頃だって、私には根も葉もない噂がいくつも立てられた。両手両足の指を使っても数え切れないほどに。
全く、この国の貴族は小さな子供同士の嫌がらせが好きなの?
そんなことを考えながら、ナルはセントリア家の馬車へと乗り込む。
その時、ナルはなぜかこの馬車にいつもと違う感じがした。
「これは……」
セントリア家の馬車は、見た目や素材こそ最高級の物を使っているものの、中は広くなく、3人でギリギリ乗れるかどうかの広さだった。
平民が乗る馬車では素材は質素だけど、5、6人は乗れたはずだ。
「狭いか?普段この馬車に乗るのは私達家族しかいないから、必要がなくてこんな広さになっているんだ」
「たしかに少し狭くはありますが……むしろ少人数の方が安心しますし、フカフカで座り心地が良いです」
「そう言ってくれると助かるよ」
やっぱり、何かおかしい。噂だと、カイル・セントリアは私よりも冷徹で無慈悲で、こんなに笑顔を見せてくれるなんて、聞いていない。
それに、よく誰かと話しているかのように、話し方もほかの貴族よりも数段上だ。
距離の詰め方も上手。いつの間にか、お互いに少し砕けた口調になっている。
それはつまり、私がカイル・セントリアと話す時に安心してしまっているということ。
なぜかは分からないが……この美しい顔の奥底には、何か深刻なことを抱えている、そんな感じがしてならない。
ラン・フォン・グラシアには一度も抱かなかった感情を、ナルは出会って間もないカイル・セントリアに抱いていた。
心配、という名の感情を──
◇◇◇
「さぁ、着いたよ」
その声と共に、ナルは窓の外へと目をやる。
そこに映し出されたのは、言葉だけで表すことが難しいほど、白と水色で構成されている屋敷だった。
「この色、珍しいだろう?」
私の心を読んだかのように、カイル・セントリアは私に問いかける。
「白と水色、この2色はこのセントリア家では大切な色でね」
「大切な色?」
「そう、髪って、神と同じ発音だから、神聖なものと言うだろう?セントリア家では代々、男の子が産まれたら水色の髪、女の子が産まれたら白色の髪を持って産まれてくるんだ」
「だから、セントリア家は代々白色と水色への思い入れが強いんだよ」と話し続けるカイル様は、どこか嬉しそうだった。
「外で話すと疲れし、そろそろ中に入ろう」
カイルの声に誘われるように、ナルはカイルの後を付いて行く。
その大きなドアを潜り、中に入る。
そこに居たのは、数人のメイドと執事だった。
その一人一人が、カイル様を信頼している様子で、振る舞いだけで忠誠心が高いことが分かる。
「信頼、されているのですね」
「屋敷の中では……なんだけどね」
セントリア家に生まれた者の宿命……なのだろうか。
外では、周りからは避けられる、というか怖がられて、人間関係を築くのが難しいのだろう。
「屋敷の中だとしても、人の信頼を得ることは難しいことです」
「そうかい?それならありがたくその言葉を受け取らせてもらうよ」
シャンデリアに照らされる屋敷の中は、豪華さを感じる中に、どこか切なさを感じさせていた。
どこの部屋の入口を見ていても、どこからも活気というものを感じることが出来ない。
もしもこれがあの噂のせいだとするなら……
「少し対策を考えなければいけないかもしれません」
「……?」
カイルには聞こえない程の小さな声で、ナルはそう呟いた。
だが、カイルはその噂をナルに感じさせない程に、普通の人間のように振舞っていた。
それがナルに感じさせないためなのか、それともただ普通に元からそういう人なのか……それはまだ分からない。
ただ1つ、ナルが確かなことだと言い切れることがあった。
「ナル嬢。とりあえず私の父の所へ行こう。
父上の許可なしに屋敷へ人を入れたとバレてしまったら、私が怒られてしまうからね」
それは、本当に噂はあてにならない、
ということだった──────
その呼びかけに応えるように、ナルは歩みをとめてカイル・セントリアの美しく整った瞳と視線を合わせる。
「……私に、何か用かしら?」
驚いた……噂ではカイル・セントリアは人に興味は無かったはず、特に女性に対しては。
驚いても尚、ナルは平然を装うため、カイルから視線を外さずに表情も変えない。
「急で悪いのだが……少し我が家へ寄ってくれないか?」
「え……?」
突然の家への招き……まさか、私の正体がバレている?いや、そんなことはない……か。
それにしても、セントリア公爵家からの誘いは、受けておかないと色々と怪しまれてしまうだろう。
なら……
「えぇ、ちょうど今暇していたところなの」
「そうか?それなら良かった!」
とても人間と関わらない人間と思えないほど、カイル・セントリアは屈託のない笑顔を見せた。
噂と違う……これが特別な状況なのか、それとも噂が間違っているのか?
