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噂の彼女と魔力制御

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昼休み中に聞いた噂は本人がルークと一緒に食堂へやってきたこともあり人違いだろうということとなり
思ったよりもあっさりとお開きとなった

ゲームでも、ここでも彼女は見る限り王太子一筋のようだ
ゲーム内でのルーク・ソレイユは人当たりもよく優しいが、幼い頃から共に育った婚約者のことを妹のように見ているキャラクターだった
イベントで度々ヒロインと遭遇しては、運悪く婚約者にその場面に出くわし浮気されたと勘違いされる
先程の噂とは真逆の状態だ
当初はヒロインのこともあまり興味がないのだが、自分のせいで取り囲まれ罵倒される場面に遭遇してから
健気なヒロインへの同情が徐々に恋心へと変化する
彼は一度好きになった相手を一途に愛し
親が勧めた婚約を解消しようとするが
それにより更にいじめが激化してしまうのだ
その結果、犯罪レベルのことをしでかした彼女の婚約は解消となりヒロインと結婚する

ミラには虐めなど会って欲しくないし
外聞的にも婚約者のいる男性と恋に落ちて横取りなどしてほしくはない
幸い入学式以降、数カ月たった今も王太子との接触もないようだ
もちろん私も無い

ケイラ・マディソンは他の攻略者のライバルとして出てくるものの
取り巻きを引き連れ、ヒロインを裏庭に呼び出し「爵位的に釣り合わない」などと少し小言を言う程度
本格的に危害を加えたりするのは王太子ルートだけだった⋯


午後の木属性の授業中
相変わらず私はゲームでの悪役令嬢ケイラ・マディソンに睨まれている
なんでだ⋯
お手洗いでたまたま居合わせたときに
廊下で落としたハンカチを拾ったのがいけなかったのだろうか
ニーナの記憶では友達作りにと招待されたお茶会以降、それ以外で接触した記憶がない
そのときに何かやらかしたのなら今ごろこの学園には通えていないだろう
ゲームでは、授業中睨んでくることなどなかった気がする
彼女は人前で敵意をむき出しにするようなキャラクターではないはず…

それにあのときは「⋯ありがとう」と美しく微笑んでいたではないか⋯
私の気のせいだったのだろうか?
一体なにが彼女の気に触っているんだ
今日も視線に気が付かないふりをして凌ぐ
授業を受けているが、憎しみすら感じる視線にそろそろ体に穴が開きそうだ

授業が終わり暫くすると睨みタイムは終了
いつも私に話しかけるようなことも呼び出しもなく
取り巻きが迎えに来ては、どこかへ消えていく
彼女の帰り際、ちらりと様子を伺えば
時々目が合うが睨まれるわけではなく
すぐにふいと逸らされるのだ
本当に何なんだろう

あまり噂にはなっていないものの
もうリリィは知っているだろう
私はミラに“このこと”はひた隠しにしている
いずれバレてしまうかもしれないが、心配かけたくないのだ
それに私にヘイトが向いている間は
ミラには向かないだろう

次の日も変わらず授業が始まると睨まれている
「いやぁ⋯怖い怖い、今日も睨まれてるねぇ⋯僕達」
公爵家のご令嬢に睨まれているというのに
ヘらりと笑うこの人は、私を不憫に思ってか同じ公爵位なので怖くないのか
いつも魔力制御の訓練のペアになってくれている公爵家嫡男、アール・ヘデラ
銀髪に黒い瞳の男性だ
いつも何故か私の隣の席に座り、教室に少し早くついたときくらいだが時々話しかけてくる
彼はゲームではいなかったが⋯
リリィが言っていたことだが
見目と家柄が良いために女生徒に人気らしい

もしかしてこの人とペアを組んでいるから睨まれているのだろうか?
私と彼は知り合い程度の関係だ
授業中以外では、少ししか話したことがない
たしかに見目はいい方のようだが
私個人としては、この人のことは少し苦手だ
なんでだろうか…言葉に出来ない不快感
これが生理的に無理ってやつなんだろうか

