追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第8話

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 翌朝、ライトは柔らかな光の気配で目を覚ました。
 窓から差し込む淡い朝日が、部屋の中を静かに照らしている。
 昨日の疲労はまだ身体の奥に少し残っていたが、邪魔になるほどではなかった。

(昨日より……身体が軽い気がする)

 布団からゆっくり起き上がり、肩を回してみる。
 筋肉痛はあるが、どこか心地よい張り方だった。
 新しい力を試した翌日の感覚は、少しだけ胸を弾ませる。

 洗顔を済ませ、装備の点検を行う。
 剣の刃を軽く引き、欠けや汚れを確認した。
 ダンジョン最深部を生き延びたときの感触が思い出される。

(もっと強くなれる……そんな気がする)

 胸の奥の灯が、昨日よりも少しだけ大きく揺れた。

 宿を出て通りに出ると、レグナの街はすでに活気づいていた。
 パン屋から焼きたての香りが広がり、鍛冶場では打撃音が響き、露店の店主たちは元気よく声を張り上げている。

 そんな街の空気を吸い込みながら、ライトは自然と笑みを浮かべていた。

(昨日より、この街の景色が優しく感じるな)

 一度居場所を失った人間にとって、こういう温かさは胸に染みる。
 この街でなら、自分の足で歩いていける。
 昨日よりもはっきりと、そう思えた。

 ギルドに向かって歩いていると、ふと視線を感じた。
 横を見ると、ひとりの少年がじっとライトを見ていた。

 昨日、広場で「かっこよかった」と言ってくれた子だ。

「お兄ちゃん!」

 少年が駆け寄ってくる。

「今日も剣の練習するの?」

「今日はまだ分からないけど……どうして?」

「昨日の剣、すごかったから! また見たい!」

 その無邪気な声に、ライトは一瞬言葉を失った。
 自分の行動が誰かに“期待される”のは、人生でほとんど経験のなかったことだったからだ。

「ありがとう。でも……今日は依頼を見てからだな」

「うん!」

 少年は笑顔で手を振り、また公園へ戻っていった。

 思わぬ応援に背中がくすぐったくなる。

(俺なんかでも……誰かにとっては、少しだけでも“ヒーロー”に見えたのかな)

 そんな思いが胸に広がり、歩くスピードが少しだけ速くなる。

 ギルドの扉を開けると、ミィナが明るい声で迎えてくれた。

「ライトさん、おはようございます!」

「おはようございます、ミィナさん」

「今日もいい天気ですね! 外の仕事が気持ちいいと思いますよ」

 いつものように朗らかな声。
 ミィナの存在は、ギルドの空気を明るくしている。
 そんな彼女を見ると、不思議と力が湧いてくる。

「今日は、どんな依頼がありますか?」

「はい! 見てみましょうね!」

 ミィナが手元の依頼板を確認しながら説明してくれる。

「薬草採取は昨日のものと同じで、続けてお願いすることもできます。
 あとは……街外れのゴブリン討伐です。ただ、こちらは一応注意が必要です」

「注意……?」

「はい。単体では弱いんですが、複数で襲ってきたり罠を使うこともあるので、初心者さんにはちょっと危ないんです」

 ミィナは心配そうに眉を下げる。

「ライトさんならできると思いますけど……無理はしないでくださいね」

 その声が胸の奥にやさしく響く。

(昨日の俺なら迷わず薬草採取にするところだけど……)

 自分の中で、ほんの少しだけ挑戦したい気持ちが強くなっている。
 狼型魔獣との戦闘を乗り越えられた自信。
 《超記録》がもたらす新しい視界。

 それらが、次の一歩を踏み出せと言ってくるようだった。

「……ゴブリン討伐、受けてみます」

 ミィナはぱちりと目を見開いた。

「本当に……大丈夫ですか?」

「はい。気をつけてやります」

 ミィナは数秒だけライトをじっと見つめ、やがて柔らかな笑みを見せた。

「分かりました。ライトさんがそう言うなら……気をつけて行ってきてください」

「はい」

 依頼書を受け取り、ギルドを出ようとしたそのとき。
 後ろから声がかかった。

「……ライト」

 振り返ると、ガルドとセインが入口近くに立っていた。

「今日は依頼か?」

「ゴブリン討伐を受けました」

「なるほどな。だったらひとつだけ覚えておけ」

 ガルドが軽く指を立てる。

「ゴブリンは弱いが、罠は本気で危険だ。奴らの縄罠や落とし穴は舐めると死ぬ」

 セインも小さく頷く。

「ゴブリンの罠は見えにくい。でもライトなら……たぶん気づける。自分の力を信じていいよ」

「……ありがとうございます」

「何かあったらすぐ戻れ。死にかけてからじゃ遅いからな!」

「気をつけます」

 背中を押されるような感覚があった。

(この街には……俺を応援してくれる人が、こんなにいるんだな)

 一歩踏み出すたびに、胸の温かさが増えていく。

 街外れの森へ向かう道は、昨日よりも緊張が少なかった。
 もちろん油断はできない。
 だが、《超記録》がじわりと感覚を広げることで、周囲の気配が読み取りやすくなっている。

(昨日の狼型よりは弱いはずだけど……気をつけよう)

 森が近づくにつれ、風の音が変わっていく。
 葉がこすれる音、鳥の声、地面の湿り気。
 すべてが情報として頭の中に流れてくる。

 森の入口に立ったとき、ライトは剣の柄に手を置いた。

「……よし、行こう」

 覚悟とともに一歩踏み入れた瞬間、空気の温度が少しだけ下がったように感じた。
 日差しは木々に遮られ、薄暗い静けさが森を包んでいる。

 ここから先は、依頼というより実戦に近い。

 胸の鼓動がゆっくりと高まる。

(俺は……ひとりでもここまで来れた。昨日逃げなかったんだ。今日も……大丈夫だ)

 自分自身に言い聞かせるように小さく息を吐いた。

 そのときだった。

 森の奥から、微かな気配が揺れた。
 風とは違う、柔らかい揺れ。
 獣とは少し違う、どこか軽い足音。

(ゴブリン……いる)

 視界が自然と研ぎ澄まされる。
 《超記録》が、昨日よりも鮮明に周囲の動きを捉えていく。

 ライトは剣を抜いた。

 森の奥で、小さな影が揺れ動いている。

(……ここからが勝負だ)

 胸の奥が静かに熱を帯びた。

 ライトは気配のする方向へ、ゆっくりと歩みを進めた。
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