旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。

海咲雪

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10.もう逃げない

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セルト様の顔は見られない。

だって、今は自分の顔を隠すことで精一杯だから。

初めて私は自分からセルト様に口付けをした。

きっと私の顔は今までで一番真っ赤に染まっているだろう。

初めての勝負の時は私から口付けをしようとしていたくらいなのに、今はなんでこんなに恥ずかしいのだろう。

両手でおおうように顔を隠している私の手をセルト様が優しく掴んだ。

「離して下さいませ……!」

「どうして? レシールの顔を見せて」

「逃げずにここにいるだけで褒めてほしいくらいですわ……!」

前回勝負に負けた私は今「この場所から逃げることは出来ない」

それくらいの約束は守れる人間でありたかった。

「大体セルト様ってなんなのですか!」

「え?」

「出会った初日に『愛する気はない』と言い放ったくせに、私にちょっかいをかけてきて! 私はセルト様のおもちゃではありませんわ!」

「それは……!」

セルト様が何を仰りかけたことすら無視するように、私の口は止まってくれない。





「それにこんな私に何度も『可愛い』『可愛い』と言って来て! 良いですか! 私はそんな言葉に慣れていませんの! だから……」



「そんなことを言われたら意識してしまうじゃありませんか!」





私は公爵令嬢なのに、何を口走っているのだろう。

きっと私にマナーを教えて下さっていた講師が今の言葉を聞いたら血相けっそうを変えて怒鳴ってくるだろう。

まるで公爵令嬢らしくもない、気の強い私らしくもない、まるで初めて恋した乙女のような言葉。

「レシール」

そんな私の口走りを聞いても、セルト様は甘い口調で私の名前を呼ぶ。

私はその言葉でも両手で顔を隠すことしか出来なかった。

「レシール、顔を見せて」

「嫌ですわ……!」

「じゃあ、そのまま私の話を聞いていて」

セルト様が顔を隠したままの私の頭をもう一度優しく撫でて下さる。

そして語られたのは、セルト様も口下手だったということ。

あの日の言葉の意味は少し違っていたこと。





「あの日、君に『愛する気はない』と言ってしまったことを始めは後悔もしていなかった。どうせ私たちの間に愛はないのだから、このまま誤解されたままで構わない、と。実際私は君を愛するつもりはなかったのだから、多少の言い方の違いなどどうでも良いと思っていた」

「しかし出会った君はあまりに真っ直ぐで、気が強いのに可愛くて、私と頑張って向き合おうとしてくれる令嬢だった」

「そんなの好きにならない方が無理だろう? 愛おしいと思わない方が難しいだろう?」





セルト様が私の両手を掴んで、そっと下ろす。

もう私は抵抗する気になれなかった。

暴かれた私の真っ赤な顔を見てもセルト様は愛おしそうな視線を向けてくる。

私ももう恥ずかしいとは思わなくなっていた。

だってセルト様の頬も少しだけ赤く染まっていたから。





「レシール、愛している」




セルト様が私にそっと口付けた。

私はもう気持ちを隠すことなんて出来なかった。




「私も愛していますわ、セルト様」




それは本心から来た言葉だった。

あの日、最悪の出会い方をした私たちとは思えないほどの言葉。

だからあの日の言葉を言い換えるように、私は微笑んだ。





「セルト様、もう逃げないで下さいませ」




「逃げるはずないだろう? こんなにもレシールを愛しているのだから」




私たちはもう逃げない。

だってこれから幸せな生活を共に送るのだから。



fin.
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