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第1章 いざないの風
2 異変
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どくん、と。始めは、全身が脈打ったような気がした。肋骨までが震えるような動悸にみまわれ、激しい痛みが胸を襲った。エフィミアは声にならない呻きをあげて、たまらずその場にうずくまった。
思わず押さえた胸の辺りが、ぼうっと熱くなった。燃えさかるたいまつを押しつけられたような熱が、エフィミアの胸を焼く。吐く息さえ熱く感じられ、喉が引きつれる。あまりの息苦しさに悲鳴をあげることさえままならず、エフィミアは草の上をのた打ち回った。
胸わずらいがあったわけでもなく、他に病気をしていたわけでもない。突然のことになにが起きたか分からず、エフィミアの思考はただただ恐慌した。
吐き気すら感じ、苦痛に意識が遠のく。だが完全に意識を手放す寸前で、痛みが徐々に収まり始めた。
エフィミアは地面に横たわったまま、完全に動悸が収まるのを待った。全身は疲労し、額が脂汗でじっとりと濡れている。熱さが急速に引いていくのを感じながら、エフィミアは汗をぬぐって慎重に呼吸を整えた。
数度の深呼吸をして、上体を起こした。熱さや痛みは、もうすっかりなくなっていた。エフィミアはそっと胸に手をあてた。
(なにか、重い病気にでもかかってしまったのかしら)
今日は不可解なことばかりが起こる。竜にしろ光にしろ、胸の痛みにしろ。首をひねって考えてみるが、自身の中に答えがあるわけもない。
すぐに立つ気にもなれず考え込んでいると、不意に、がさがさと藪を掻き分ける音が聞こえた。顔を上げ、音のする方角を注視する。木立の間にいくつもの黒い人影を見つけて、エフィミアは不審に眉をひそめた。
村の人間ではない。そろいの黒服を着たいかにも物々しい数人の男たちが、黒の長靴で草を踏み分けこちらへやってくる。
先頭を歩いていたひとりが、エフィミアの存在に気づき足を止めた。あとに続いていた者たちも、従うように立ち止まる。
突如現れた異様な集団を前にして、エフィミアはなにも反応できないまま彼らを凝視した。
彼らの着ている黒い詰襟の上下は、いかにも丈夫で高価そうに見えた。上着のアクセントにもなっている銀の留め金も粋だ。腰には黒い鞘の長剣を提げ、頭に鍔つきのやはり黒い帽子をゴーグルで留めている。
なんともいえない気まずい空気に、エフィミアは次に取るべき行動を決めかねた。彼らを見たエフィミアも驚いたが、彼女を見つけた彼らも軽く目を瞠っている。
逡巡の沈黙のあと、おもむろに先頭の男がエフィミアの方へ進み出た。
一団の中で彼だけが金の襟章をつけていた。その意味を見てとる知識はエフィミアにはなかったが、彼らの内でもっとも上位者と思われた。指揮官かなにかかもしれない。
しかし、それにしては彼はずいぶん若い気がした。ぱっと見た感じでは二十代、高めに見積もっても三十には届かないだろう。ほかの者たちの方が、年上と思われる。
そうしてエフィミアが男を観察している間に、彼はすぐ傍まで歩み寄ってきた。
赤みの前髪ごしにこちらを見る眼差しは、お世辞にも目つきがいいとは言いがたく、嵐の色合いの濃灰だった。
「申しわけないが――」
見下ろして言った男に、エフィミアは座りこんだままだったことに気づき、慌てて立ち上がった。急に立ったせいで一瞬立ち暗みを起こしかけたが、なんとか堪えた。
立ってみると、彼はエフィミアよりも頭ひとつ分は背が高いことが判明した。
「その、なんでしょうか」
男は仕切り直すように咳払いをして、再び口を開いた。
「ぶしつけで申しわけないが、この辺りで白い竜を見かけなかったか」
彼の話し方は表情同様に、抑揚に欠けるものがあった。
「白い竜、ですか」
「そうだ。見た覚えはないか」
