羅刹伝 雪華

こうた

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第二十八章-新たな副隊長-

第186話「退却」

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「真哉さんと千尋さんも勝ったようですね」
 優月と雷斗、白煉と堅固による、羅刹と冥獄鬼の戦いを見守っていた惟月は、よそでの戦いの結果にも気がついたようだ。
 街中に現れた冥獄鬼は、その大半が優月たちの仲間によって倒された。
 残るは白煉と堅固だ。
 こちらも決着は近づいている。
 雷斗が戰戻を使うまでもなく、敵の神気が尽きかけているのだ。
 優月は傷だらけだが、霊気は残っている。雷斗に至っては傷一つ負っていない。
 優月と白煉の一騎討ちなら危ないところだった。しかし、雷斗が堅固と戦いながらも、隙を見て白煉に霊法を放ってくれたおかげで優位に立つことができた。
「さすがは大霊極……。このままで倒せる相手ではないか……」
 苦々しそうに漏らされた白煉のセリフ。なにか奥の手があるものと取れる。
 白煉は、剣から放つ白い炎と、攻撃を吸収・反射する盾の能力、堅固は岩石を自らの武器として操る能力を駆使して戦っていたが、まだ別の力があるとしたら、それを出させるべきではない。
 優月は氷河昇龍破をまとった刀で白煉に斬りかかる。
 白煉はそれを盾で受け止めた。
 こちらの力が反射されてくるが、霊刀・雪華からさらなる霊気を放つことで、盾を押していく。
 沙菜の霊子吸収にも吸収量の限界があると聞いた。ならば、この盾にも限界を超える量の霊気を叩き込めば――。
「くっ……。まさか貴様にもここまでの力があるとは……」
 優月の全力を受けた白煉の盾は砕け散った。
(いける――)
 こちらが勝機をつかんだと思ったが、向こうも同じことを感じたらしい。
 白煉と堅固、それぞれの背後に界孔が開いた。
「今日はここまでです。雷斗様、いずれまた、まみえましょう」
 そう言い残し界孔に入った白煉。
 追撃しようとする優月だが。
「やめておけ」
「雷斗さま……?」
「獄界内部にあふれる業火……貴様のごとき人間に耐えられるものではない」
 警告した雷斗は剣を納める。
 下手に敵の有利な空間に立ち入るべきではないということか。
 ここで雷斗が自分を止めてくれたことには小さな感動を覚える。
(もしかして、わたしのことも少しは心配してくれてるのかな……?)
 安心したせいか、足がふらついて倒れそうになったので、刀を杖代わりにして体勢を維持した。
「お二人共、ご無事で何よりです」
 惟月が優月のそばに歩み寄る。
「惟月さん……」
「じっとしていてください。傷を治します」
 惟月の治癒術で優月はみるみるうちに回復していった。
 ケガをしないに越したことはないが、こうして治療してもらうのは心地良い。
「無事か、優月!」
 洋風の羅刹装束をまとった涼太が、こちらに合流してきた。
「さすがに雷斗様がいて負けることはないでしょう」
 沙菜もだ。
「涼太は大丈夫だった……?」
 不安げに尋ねる優月に対し涼太は胸を張った。
「治療してもらうまでもなく、かすり傷一つ負わずに勝ったぞ」
 涼太の見せた自信が、ハッタリや、自己犠牲のための優しいウソでなくて良かった。
「あれ? 涼太、ちょっと大きくなった?」
 優月の記憶が正しければ涼太の身長は、ここ数年変わっていなかったはず。
 久々に成長したなら、めでたいことだ。
 喜ぶかと思いきや、すねに蹴りを入れられた。
「なんで……」
「ちょっとじゃねえ! 三センチも伸びてるだろうが!」
 『ちょっと』が余計だった。こうしたミスをやりがちなのが優月の欠点だ。
「そんな優月さんに『失言王しつげんおう』の称号を差し上げましょう」
 沙菜がよく分からないことを言い出した。
「別にいらないですけど……」
「素直に『ノー』と言える。やはり優月さんは私を親友と認めていますね」
「まあ、沙菜さんがそう思うなら……」
「ちなみに涼太さんの身長は、羅刹化で一時的に伸びてるだけですよ。低身長ファンも安心ですね」
「なんでそんなこと知ってる!」
 涼太の正拳突きが沙菜の腹に打ち込まれる。
「ぐふっ……。いいパンチです……」
 沙菜は抜け目がないので、優月と違い、わざとやっているのだろう。
「しかし、なんで私には腹パンなのに優月さんには急所蹴りなんですか。私にもやってくださいよ」
 向こうずねは確かに急所だが、表現がいやらしい。相変わらず沙菜は変態だ。
「これは優月専用だ」
「そ、そうなの……?」
 蹴られるのは痛いが、専用と言われると、特別扱いされている感じがしてうれしいのは、自分も変態だからか。
「ふふっ。姉弟仲がよろしいんですね」
 優月たちを見る惟月の眼差しは、どこまでも純粋で温かい。
 対比されて、優月の胸の内にあるものが、ひどく邪に思えるほど。
「くだらん……」
 雷斗は、茶番に付き合う気はないとばかりに、一人、蓮乗院家の方へ帰っていった。
 ひとまず脅威は去った。だが、敵の目的は見えていない。幹部と思しき白煉を倒しきれていないことから考えても、まだ冥獄鬼との戦いは終わっていない。
 敵の真の目的が判明した時、自分たちは勝利をつかめるのだろうか。


第二十七章-羅刹VS冥獄鬼- 完
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