突然「婚約破棄」と言われても、私は婚約者ではありません!

おやっつ

文字の大きさ
11 / 16
第2章:人形を辞めて人間として

11. ナルと母親と愛情

しおりを挟む
涙を流す顔は、心からの笑顔を浮かべていた──

◇◇◇

──バッ
勢い良く起き上がろうとしたナルだったが、まだ毒が抜け切っていない体は起き上がることが出来なかった。

「あの夢は……一体…」
夢の出来事を1から何まで覚えていたナルは、頑張ったら動かせる程度の右手で右頬をなぞる。

今は、涙を流していなかった。
ただなぞった時、微かにだが、乾ききっていない肌を触った時のように少し湿っていた。


それにしても……
「ここはどこかしら?」
セントリア家ではない……記憶が正しければ、ここは初めて来た場所?

──ガチャ
ナルがここがどこか考えているいた時、不意にドアが開かれた。

「あら、起きていたのね」

「あなたは……?」

「私は薬師のサラよ。平民だから家名はないけどね」
雰囲気の良い、30近くに見える女性はそう言葉を吐きながら微笑む。

薬師のサラ……聞いたことがある。
平民だと謙遜していたものの、この国1番と言われている薬師だ。

「っ……」

「まだ無理に動いちゃダメよ。毒がまだ体に残っているから」

それにしても……私はかなり毒が回っていたはず。
体は動かせないとはいえ、どうやってサラさんは私を回復させたのだろう。

「サラさんは……この毒を解毒することができるのですか?」
気がついた時には、私はそう口にしていた。
もしかしたら、サラさんならお母様を治せたのではないだろうか、そんな疑問を抱きながら。

「完全な解毒は……きっと難しいわね。ナル様は毒が回っていたとはいえ、まだ数分だけだったから。この毒を数時間……いや、20分以上吸い込んだ時点で、手の施しようが無いとおもうわ」

「……そうですか」
お母様はきっと数十日から数ヶ月にわたり毒が盛られていた。20分で手遅れなら……サラさんも治せない。手遅れだ。

それに治せたとしても……もうお母様はこの世にはいない。

「私には分からないけれど、あまり落ち込まない方が良いわよ。きっと、それを望んでいる人は多いはずだからね」

その言葉を聞いた時、ブワァッと私にまとわりついていた煙が飛んでいく感じがした。

『無理しなくていいのよ』
サラさんと私の2人きりの部屋に、どこからともなく女性の声が聞こえる。

「……お母様?」
サラさんにも聞こえないほど小さな声で呟く。
だがその声に、返事は来なかった。

「とりあえず、この薬を飲んでおいてね」
誰か分からない声に返事をした後、虚空を見つめる私を見て笑ったサラさんは、そう言いながら薬を置いて部屋を出ていこうとする。

「あ、あの……色々と、ありがとうございました」
「いいのよ、それが私の仕事だし……それに、その顔を見れただけでも私は満足だわ」

そう言いながらサラさんは部屋を出て、部屋の扉を静かに閉める。
私……そんな変な顔していたかしら?

そんな疑問を抱き、ナルはベッドの隣にある鏡で自分の顔を確認する。
その鏡に映るナルはいつもと変わらず無表情だった。

ただ……どこか少し表情が柔らかくなっただろうか、鏡を見つめるナルは、そう感じていた──

◇◇◇

日が暮れ、窓の外が綺麗な橙色に染まっていく。
その様子を、ナルは1人静かに見ていた。

「やっぱり、まだビクともしないわね……」
サラさんが部屋を出て行ってから数時間が経ち、私はようやく上体を起こすことが出来ていた。
ただ、その状態に出来ても、まだ下半身を動かすことは出来なかった。

「…………」
興味本位で足を手で触ってみたが、触られている感覚がしない。
……壊死はしてないはず。
サラさんを信じよう。

あれから度々検診に来る人も言っていたが、私の体に回っている毒の量に対して、上体を起こせているだけでも凄い回復力らしい。

「薬を飲みながら、回復するのを待つしか無い……」
結局、何もしないで安静にしているのが1番だ。
その結論に至ったナルは上体を倒し、寝転がる。

私が倒れてから起きるまで3日経ったせいだろうが、体が固まりすぎて腰や首が痛い。
今は毒よりもこっちの方がキツイかもしれない……。

そんなことを思いながら、ナルは天井を見つめる。
夕食は食べていないが、唐突に眠気が襲ってきてしまった。夜に飲まなければいけない薬もあるし、寝てはいけない。

ただ……少しだけ仮眠をとろう。
ナルは瞳を閉じて自分の世界を描き始めた──

◇◇◇

「ん~……」
グッと伸びをする。
時刻は午後8時26分、丁度いい時間だ。
つい先程持ってこられたであろう夕食と、夜に飲むための薬が机に置かれていた。

少し起きれないかも……と不安はあったが、無事に起きれてよかった。

「いただきます」
手と手を合わせてそう言うと、ナルは夕食を食べ進めていた。
やはり、1人の食事はゆっくりと食べられて好きだ。
それに今はなぜか、1人ではない……ような気がする。
すぐそこにお母様が居てくれるような。

本当に、お母様には感謝してもしきれない。
私に人を教えてくれて、笑顔を教えてくれて、楽しさを教えてくれて、人生をくれて、

「本当に、ありがとう。お母様」
その言葉は虚空に放たれ、目の前の壁へと一直線に進み誰にも聞こえず消えていく。
だが、その声は誰かに届いたようで、その人が照れくさそうに笑っている、そんな感じがした──────
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

さようなら、婚約者様。これは悪役令嬢の逆襲です。

パリパリかぷちーの
恋愛
舞台は、神の声を重んじる王国。 そこでは“聖女”の存在が政治と信仰を支配していた。 主人公ヴィオラ=エーデルワイスは、公爵令嬢として王太子ユリウスの婚約者という地位にあったが、 ある日、王太子は突如“聖女リュシエンヌ”に心を奪われ、公衆の場でヴィオラとの婚約を破棄する。 だがヴィオラは、泣き叫ぶでもなく、静かに微笑んで言った。 「――お幸せに。では、さようなら」 その言葉と共に、彼女の“悪役令嬢”としての立場は幕を閉じる。 そしてそれが、彼女の逆襲の幕開けだった。 【再公開】作品です。

婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】

キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。 それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。 もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。 そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。 普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。 マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。 彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...