おそらく、先刻姿を消した白竜のことを言っているのだろう。しかし、こんな身分も素性も知れない、見るからにあやしい者たちに、それを教えていいものか。エフィミアは答えを躊躇した。
「失礼ですが、どちら様ですか」
尋ねた瞬間、睨まれた気がした。男の目つきに縮み上がりそうになる。
彼は伏し目がちに、声を低めて言った。
「素性の分からない者に簡単に情報を与えない、か。いい心がけだな」
これは褒められたととっていいのだろうが、エフィミアはちっともそんな気がしなかった。相手の表情が、あまりにもとぼしいせいかもしれない。
「それで、どちら様なんですか」
彼は声を少し大きくした。
「我々は王国軍の者だ。わたしはこの部隊の指揮官をしている」
エフィミアはきょとんとした。
「王国軍?」
じっくりと考える間をとってから、エフィミアはちらりとだけ前に立つ男の背後を見やり、確認のために訊いた。
「あの……もしかして、さっき上で白い竜を追いかけていた騎竜隊の方々ですか?」
男の無表情の中に、かすかながら驚きの色が見られた。
「その通りだ。どうやら見ていたようだな」
エフィミアはじわじわと顔が赤らんでくるのを自覚した。
田舎育ちの悲しき性か、不覚にもエフィミアは今日まで軍人というのがどんな格好をしているのかを知らずにきた。遠くに見かけたときに誰かが、軍人だと言っていたのを聞いたことがあるだけで、近くで見たのはこれが初めてだったのだ。騎竜隊にいたっては、竜の印象しか持っていなかった。
白い竜を見失った彼らは竜を降りて、地上の捜索をしていたに違いない。
「すみません、あたしったら……」
恥ずかしさに口ごもり、エフィミアはうつむいた。そんなエフィミアの耳に、相変わらず平板な声が届く。
「知らなかったのなら仕方がない。謝ることでもない」
エフィミアはわずかに顔を持ち上げて相手を窺い見た。
もしかしたら彼は表情がないだけで、存外に優しい人間なのかもしれない。もしくは、そういったことに興味がないか。あるいは、遠回しに田舎者をばかにしただけということもありえる。しかし、エフィミアにその判別はできなかった。
「そんなことより、君はここで我々が竜を追っていたのを見ていたんだな」
「はい」
エフィミアは深くは考えずに、偉い軍人には協力しなくてはという個人的な義務感から、彼の質問に素直に答えた――それがまた、田舎者くさいと言えなくもないことに、エフィミアは気づかなかった。
「それなら、竜が消えるところも見たか」
「はい」
「そのとき、ほかになにか見なかったか。消える前でも、あとでも。なんでも構わない」
一瞬のためらいのあとに、エフィミアは答えた。
「赤い光みたいなものを……」
エフィミアがおずおずと言うと、軍人のきりりとした眉がひそめられた。これまでの彼の表情の中で、一番変化らしい変化と言えた。
「赤い光……わたしは見ていないが、どういったものだった」
「どういったものと言われても……」
エフィミアは考え込み、先刻のことを思い出しながら説明する言葉を探した。とても口にして説明するのは難しく思われたが、迷いつつもエフィミアは口を開いた。
「竜がいなくなったあとに、それが見えて……始めは、星みたいだと思ったんです」
「星?」
エフィミアは頷いた。
「はい。星みたいな小さな光が宙に浮いていて、なにかしらと思ってそれを見てたんです。そしたら、段々こっちに近づいてきて」
「近づいてきた?」
繰り返した男の眉が、さらにひそめられた。
「あたし、それを受けとめようとしたんですけど、とり落としてしまって……気づいたときには、もうどこにもありませんでした」
エフィミアがそこまで説明し終えると、男の顔色が一変した。いかにも驚愕したようすで、これまでになく目を見開いている。エフィミアにはひどく狼狽しているように見え、彼のような人でもこんな表情をすることに驚いた。
彼は急に早口になって言った。
「そのあと、なにか起こらなかったか。体が変な感じがしたとか、どこか痛くなったとか、そういったことは」
