突然「婚約破棄」と言われても、私は婚約者ではありません!

おやっつ

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第2章:人形を辞めて人間として

16.料理は愛情?

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「それでは……交渉成立ってことでよろしいのでしょうか?」

 辺りからすすり泣く声が静まり辺りに静寂が訪れた時、ナルはルイスに話しかける。

 「ああ…だが、店の場所は変えないでくれると嬉しいな」
 今にも消え入りそうな細い声で、ルイスは小さな願いを口にする。

 「分かりました」
 結果的にいい返事を聞くことができたナルは、少しの笑みを顔に浮かべていた。

 「本当に……ありがとうございます!」
 そんなナルの手をギュッと握りしめる温かい手がナルをホッとさせる。

 その様子はまるで絵だと勘違いしてしまいそうな光景だった。
 題名は……そうだな、ここはシンプルに『人の在り方』とかでいいだろうか――

 ♢

 いつも通り、そう、いつも通りの街道。ただ、今日はいつもよりも人が多いように感じた。
 それは取引が成功したから気分が上がって、そう感じているのかもしれないが、それにしてもこんなに活気づいてるなんて……今日は何か催しものでもあったかしら?

 「今日は公爵子息様がお帰りになられる日だ!」

 公爵子息……ここの近くの公爵家はセントリア家しかないはず、ということはカイル様のこと?

 「あの……すみません」
 どういうことか気になったナルは、1つの屋台の店主に話しかけていた。

 「公爵子息様がお帰りになられるって……どういうことなのですか?」
 ナルは店主にありのままの疑問を投げかける。

 「ん……?嬢ちゃん知らねぇのか?」
 少し驚いた様子で目を若干大きく開いた店主は、この状況について詳しく説明し始めた。

 「公爵様の噂……嬢ちゃんも知っているだろう?もちろんあんな噂、公爵領にいる奴らは信じていないが、社交界では当然不利になるらしくてな……今回のレイフェル王国の公爵の集まりで、ガーフ様の代わりにカイル様がその噂を払拭するって宣言したんだよ。今日は会議が終わってカイル様が帰ってくる日なんだ」

 なんか聞いたことのないことが沢山あるが……まあ、それはいったん置いておいて。
 あの噂……やっと、というべきか、ようやく払拭しに行ったのね……ここでガーフ様が行かなかった理由はなんとなく分かる。恐らく因縁のある貴族に歯向かえないからだろう。

 「カイル様が帰って来たぞ~!」
 
 それにしても、セントリア家の噂をセントリア家の領地の民はなんら気にしていない。
 その事実はナルにとって、少し驚きだった。というのも、このレイフェル王国に来てからセントリア家の噂はどこでも耳にしていたから。

 だが思い返してみれば、セントリア家の領地に来てから、全くというわけではないけど噂のことを話してる人はほとんど見ていない。

 「……素敵な街ですね」

 「おう!もう俺は墓に入っても、この街からは出ていかないって心に決めてるからな!」
 店主の男はそう大声で叫ぶ。その声はあまりに大きく、辺りの人々の耳にまで届いた。
 その店主の決意を聞いた人々もまた、「俺も!」「私も!」「当然だ!」と叫ぶ。

 そんな声に思わずナルはクスッと笑う。
 なぜかナルの心は自分が褒められたかのような気持ちに陥っていた。
 きっとそれは街の人々も、屋台の店主も同じ気持ちなのだろう――

 ♢

 あれから少し時は経ち、ナルはセントリア家の屋敷へと戻ってきていた。
 戻ってきてから、ナルはハル達から許可を貰えたことをガーフへと報告し、部屋で日課である日記をつけていた。

 ただ、ナルにとって1つ疑問があった。
 
 「なんだか……今日のガーフ様、いつもよりも落ち込んでいたような……?」

 ナルが報告したことは暗い内容ではなかった。だが、ナルの目に映るガーフは、いつも見せる顔よりも落ち込んでいるように見えた。

 それがなぜか……正直、ナルも答えは分かっていた。きっと、公爵家の集まりでセントリア家の噂を払拭することができなかったのだろう。

 「こういう時、どうすればいいのかしらね」
 窓から顔を覗かせている、夜空の満月に言葉を投げかける。
 ただ投げるだけ。答えは返ってこない。結局、答えを見つけるのは自分自身だから。

 「ん~……」
 顎に手をあてて、ボフッという音を立てながらベッドに身を預ける。

 こんな時、お母様やお父様だったらどうしていたのだろう。
 例えば、私が何か行き詰っていた時、お父様は何をしてくれていたのだろう。

 私は、私自身の記憶を遡る。
 
 『~~~』

 ……思い出した。
 お父様は、私が何か行き詰っていた時、よく自分でアップルパイを焼いてくれていた。
 そのアップルパイは、料理人が作ったものよりも、遥かに美味しかった。

 その時、私はお父様に聞いたことがある。なぜこんなに美味しいのかを。
 国王という立場なのだから、練習する機械などそうそうないだろうに。

 その答えは、思ったよりもシンプルだった。

 『愛情だよ』

 そう教えてくれた。

 「愛情がこもった料理……」
 我ながら、そんな料理を作ることは無理なのではないかと思う。
 
 ただ……やるしかない。
 これが私なりのガーフ様とカイル様に対する恩返しなのだから。

 そう心に決意したナルは、厨房へと向かう。作ったことはない、ただ料理人に一から教えてもらって、愛情をこめればきっと喜んでくれる、そう信じて。
 ナルは1つ、恩返しをしようとしていた────
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