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翌日、一限の教室に入ると普段と空気が異なっていた。
いつもなら俺が入ってきてもクラスメイトはちらっと見る程度なのに、今日はじろじろ見られている。
「……ん?」
なんだろう? と不思議に思いつつも、昨日の今日でまだ俺の誤解が解けていないのかな? とげんなりした。
アデルがあんなにわざとらしく誤解を解いてくれたのに……それでもまだ俺が悪い感じ?
不躾に刺さる視線に呆れながら、いつもの窓際の定位置に座る。とそのとき、アデルがあくびをして入ってきた。
すると一気にざわめきが大きくなる。
「ねぇ、やっぱりそうなのかな……」
「いや、でもありえないでしょ……」
……うん? みんな何の話をしているんだ?
耳を澄まして会話を聞こうとするけれど、うまく聞こえない。ちょっと身を乗り出して聞こうとしていたら、いつの間にかアデルが隣の席まで来ていた。
「おはようセム。おっ、顔腫れてなくてよかったね」
「う、うん……その、昨日はありがとう」
アデルに目元を指で触られ、少し鼓動が早くなる。
結局昨日は、俺が泣き止むまでアデルはずっとハグをしてくれていた。強く抱きしめるようなやつじゃないけど、優しく包まれる温かさはまだ鮮明に覚えている。
だからちょっと気まずい。普段人に見せないような姿を晒してしまったし、正直恥ずかしすぎてアデルの記憶を消したい。
でもアデルは特段気にしていないようで、昨日も「目元冷やして寝るんだよ~」と言って帰っていった。
俺はその言葉に最後まで「……うん、ありがとう」としか返せていない。
「いやぁ……でもさすがに噂できちゃったかー」
「……え?」
俺は昨日のことを思い出していた意識を現実に戻す。
隣でアデルは頭の後ろで腕を組んで、「うーん」と何か考えているようだった。
「いや、ね。昨日セムを会場から引っ張ってきちゃったからさ……」
え? なんのこと? と首を傾げている間に、クラスメイトの囁きが聞こえてくる。
「……ねぇ、さっき見た? アデル様、セム様の顔を触ってたわよ」
「やっぱりただのクラスメイトにしては距離が近いわよね……?」
「いや、でも恋仲はありえなくない……?」
俺は聞こえてきた噂話に、やっと事態が飲み込めてきた。
も、もしかしてこれって……!
「浮気の噂が立っちゃったね……」
アデルにとってはいいことなはずなのに、なぜか当の本人は嫌そうに呟く。
たしかにあそこで俺を助けたら、仲の良さを疑われるのは必然。逆に今まで疑われなかったのが不思議だ。
えっ、じゃあ、アデルは浮気の噂を広めるために、俺を助けたってこと!?
ばっとアデルを見る。でもその顔には嬉しそうな笑顔はなくて、苦々しげに眉間に皺を寄せているアデルがいた。
「……噂、広まるの嫌なの?」
思わず、聞いてしまう。アデルはわずかに目を見開いたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「なに? セムは広まって欲しいの?」
「いや、俺はもちろん嫌だけどさ……」
「じゃあ僕も。まだ噂を広めるのは早いかなー」
そう言って微笑むアデルの顔に、俺はほっと安堵する。
よかった……アデルは純粋に俺を助けたかったんだ……
……って! ちょっと待てっ!
俺はアデルから目を逸らし、自分自身に盛大につっこむ。
なに? アデルがどういう理由で俺を助けようと、関係なくない!?
でも俺を心配して助けてくれたのは嬉しいわけで……
いやいやっ! アデルと俺は利害関係の仲であって、だから助けてくれたんだし……
けど昨日、アデルは俺を助けたい一心で……って言ってたよね? じゃあやっぱり純粋にアデルの優しさで……?