息をのんで、エフィミアは男を見た。
「どうしてそれを……」
「やはりなにか起きたのか」
エフィミアが呟くと、彼は詰問するように肩を強くつかんだ。
軍人のあまりの気迫と目つきの鋭さに、エフィミアは身をすくませながら夢中で何度も頷いた。
「なにがあった」
軍人の声音は、とても低かった。それゆえに、エフィミアは自分が責められているような気がしてならなかった。責められるようなことをした覚えも、言った覚えもないというのに。
エフィミアは、強張りそうになる口を、必死に動かした。
「光が消えたあと、急に胸がものすごく痛くなって。それも、しばらく立てなかったくらいに。心臓が悪かったとか、そういうのはなかったんですけど……」
エフィミアの肩をつかんだまま、彼は視線をさまよわせた。
「ばかな……まさか、本当に……」
軍人はエフィミアから手を放して一歩さがると、彼女のつま先から頭の先までをじっくりと確認するように視線を動かした。その表情は険しく、ひどく深刻そうだった。彼のようすの変化に、後ろの者たちにも落ちつきがなくなってきている。
わけも分からず、エフィミアは怯えた。自分の体になにかが起きたのだろうが、それがなんなのかが分からない。そしておそらく、目の前に立って考え込んでいるようすの彼は、それを知っている。
しかしエフィミアの体調の急変と、彼らが求めている白い竜との間に、繋がりがあるとは思えない。もしあったとしても、それが歓迎できることではないであろうことは、容易に察せられた。
「あの、一体なにが起きたんですか」
男はエフィミアと視線をぴたりと合わせると、低めた声で答えた。
「おそらく、我々が想定していなかった事態になった。まさか、あいつの言うことが真実だとは……しかし……」
後半は彼のひとり言のようだった。それから彼はまた思案に入ってしまったが、さっきほど長くはならなかった。
「……やはり、確かめなくてはなんとも言えないか」
男は呟くと、再びエフィミアを見据えた。エフィミアはただただ不安に彼を見返す。
彼の口が、重たそうに動いた。
「申し訳ないが、君の体を調べさせてもらいたい」
「調べる?」
首をかしげたエフィミアの目を、男が正面から見た。
「服を脱いでもらおう」
思わず押さえた胸の辺りが、ぼうっと熱くなった。燃えさかるたいまつを押しつけられたような熱が、エフィミアの胸を焼く。吐く息さえ熱く感じられ、喉が引きつれる。あまりの息苦しさに悲鳴をあげることさえままならず、エフィミアは草の上をのた打ち回った。
胸わずらいがあったわけでもなく、他に病気をしていたわけでもない。突然のことになにが起きたか分からず、エフィミアの思考はただただ恐慌した。
吐き気すら感じ、苦痛に意識が遠のく。だが完全に意識を手放す寸前で、痛みが徐々に収まり始めた。
エフィミアは地面に横たわったまま、完全に動悸が収まるのを待った。全身は疲労し、額が脂汗でじっとりと濡れている。熱さが急速に引いていくのを感じながら、エフィミアは汗をぬぐって慎重に呼吸を整えた。
数度の深呼吸をして、上体を起こした。熱さや痛みは、もうすっかりなくなっていた。エフィミアはそっと胸に手をあてた。
(なにか、重い病気にでもかかってしまったのかしら)
今日は不可解なことばかりが起こる。竜にしろ光にしろ、胸の痛みにしろ。首をひねって考えてみるが、自身の中に答えがあるわけもない。
すぐに立つ気にもなれず考え込んでいると、不意に、がさがさと藪を掻き分ける音が聞こえた。顔を上げ、音のする方角を注視する。木立の間にいくつもの黒い人影を見つけて、エフィミアは不審に眉をひそめた。
村の人間ではない。そろいの黒服を着たいかにも物々しい数人の男たちが、黒の長靴で草を踏み分けこちらへやってくる。
先頭を歩いていたひとりが、エフィミアの存在に気づき足を止めた。あとに続いていた者たちも、従うように立ち止まる。
突如現れた異様な集団を前にして、エフィミアはなにも反応できないまま彼らを凝視した。
