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29.婚約
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その日、私はユーキス国の王である父に呼び出されて王宮に来ていた。
私への興味のない父に呼び出されることに、私は少しだけ驚いた。
それでも、きっと良い話ではないことが想像がついて。
そして、久しぶりに顔を見た父はすぐにこう述べた。
「マリーナ。お前には、マリス国の第二王子と婚約してもらう」
いつかこんな日が来ることは分かっていた。
父は私を政略結婚の道具としか見ていないことなど知っているのだから。
それでも、何故か私の頭にはクラヴィスの顔が浮かんだ。
しかし、私はそんな考えをすぐに打ち消すように微笑んだ。
父である王には下に兄弟がおり、次の王位継承権は王弟殿下にある。
だから、私はユーキス国のために他国に嫁ぐことか、自国の貴族子息と結婚することはほぼ決まっていた。
分かっていたこと。
それなのに……どうして涙が溢れそうなの。
父はユーキス国のことは考えてくれている人だ。
それに隣国のマリス国の王子との婚約など、私だって父と同じ判断を下すはずだ。
この政略結婚には、魅力があるもの。
そう自分に言い聞かせる自分があまりに滑稽に感じて。
だから……
こんな運命があるなんて考えもしなかったの。
父が私に見せたマリス国第二王子からの手紙の最後には……
「クラヴィス・ルーカリア」と、署名されていた。
イージェル公爵家の子息であるはずのクラヴィスと同じ名前の王子。
別人だと分かっているのに、何故か胸がざわついてその可能性を否定出来ない。
どこか風格を感じさせるクラヴィスが王族だったとしたら……そんな考えが浮かんでしまう。
そして、ドクドクと速なる心臓を抑えるより先に父から言葉が溢れていく。
「どうやら、第二王子は身分を隠して学園で学んでいた最中だったらしい。よくやった」
父の「よくやった」はきっとよく見初められたという意味だろう。
意味が分からないまま、私は気づいたら王との謁見を終えていた。
王との謁見を終えて、王宮にある自室に戻った私はしばらく呆然としていた。
その時、コンコンと扉がノックされて、使用人が「クラヴィス殿下がお見えです」と述べた。
心臓がドクドクと鳴っているのが胸に手を当てなくても分かるほど、私は緊張していた。
小刻みに震える体を抑えながら、私は客間に向かった。
客間に入れば……
「マリーナ」
そう私の名を呼ぶ声はいつも通りの「クラヴィス」の声で。
私は目に涙が溜まっていくのが分かった。
そして、震えた声で名を呼ぶことしか出来ない。
「クラヴィス……」
「驚かせただろうか?」
クラヴィスはそう仰って、私の前で膝をついた。
「っ……!?」
「マリーナ・サータディア第一王女殿下、貴方に婚約を申し込みたい」
そう仰って、クラヴィスはいつもと同じ雰囲気のまま微笑んだ。
私への興味のない父に呼び出されることに、私は少しだけ驚いた。
それでも、きっと良い話ではないことが想像がついて。
そして、久しぶりに顔を見た父はすぐにこう述べた。
「マリーナ。お前には、マリス国の第二王子と婚約してもらう」
いつかこんな日が来ることは分かっていた。
父は私を政略結婚の道具としか見ていないことなど知っているのだから。
それでも、何故か私の頭にはクラヴィスの顔が浮かんだ。
しかし、私はそんな考えをすぐに打ち消すように微笑んだ。
父である王には下に兄弟がおり、次の王位継承権は王弟殿下にある。
だから、私はユーキス国のために他国に嫁ぐことか、自国の貴族子息と結婚することはほぼ決まっていた。
分かっていたこと。
それなのに……どうして涙が溢れそうなの。
父はユーキス国のことは考えてくれている人だ。
それに隣国のマリス国の王子との婚約など、私だって父と同じ判断を下すはずだ。
この政略結婚には、魅力があるもの。
そう自分に言い聞かせる自分があまりに滑稽に感じて。
だから……
こんな運命があるなんて考えもしなかったの。
父が私に見せたマリス国第二王子からの手紙の最後には……
「クラヴィス・ルーカリア」と、署名されていた。
イージェル公爵家の子息であるはずのクラヴィスと同じ名前の王子。
別人だと分かっているのに、何故か胸がざわついてその可能性を否定出来ない。
どこか風格を感じさせるクラヴィスが王族だったとしたら……そんな考えが浮かんでしまう。
そして、ドクドクと速なる心臓を抑えるより先に父から言葉が溢れていく。
「どうやら、第二王子は身分を隠して学園で学んでいた最中だったらしい。よくやった」
父の「よくやった」はきっとよく見初められたという意味だろう。
意味が分からないまま、私は気づいたら王との謁見を終えていた。
王との謁見を終えて、王宮にある自室に戻った私はしばらく呆然としていた。
その時、コンコンと扉がノックされて、使用人が「クラヴィス殿下がお見えです」と述べた。
心臓がドクドクと鳴っているのが胸に手を当てなくても分かるほど、私は緊張していた。
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客間に入れば……
「マリーナ」
そう私の名を呼ぶ声はいつも通りの「クラヴィス」の声で。
私は目に涙が溜まっていくのが分かった。
そして、震えた声で名を呼ぶことしか出来ない。
「クラヴィス……」
「驚かせただろうか?」
クラヴィスはそう仰って、私の前で膝をついた。
「っ……!?」
「マリーナ・サータディア第一王女殿下、貴方に婚約を申し込みたい」
そう仰って、クラヴィスはいつもと同じ雰囲気のまま微笑んだ。
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