「まぁ来週から期末試験でこんな噂もなくなるでしょ」
「え? あ、うん、そうだね……?」
いや、アデル的にはなくなったらダメでしょ! とは言えずに、俺は一人アデルの行動に頭を悩ませた。
いつもなら俺が入ってきてもクラスメイトはちらっと見る程度なのに、今日はじろじろ見られている。
「……ん?」
なんだろう? と不思議に思いつつも、昨日の今日でまだ俺の誤解が解けていないのかな? とげんなりした。
アデルがあんなにわざとらしく誤解を解いてくれたのに……それでもまだ俺が悪い感じ?
不躾に刺さる視線に呆れながら、いつもの窓際の定位置に座る。とそのとき、アデルがあくびをして入ってきた。
すると一気にざわめきが大きくなる。
「ねぇ、やっぱりそうなのかな……」
「いや、でもありえないでしょ……」
……うん? みんな何の話をしているんだ?
耳を澄まして会話を聞こうとするけれど、うまく聞こえない。ちょっと身を乗り出して聞こうとしていたら、いつの間にかアデルが隣の席まで来ていた。
「おはようセム。おっ、顔腫れてなくてよかったね」
「う、うん……その、昨日はありがとう」
アデルに目元を指で触られ、少し鼓動が早くなる。
結局昨日は、俺が泣き止むまでアデルはずっとハグをしてくれていた。強く抱きしめるようなやつじゃないけど、優しく包まれる温かさはまだ鮮明に覚えている。
だからちょっと気まずい。普段人に見せないような姿を晒してしまったし、正直恥ずかしすぎてアデルの記憶を消したい。
でもアデルは特段気にしていないようで、昨日も「目元冷やして寝るんだよ~」と言って帰っていった。
俺はその言葉に最後まで「……うん、ありがとう」としか返せていない。
「いやぁ……でもさすがに噂できちゃったかー」
「……え?」
俺は昨日のことを思い出していた意識を現実に戻す。
隣でアデルは頭の後ろで腕を組んで、「うーん」と何か考えているようだった。
「いや、ね。昨日セムを会場から引っ張ってきちゃったからさ……」
え? なんのこと? と首を傾げている間に、クラスメイトの囁きが聞こえてくる。
「……ねぇ、さっき見た? アデル様、セム様の顔を触ってたわよ」
「やっぱりただのクラスメイトにしては距離が近いわよね……?」
「いや、でも恋仲はありえなくない……?」
俺は聞こえてきた噂話に、やっと事態が飲み込めてきた。
も、もしかしてこれって……!
「浮気の噂が立っちゃったね……」
アデルにとってはいいことなはずなのに、なぜか当の本人は嫌そうに呟く。
たしかにあそこで俺を助けたら、仲の良さを疑われるのは必然。逆に今まで疑われなかったのが不思議だ。
えっ、じゃあ、アデルは浮気の噂を広めるために、俺を助けたってこと!?
ばっとアデルを見る。でもその顔には嬉しそうな笑顔はなくて、苦々しげに眉間に皺を寄せているアデルがいた。
「……噂、広まるの嫌なの?」
思わず、聞いてしまう。アデルはわずかに目を見開いたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「なに? セムは広まって欲しいの?」
「いや、俺はもちろん嫌だけどさ……」
「じゃあ僕も。まだ噂を広めるのは早いかなー」
そう言って微笑むアデルの顔に、俺はほっと安堵する。
よかった……アデルは純粋に俺を助けたかったんだ……
……って! ちょっと待てっ!
俺はアデルから目を逸らし、自分自身に盛大につっこむ。
なに? アデルがどういう理由で俺を助けようと、関係なくない!?
でも俺を心配して助けてくれたのは嬉しいわけで……
いやいやっ! アデルと俺は利害関係の仲であって、だから助けてくれたんだし……
けど昨日、アデルは俺を助けたい一心で……って言ってたよね? じゃあやっぱり純粋にアデルの優しさで……?
「まぁ来週から期末試験でこんな噂もなくなるでしょ」
「え? あ、うん、そうだね……?」
いや、アデル的にはなくなったらダメでしょ! とは言えずに、俺は一人アデルの行動に頭を悩ませた。
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