彼らの着ている黒い詰襟の上下は、いかにも丈夫で高価そうに見えた。上着のアクセントにもなっている銀の留め金も粋だ。腰には黒い鞘の長剣を提げ、頭に鍔つきのやはり黒い帽子をゴーグルで留めている。
なんともいえない気まずい空気に、エフィミアは次に取るべき行動を決めかねた。彼らを見たエフィミアも驚いたが、彼女を見つけた彼らも軽く目を瞠っている。
逡巡の沈黙のあと、おもむろに先頭の男がエフィミアの方へ進み出た。
一団の中で彼だけが金の襟章をつけていた。その意味を見てとる知識はエフィミアにはなかったが、彼らの内でもっとも上位者と思われた。指揮官かなにかかもしれない。
しかし、それにしては彼はずいぶん若い気がした。ぱっと見た感じでは二十代、高めに見積もっても三十には届かないだろう。ほかの者たちの方が、年上と思われる。
そうしてエフィミアが男を観察している間に、彼はすぐ傍まで歩み寄ってきた。
赤みの前髪ごしにこちらを見る眼差しは、お世辞にも目つきがいいとは言いがたく、嵐の色合いの濃灰だった。
「申しわけないが――」
見下ろして言った男に、エフィミアは座りこんだままだったことに気づき、慌てて立ち上がった。急に立ったせいで一瞬立ち暗みを起こしかけたが、なんとか堪えた。
立ってみると、彼はエフィミアよりも頭ひとつ分は背が高いことが判明した。
「その、なんでしょうか」
男は仕切り直すように咳払いをして、再び口を開いた。
「ぶしつけで申しわけないが、この辺りで白い竜を見かけなかったか」
彼の話し方は表情同様に、抑揚に欠けるものがあった。
「白い竜、ですか」
「そうだ。見た覚えはないか」
おそらく、先刻姿を消した白竜のことを言っているのだろう。しかし、こんな身分も素性も知れない、見るからにあやしい者たちに、それを教えていいものか。エフィミアは答えを躊躇した。
「失礼ですが、どちら様ですか」
尋ねた瞬間、睨まれた気がした。男の目つきに縮み上がりそうになる。
彼は伏し目がちに、声を低めて言った。
「素性の分からない者に簡単に情報を与えない、か。いい心がけだな」
これは褒められたととっていいのだろうが、エフィミアはちっともそんな気がしなかった。相手の表情が、あまりにもとぼしいせいかもしれない。
「それで、どちら様なんですか」
彼は声を少し大きくした。
「我々は王国軍の者だ。わたしはこの部隊の指揮官をしている」
エフィミアはきょとんとした。
「王国軍?」
じっくりと考える間をとってから、エフィミアはちらりとだけ前に立つ男の背後を見やり、確認のために訊いた。
「あの……もしかして、さっき上で白い竜を追いかけていた騎竜隊の方々ですか?」
男の無表情の中に、かすかながら驚きの色が見られた。
「その通りだ。どうやら見ていたようだな」
エフィミアはじわじわと顔が赤らんでくるのを自覚した。
田舎育ちの悲しき性か、不覚にもエフィミアは今日まで軍人というのがどんな格好をしているのかを知らずにきた。遠くに見かけたときに誰かが、軍人だと言っていたのを聞いたことがあるだけで、近くで見たのはこれが初めてだったのだ。騎竜隊にいたっては、竜の印象しか持っていなかった。
白い竜を見失った彼らは竜を降りて、地上の捜索をしていたに違いない。
「すみません、あたしったら……」
恥ずかしさに口ごもり、エフィミアはうつむいた。そんなエフィミアの耳に、相変わらず平板な声が届く。
「知らなかったのなら仕方がない。謝ることでもない」
エフィミアはわずかに顔を持ち上げて相手を窺い見た。
もしかしたら彼は表情がないだけで、存外に優しい人間なのかもしれない。もしくは、そういったことに興味がないか。あるいは、遠回しに田舎者をばかにしただけということもありえる。しかし、エフィミアにその判別はできなかった。
「そんなことより、君はここで我々が竜を追っていたのを見ていたんだな」
「はい」
