追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第7話

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 レグナの通りを歩きながら、ライトは胸の奥で静かに灯るものを感じていた。
 狼型魔獣との戦闘、薬草採取の達成、ギルドでの初めての報酬。
 一つ一つが確かに積み重なり、昨日までとは違う自分が心の中に立ち始めている。

(この街で……ちゃんと冒険者として生きていけるかもしれない)

 そんな希望が胸の中でふくらむ。
 それは決して大げさなものではなく、そっと息を吸うたびに確かめられるような、静かな温かさだった。

 通りには日用品や食べ物の屋台が並び、店主たちが客と楽しげにやり取りしている。
 焼きたてのパンや香辛料の匂いが漂い、風に乗って子どもの笑い声が響く。

 歩いているだけで、昨日の暗闇が遠ざかっていく気がした。

 ふと、本屋の店先に目が留まった。
 看板には「冒険者向け指南書」と書かれている。
 覗き込むと、剣の構え方や基礎体力の鍛え方、薬草の見分け方などが並んでいた。

「……こういうの、勉強になるかもしれない」

 勇者パーティにいた頃、ライトは本を読む時間などほとんど与えられなかった。
 歩くペースについていくのに必死で、訓練らしい訓練も受けさせてもらえなかった。
 スキルが役に立たないから、教える価値もないと半ば決めつけられていた。

(でも、今の俺は違う。自分で、必要なものを選べる)

 そう思えるだけで、胸の奥が少し温かくなる。

 ライトは薄い指南書を一冊購入し、袋にしまった。

 通りをさらに進むと、街外れへの道に差し掛かる。
 そこは草原へ続く道とは反対方向で、人通りもそこまで多くない。

 その道沿いに、小さな公園のような広場があった。
 木陰が涼しく、子どもが二人遊んでいる。
 その姿を見ていると、心が和むようだった。

 ライトはその広場の端へと歩き、剣を抜いて軽く構えた。

(さっき……何となく手に馴染むような感覚があった。確かめてみたい)

 狼の動き、爪の軌道。
 すべて《超記録》が映し出してくれた情報だ。
 そのスキルが自分の中でどれほど使えるのか、ほんの少し試したい気持ちがあった。

 剣を前へと突き出し、静かに振る。
 空気が斬られ、わずかに風が揺れた。

「やっぱり……少しだけ違う」

 技が上達したわけではない。
 急に強くなったわけでもない。
 ただ、剣を振るたびに手の中にしっかりとした軸が生まれたように感じる。

(これなら……もっと戦えるようになるはずだ)

 胸の奥に、昨日とは違う自信が生まれる。

 剣を静かに鞘へ戻し、ライトは深呼吸した。

「お兄ちゃん、すごいね!」

 突然後ろから声がして振り返ると、先ほど遊んでいた子どもがこちらを見ていた。
 目を輝かせている。

「そんなことないよ。まだまだだ」

「でもすっごくかっこよかった!」

 その言葉に、自然と頬が熱くなった。
 承認される感覚がこんなにもあたたかいものとは知らなかった。

 子どもは笑顔のまま走り去り、また遊び始めた。

「……ありがとう」

 誰に聞かれるでもなく呟いた声は、自分の中の小さな傷を一つ癒してくれた気がした。

 広場を後にし、街をひと通り見て回ったあと、ライトはギルドへ戻ることにした。
 まだ依頼を受けるつもりはなかったが、どんな依頼があるのか確認したかった。

 ギルドに戻ると、受付にはミィナがいた。
 彼女はライトの姿を見つけると、手を振りながら迎えてくれた。

「ライトさん、おかえりなさい! 街はどうでした?」

「いろいろ見てきました。……いい街ですね」

「でしょ? 私、レグナ好きなんです。素直で優しい人が多くて」

「確かに、そんな気がしました」

 本当に、そう思った。
 誰からも拒まれず、見下されず、普通に話しかけてもらえることがこんなにも心地よいなんて。

「ところで、ライトさん。今日はまだ依頼、受けます?」

「今日は……控えておこうと思います。次のために、少し体を休めておきたいので」

「いい判断です! 冒険者は無理をしたら長く続きませんから」

 ミィナは満面の笑みで頷いた。
 その笑顔を見ると、自分も自然と笑顔になれる。

 ギルドを出て宿へ戻る途中、ライトはふと昨日の自分を思い出した。
 深い暗闇の中で、置き去りにされ、ひとりで震えていた自分。

(あの時の俺は……こんな未来が来るなんて想像もしなかった)

 手を伸ばせば未来が変わるわけではない。
 けれど、一歩ずつでも前へ進めれば、きっと違う場所にたどり着ける。

 そんな当たり前の理屈が、今はとても大切なもののように思えた。

 宿の部屋に戻ると、ベッドに腰を下ろし、天井をぼんやりと見つめた。
 まだ疲労は残っているが、心の重さはほとんど感じなかった。

「明日は……もっと動けるはずだ」

 小さな声で呟く。
 まるで自分自身にそう言い聞かせるように。

(いつか、きっと……あいつらを見返せる)

 その想いが心の奥に息づき、力へと変わっていく。

 誰からも期待されなかった少年が、今ようやく最初の一歩を歩み出した。
 まだ弱くて、不器用で、何も持っていない。
 それでも、前へ進もうとする意志だけは確かにある。

 ライトは静かに目を閉じた。
 心地よい疲れとともに、穏やかな暗闇がゆっくりと訪れた。
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