今日は珍しく訓練中に話しかけてくるアール
「ねぇ、僕達さ⋯割と気が合うと思うんだよね」
「⋯⋯そう、ですか?」
殆ど言葉を交したことがないのに
いったい何を言い出すんだこいつは
「僕ね、割とこういう直感?っていうの?当たるんだ」
私のひきつった顔を見ても気にすることなく続ける
「だからさ僕達、よかったら とも────」
アールの言葉を遮るようにパァン!と弾ける音

なんて言ったんだろう?
後半がよく聞こえなかった
「キャアッ!ごめんなさい!やだ、大丈夫?」
と言う声と
「ふふっ大丈夫よぉ!びっくりしたねぇ」という別の女生徒の声がする彼女達の足元には花が数個落ちている
叫び声はケイラの声だ
まだ制御がうまくできないようだ
膨大と言うほどでは無いものの
普通の人より多いからか、なかなかに大変そうである

「⋯あの⋯ごめんなさい、よく聞こえなくて」
「⋯いや、いいんだ気にしないで」
私の言葉にニコッと笑っている

私は普通の人より少し少ないので
平均的に考えれば比較的早い方だろう
ミラは反対に普通よりも少し多めだから心配だなぁ⋯
暴発とかしてないといいが
人によるが感情の起伏で暴走したりと危険だったりするので
基礎の段階が重要になる
幼い頃に検査をして魔力を持っている子は
皆神殿で魔封じの魔法をかけられ
精神面がある程度落ち着いた17歳になると
自然に解除されこの学園に入学することになる
最初の1年間はひたすら魔力制御
2年目からは使い方を学び
2年目の後半~3年目は自在に使えるようになるように杖を用いた実地訓練と座学になる
3年目になると今までバラバラに受けていた授業も広い円型の教室に代わり
属性関係なく一緒に受けることになる
4年目と5年目の2年は義務ではないため
自分の能力を高めたい人や研究したい人が残っていたりする
殆どの人は3年目で卒業し出ていく
女性の場合は家庭の事情などもあり
最初の1年だけは義務なので
1年間在籍し卒業はせず政略結婚とか、ここで出会い恋愛の末に相手の卒業に合わせて退学したりする人も多い

私はまだ一年生なので制御の訓練をしているわけだ
魔力は血液のように全身を循環しているらしいのだが
例えるなら水の入ったボールがあるとして強い感情でグラついたりしてこぼれたり
人によっては水量が突然増えて溢れたりしてしまう人がいたりする
その結果その人の周りでおかしな現象がおきたりするのだ
属性や魔力の量に左右されるが
その人を中心に風が起きたり植物が生えたり、体が熱くなったりと
そういう事故を起こさないため訓練しているわけだ
今はペアになった人と手をつなぎ相手の魔力を感じ
自分の流れている魔力がどのくらいの器なのか感じ取り
グラグラしている部分を落ち着かせるために
器の形を変形させたり
無意識でも制御できるよう蓋をする癖をつけるような感覚をつかむ訓練をしているのだ
自分の魔力の流れを感じ取るのは
初心者には難しいので、人の魔力の流れを感じながらやると効率がいいと先生は言う

ケイラのペアは魔力同士がぶつかってしまったのだろう
音は意外と大きかったが二人とも怪我などはなくそんなに大したことはなさそうで良かった

その後私達は、黙々と練習しチャイムがなり
今日の授業がいつも通り終わった

まだあと三時間は水属性の授業がある
迎えに行くには早すぎるな⋯
どこで時間を潰そうか?
そういえば私、あそこ行ってみたいんだよな
校舎裏の雨の間
なんとも不自然な位置にぽつんと木の扉があるのだが、そこからいけるのだ
ずっと雨が降り続く少し広めの庭のような場所で前世から私は雨音が好きだったので気になっていた
そこで1時間ほど休憩すると魔力が回復する不思議スポットでもある

さて、目的地は決まった!行きますか…と歩きだそうとしたら
ハシっと誰かに腕を掴まれた

「ニーナ・コーリーさん、少しお話があるの⋯お時間よろしいかしら?」

だいぶ後ろの席からいつも睨んできていた彼女が
この時初めて話しかけてきた
ゲームとは違い取り巻きは居ない
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