「噂なんて、あてにならないものね」
「なんか言ったかい?」
「いえ、何も」
グラシア家にいた頃だって、私には根も葉もない噂がいくつも立てられた。両手両足の指を使っても数え切れないほどに。
全く、この国の貴族は小さな子供同士の嫌がらせが好きなの?
そんなことを考えながら、ナルはセントリア家の馬車へと乗り込む。
その時、ナルはなぜかこの馬車にいつもと違う感じがした。
「これは……」
セントリア家の馬車は、見た目や素材こそ最高級の物を使っているものの、中は広くなく、3人でギリギリ乗れるかどうかの広さだった。
平民が乗る馬車では素材は質素だけど、5、6人は乗れたはずだ。
「狭いか?普段この馬車に乗るのは私達家族しかいないから、必要がなくてこんな広さになっているんだ」
「たしかに少し狭くはありますが……むしろ少人数の方が安心しますし、フカフカで座り心地が良いです」
「そう言ってくれると助かるよ」
やっぱり、何かおかしい。噂だと、カイル・セントリアは私よりも冷徹で無慈悲で、こんなに笑顔を見せてくれるなんて、聞いていない。
それに、よく誰かと話しているかのように、話し方もほかの貴族よりも数段上だ。
距離の詰め方も上手。いつの間にか、お互いに少し砕けた口調になっている。
それはつまり、私がカイル・セントリアと話す時に安心してしまっているということ。
なぜかは分からないが……この美しい顔の奥底には、何か深刻なことを抱えている、そんな感じがしてならない。
ラン・フォン・グラシアには一度も抱かなかった感情を、ナルは出会って間もないカイル・セントリアに抱いていた。
心配、という名の感情を──
◇◇◇
「さぁ、着いたよ」
その声と共に、ナルは窓の外へと目をやる。
そこに映し出されたのは、言葉だけで表すことが難しいほど、白と水色で構成されている屋敷だった。
「この色、珍しいだろう?」
私の心を読んだかのように、カイル・セントリアは私に問いかける。
「白と水色、この2色はこのセントリア家では大切な色でね」
「大切な色?」
「そう、髪って、神と同じ発音だから、神聖なものと言うだろう?セントリア家では代々、男の子が産まれたら水色の髪、女の子が産まれたら白色の髪を持って産まれてくるんだ」
「だから、セントリア家は代々白色と水色への思い入れが強いんだよ」と話し続けるカイル様は、どこか嬉しそうだった。
「外で話すと疲れし、そろそろ中に入ろう」
カイルの声に誘われるように、ナルはカイルの後を付いて行く。
その大きなドアを潜り、中に入る。
そこに居たのは、数人のメイドと執事だった。
その一人一人が、カイル様を信頼している様子で、振る舞いだけで忠誠心が高いことが分かる。
「信頼、されているのですね」
「屋敷の中では……なんだけどね」
セントリア家に生まれた者の宿命……なのだろうか。
外では、周りからは避けられる、というか怖がられて、人間関係を築くのが難しいのだろう。
「屋敷の中だとしても、人の信頼を得ることは難しいことです」
「そうかい?それならありがたくその言葉を受け取らせてもらうよ」
シャンデリアに照らされる屋敷の中は、豪華さを感じる中に、どこか切なさを感じさせていた。
どこの部屋の入口を見ていても、どこからも活気というものを感じることが出来ない。
もしもこれがあの噂のせいだとするなら……
「少し対策を考えなければいけないかもしれません」
「……?」
カイルには聞こえない程の小さな声で、ナルはそう呟いた。
だが、カイルはその噂をナルに感じさせない程に、普通の人間のように振舞っていた。
それがナルに感じさせないためなのか、それともただ普通に元からそういう人なのか……それはまだ分からない。
ただ1つ、ナルが確かなことだと言い切れることがあった。
「ナル嬢。とりあえず私の父の所へ行こう。
父上の許可なしに屋敷へ人を入れたとバレてしまったら、私が怒られてしまうからね」
それは、本当に噂はあてにならない、
ということだった──────
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