エフィミアは深くは考えずに、偉い軍人には協力しなくてはという個人的な義務感から、彼の質問に素直に答えた――それがまた、田舎者くさいと言えなくもないことに、エフィミアは気づかなかった。
「それなら、竜が消えるところも見たか」
「はい」
「そのとき、ほかになにか見なかったか。消える前でも、あとでも。なんでも構わない」
一瞬のためらいのあとに、エフィミアは答えた。
「赤い光みたいなものを……」
エフィミアがおずおずと言うと、軍人のきりりとした眉がひそめられた。これまでの彼の表情の中で、一番変化らしい変化と言えた。
「赤い光……わたしは見ていないが、どういったものだった」
「どういったものと言われても……」
エフィミアは考え込み、先刻のことを思い出しながら説明する言葉を探した。とても口にして説明するのは難しく思われたが、迷いつつもエフィミアは口を開いた。
「竜がいなくなったあとに、それが見えて……始めは、星みたいだと思ったんです」
「星?」
エフィミアは頷いた。
「はい。星みたいな小さな光が宙に浮いていて、なにかしらと思ってそれを見てたんです。そしたら、段々こっちに近づいてきて」
「近づいてきた?」
繰り返した男の眉が、さらにひそめられた。
「あたし、それを受けとめようとしたんですけど、とり落としてしまって……気づいたときには、もうどこにもありませんでした」
エフィミアがそこまで説明し終えると、男の顔色が一変した。いかにも驚愕したようすで、これまでになく目を見開いている。エフィミアにはひどく狼狽しているように見え、彼のような人でもこんな表情をすることに驚いた。
彼は急に早口になって言った。
「そのあと、なにか起こらなかったか。体が変な感じがしたとか、どこか痛くなったとか、そういったことは」
息をのんで、エフィミアは男を見た。
「どうしてそれを……」
「やはりなにか起きたのか」
エフィミアが呟くと、彼は詰問するように肩を強くつかんだ。
軍人のあまりの気迫と目つきの鋭さに、エフィミアは身をすくませながら夢中で何度も頷いた。
「なにがあった」
軍人の声音は、とても低かった。それゆえに、エフィミアは自分が責められているような気がしてならなかった。責められるようなことをした覚えも、言った覚えもないというのに。
エフィミアは、強張りそうになる口を、必死に動かした。
「光が消えたあと、急に胸がものすごく痛くなって。それも、しばらく立てなかったくらいに。心臓が悪かったとか、そういうのはなかったんですけど……」
エフィミアの肩をつかんだまま、彼は視線をさまよわせた。
「ばかな……まさか、本当に……」
軍人はエフィミアから手を放して一歩さがると、彼女のつま先から頭の先までをじっくりと確認するように視線を動かした。その表情は険しく、ひどく深刻そうだった。彼のようすの変化に、後ろの者たちにも落ちつきがなくなってきている。
わけも分からず、エフィミアは怯えた。自分の体になにかが起きたのだろうが、それがなんなのかが分からない。そしておそらく、目の前に立って考え込んでいるようすの彼は、それを知っている。
しかしエフィミアの体調の急変と、彼らが求めている白い竜との間に、繋がりがあるとは思えない。もしあったとしても、それが歓迎できることではないであろうことは、容易に察せられた。
「あの、一体なにが起きたんですか」
男はエフィミアと視線をぴたりと合わせると、低めた声で答えた。
「おそらく、我々が想定していなかった事態になった。まさか、あいつの言うことが真実だとは……しかし……」
後半は彼のひとり言のようだった。それから彼はまた思案に入ってしまったが、さっきほど長くはならなかった。
「……やはり、確かめなくてはなんとも言えないか」
男は呟くと、再びエフィミアを見据えた。エフィミアはただただ不安に彼を見返す。
彼の口が、重たそうに動いた。
「申し訳ないが、君の体を調べさせてもらいたい」
「調べる?」
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