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25.街へのお出かけ2
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街に着いた私たちは、私の願いでクラヴィスに渡す練習のお礼を探すことになった。
「クラヴィスは今、欲しいものはありますか?」
「欲しいものか、特に思いつかないな。しかし……」
クラヴィスが目線を近くのカフェに向けた。
「最近、甘いものを食べていなかったから、久しぶりに食べたいかな。マリーナ、付き合ってくれないか?」
プレゼントは物を渡すことを想定していたので、私は少し驚いてしまった。
「そんなことでよろしいのですか?」
「……んー、マリス国ではあんまり街を気軽に出歩ける状況じゃなかったから」
「え……」
私が聞き返そうとすると、クラヴィスはそれ以上私が詮索しないように「一緒にお茶を出来るだけで嬉しいよ」と微笑んだ。
カフェに入ると、クラヴィスがメニューを物珍しそうに眺めている。
「マリーナは好きなデザートはあるの?」
「私はスコーンが好きですわ」
「へー、いいね。私もスコーンしようかな」
「クラヴィスは普段甘いものはあまり食べられないのですか?」
「沢山食べる方ではないけれど、たまに今日みたいに食べたくなる時があるんだ。甘いものは疲れも取れるだろう?」
小さなことでもクラヴィスのことを知れる機会があることが嬉しかった。
クラヴィスはあまり自分のことを話さないから。
カフェで美味しいスコーンを頂いた私たちは、店を出て次に行く場所を探していた。
その時、クラヴィスに通りかかった女性が声をかけた。
「あの……!もしよければ、一緒に……」
クラヴィスは爽やかに断っていたが、どこか近くにいることが気まずくて、私は数歩だけ下がっていた。
その時、路地裏から「助けて!」と女性の小さな声が聞こえた。
私が辺りを探すと、女性が数人の男性に囲まれている。
後から思えば、愚かだったと思う。
それでも、私の体は咄嗟に女性を庇うように動き出していた。
「貴方たち、何をしているの」
「ああ? なんだお前」
「貴方たちには関係ないわ」
たったその一言で、気づいたら目の前の男性が腕を振り上げた。
咄嗟に目を瞑っても、避けることは出来なくて。
パシッ。
痛さを感じないまま目を開けると、前にはクロルが立っていた。
「マリーナ様、ご自身の立場を考えて行動下さい」
「クロル、どうして……!」
「マリーナ様とクラヴィス様の身分でお二人だけで街を歩かせるわけには行きません。護衛がいて当然です。少し離れた場所から見ていました」
クロルはそう言いながら、目の前の男性の腕を振り払った。
周りの男性たちがクロルを睨んでいる。
しかし、クロルとの力の差は見ればわかるほどで、男性たちは舌打ちをして離れていく。
クロルはその間に絡まれていた女性に事情を聞いていた。
しばらくしてクロルが女性と離れ、私に近づいてくる。
「彼女は偶然ぶつかって、ただ絡まれただけのようですね。家族が近くにいるようなので、そのまま帰しました」
「分かったわ。ありがとう」
「マリーナ様」
クロルの声が低く下がったのが分かった。
「もう一度言います。ご自身の立場を考えて下さい。助け方など他にたくさんあるはずです」
クロルの叱責は止まらない。
「良い加減にして下さい。どれだけ肝を冷やしたとお思いですか」
「貴方の護衛として許せることと許せないことがあります」
クロルは昔から私が無茶をすると厳しく怒ってくれた。
それでも、それは当たり前に心配からくるもので、結局はいつも甘くて。
どこか安心した表情で最後にこう言うのだ。
「お怪我がなくて、本当に良かった」
それでも、いつもと違うことが一つだけあって。
何故かクロルの手がそっと私の顔に伸びてきた。
丁度、私の頬に触れようとした瞬間……
「何をしている」
クラヴィスが私を後ろから抱きしめるように、クロルから距離を取らせた。
「クラヴィスは今、欲しいものはありますか?」
「欲しいものか、特に思いつかないな。しかし……」
クラヴィスが目線を近くのカフェに向けた。
「最近、甘いものを食べていなかったから、久しぶりに食べたいかな。マリーナ、付き合ってくれないか?」
プレゼントは物を渡すことを想定していたので、私は少し驚いてしまった。
「そんなことでよろしいのですか?」
「……んー、マリス国ではあんまり街を気軽に出歩ける状況じゃなかったから」
「え……」
私が聞き返そうとすると、クラヴィスはそれ以上私が詮索しないように「一緒にお茶を出来るだけで嬉しいよ」と微笑んだ。
カフェに入ると、クラヴィスがメニューを物珍しそうに眺めている。
「マリーナは好きなデザートはあるの?」
「私はスコーンが好きですわ」
「へー、いいね。私もスコーンしようかな」
「クラヴィスは普段甘いものはあまり食べられないのですか?」
「沢山食べる方ではないけれど、たまに今日みたいに食べたくなる時があるんだ。甘いものは疲れも取れるだろう?」
小さなことでもクラヴィスのことを知れる機会があることが嬉しかった。
クラヴィスはあまり自分のことを話さないから。
カフェで美味しいスコーンを頂いた私たちは、店を出て次に行く場所を探していた。
その時、クラヴィスに通りかかった女性が声をかけた。
「あの……!もしよければ、一緒に……」
クラヴィスは爽やかに断っていたが、どこか近くにいることが気まずくて、私は数歩だけ下がっていた。
その時、路地裏から「助けて!」と女性の小さな声が聞こえた。
私が辺りを探すと、女性が数人の男性に囲まれている。
後から思えば、愚かだったと思う。
それでも、私の体は咄嗟に女性を庇うように動き出していた。
「貴方たち、何をしているの」
「ああ? なんだお前」
「貴方たちには関係ないわ」
たったその一言で、気づいたら目の前の男性が腕を振り上げた。
咄嗟に目を瞑っても、避けることは出来なくて。
パシッ。
痛さを感じないまま目を開けると、前にはクロルが立っていた。
「マリーナ様、ご自身の立場を考えて行動下さい」
「クロル、どうして……!」
「マリーナ様とクラヴィス様の身分でお二人だけで街を歩かせるわけには行きません。護衛がいて当然です。少し離れた場所から見ていました」
クロルはそう言いながら、目の前の男性の腕を振り払った。
周りの男性たちがクロルを睨んでいる。
しかし、クロルとの力の差は見ればわかるほどで、男性たちは舌打ちをして離れていく。
クロルはその間に絡まれていた女性に事情を聞いていた。
しばらくしてクロルが女性と離れ、私に近づいてくる。
「彼女は偶然ぶつかって、ただ絡まれただけのようですね。家族が近くにいるようなので、そのまま帰しました」
「分かったわ。ありがとう」
「マリーナ様」
クロルの声が低く下がったのが分かった。
「もう一度言います。ご自身の立場を考えて下さい。助け方など他にたくさんあるはずです」
クロルの叱責は止まらない。
「良い加減にして下さい。どれだけ肝を冷やしたとお思いですか」
「貴方の護衛として許せることと許せないことがあります」
クロルは昔から私が無茶をすると厳しく怒ってくれた。
それでも、それは当たり前に心配からくるもので、結局はいつも甘くて。
どこか安心した表情で最後にこう言うのだ。
「お怪我がなくて、本当に良かった」
それでも、いつもと違うことが一つだけあって。
何故かクロルの手がそっと私の顔に伸びてきた。
丁度、私の頬に触れようとした瞬間……
「何をしている」
クラヴィスが私を後ろから抱きしめるように、クロルから距離を取らせた。
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