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しかし頭を悩ませる暇もなく、期末試験期間に突入した。有難いことに俺は普段から勉強しているタイプなので焦る必要はないけれど、他の学生たちは忙しそうだ。
おかげで噂も少し減った。アデルからしたら減っちゃいけないはずだけど、本人はどこか満足げだった。
だがそれも三日前とかの話だ。アデルとは全ての試験が一緒なわけではなく、ここ最近は会ってすらいない。
そんなこんなでお互い試験に追われるなか、俺が試験終わりに魔法薬学第二準備室に訪れると、ソファで寝ているアデルがいてびっくりした。
「うわっ、どうしたの? 体調悪いの?」
「うーん? うん、まぁそんな感じ。でも寝てれば治るから、ちょっとここで休ませて」
アデルは本当に体調が悪いのか、腕を目に当てて荒い呼吸をする。首筋に汗が垂れ、熱があるのは一目瞭然だった。
「風邪? それとも疲れかな……でもアデル、ここで寝てるより医務室に行ったほうが……」
「医務室に行ったら余計悪化するから大丈夫。最近筆記試験ばかりで魔法を使って無かったから……多分そのせいだし」
「……あ、そうなんだ……」
と言いつつ、何も理解できなかった。
医務室に行って悪化する? 筆記試験ばかりで魔法を使って無かったから……?
どう考えても医務室に行って、治癒魔法でちゃちゃっと直してもらったほうがいいはずだ。それに魔法を使ってないことと、風邪が関係あるとは思えないし……
でもひどく体調が悪そうなアデルに再度問い返すのははばかられた。
本人も大丈夫って言ってるし、薬学ノートだけ取って帰るか……
なるべく音を立てないように引き出しを開け、ノートを取り出す。けれど苦しそうなアデルの息づかいが部屋に響いて、ノートを取り出す手が止まった。
「…………アデル、熱がある感じなの?」
「……うん、まぁ」
怠そうに返事をする声音に、いつもの軽快な元気はない。
俺は別の引き出しを開け、くるっと丸まった茶色の葉っぱを取り出した。
「……気休めにしかならないけど……」
葉にたっぷり水を染み込ませて、軽くはたく。手のひらぐらいの大きさまで広がった葉は、空気に触れたことでひんやりと冷たくなった。
「……アデル、ちょっと触るよ」
目元に置いておいた腕を取ると、今にも燃えてしまいそうなほど熱くて目を見開く。
……どうしてこんなに辛いのに、医務室に行かないんだろう。
苦しげに震える金のまつ毛に問いかけたい。でも今はその気持ちを抑えて、おでこに葉っぱをのせた。
するとわずかにアデルの目が開く。
「…………いいのに、放っておいて」
「だって……」
アデルは俺が辛いとき助けに来てくれた。なのに俺はちゃんと感謝も言えていない。
たったこれだけでちゃらになるとは思わないけど、少しでもできることがあるなら、してあげたかった。
「……最近セム優しいね」
「えっ」
「ふふっ、なんでもない…………少し寝たら僕も帰るから、セム先帰っていいよ」
黄金の瞳が再び閉じられる。でもやっぱり魔法薬草じゃ気休めにしかならないのか、汗は引いていないようだった。
……俺が、魔法が使えれば……
そしたらアデルの熱を直してあげられるのに。けれどできないものはできない。
俺はせめてもと思って、葉っぱに触れた冷たい手で、アデルの両手を握った。
——どうか、少しでも楽になりますように。
魔法なんて使ったことないけれど、前にアデルがやってくれた治癒魔法を想像して手を握る。
たしかあのときは温かい魔法が体に流れてきて……
いやでも今のアデルは熱そうだから、温かい魔法を流すより、熱を吸い取るイメージのほうがいいのか?
うーん……わかんないなぁ。まぁどうせできないし、早く治ることだけを考えよう。
そう思って俺は、目を閉じて手の感覚に意識を集中させた。
おかげで噂も少し減った。アデルからしたら減っちゃいけないはずだけど、本人はどこか満足げだった。
だがそれも三日前とかの話だ。アデルとは全ての試験が一緒なわけではなく、ここ最近は会ってすらいない。
そんなこんなでお互い試験に追われるなか、俺が試験終わりに魔法薬学第二準備室に訪れると、ソファで寝ているアデルがいてびっくりした。
「うわっ、どうしたの? 体調悪いの?」
「うーん? うん、まぁそんな感じ。でも寝てれば治るから、ちょっとここで休ませて」
アデルは本当に体調が悪いのか、腕を目に当てて荒い呼吸をする。首筋に汗が垂れ、熱があるのは一目瞭然だった。
「風邪? それとも疲れかな……でもアデル、ここで寝てるより医務室に行ったほうが……」
「医務室に行ったら余計悪化するから大丈夫。最近筆記試験ばかりで魔法を使って無かったから……多分そのせいだし」
「……あ、そうなんだ……」
と言いつつ、何も理解できなかった。
医務室に行って悪化する? 筆記試験ばかりで魔法を使って無かったから……?
どう考えても医務室に行って、治癒魔法でちゃちゃっと直してもらったほうがいいはずだ。それに魔法を使ってないことと、風邪が関係あるとは思えないし……
でもひどく体調が悪そうなアデルに再度問い返すのははばかられた。
本人も大丈夫って言ってるし、薬学ノートだけ取って帰るか……
なるべく音を立てないように引き出しを開け、ノートを取り出す。けれど苦しそうなアデルの息づかいが部屋に響いて、ノートを取り出す手が止まった。
「…………アデル、熱がある感じなの?」
「……うん、まぁ」
怠そうに返事をする声音に、いつもの軽快な元気はない。
俺は別の引き出しを開け、くるっと丸まった茶色の葉っぱを取り出した。
「……気休めにしかならないけど……」
葉にたっぷり水を染み込ませて、軽くはたく。手のひらぐらいの大きさまで広がった葉は、空気に触れたことでひんやりと冷たくなった。
「……アデル、ちょっと触るよ」
目元に置いておいた腕を取ると、今にも燃えてしまいそうなほど熱くて目を見開く。
……どうしてこんなに辛いのに、医務室に行かないんだろう。
苦しげに震える金のまつ毛に問いかけたい。でも今はその気持ちを抑えて、おでこに葉っぱをのせた。
するとわずかにアデルの目が開く。
「…………いいのに、放っておいて」
「だって……」
アデルは俺が辛いとき助けに来てくれた。なのに俺はちゃんと感謝も言えていない。
たったこれだけでちゃらになるとは思わないけど、少しでもできることがあるなら、してあげたかった。
「……最近セム優しいね」
「えっ」
「ふふっ、なんでもない…………少し寝たら僕も帰るから、セム先帰っていいよ」
黄金の瞳が再び閉じられる。でもやっぱり魔法薬草じゃ気休めにしかならないのか、汗は引いていないようだった。
……俺が、魔法が使えれば……
そしたらアデルの熱を直してあげられるのに。けれどできないものはできない。
俺はせめてもと思って、葉っぱに触れた冷たい手で、アデルの両手を握った。
——どうか、少しでも楽になりますように。
魔法なんて使ったことないけれど、前にアデルがやってくれた治癒魔法を想像して手を握る。
たしかあのときは温かい魔法が体に流れてきて……
いやでも今のアデルは熱そうだから、温かい魔法を流すより、熱を吸い取るイメージのほうがいいのか?
うーん……わかんないなぁ。まぁどうせできないし、早く治ることだけを考えよう。
そう思って俺は、目を閉じて手の感覚に意識を集中させた。
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