追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第23話

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 宿の窓から差し込む朝の光は、いつもより柔らかく感じられた。
 ライトは目を覚ますと、ベッド脇に置いてある布包みへ視線を向ける。

 赤い卵は、昨夜と同じようにほのかな光を放っていた。

「……今日も元気だな」

 二日前、森の奥で拾って以来、卵の光は弱まるどころか、むしろ日に日に安定している。
 毎晩寝る前に様子を見て、朝になれば軽く温度を確かめ、外出のときは布で丁寧に包んで持ち歩く。

 そんな生活がもう当たり前のように馴染んでいた。

(それでも……正体はまだ分からないんだよな)

 グランは竜種の可能性が高いと言っていた。
 だが今のところ、卵からは敵意も危険も感じない。ただ穏やかで、温かい。

 ライトはそっと手を伸ばし、表面に触れた。
 すると、卵は微かに光を返してくる。

「……おはよう」

 たったそれだけの言葉が、自然に口からこぼれた。

 仲間というわけでも、従魔でもない。
 けれど卵は、なぜかライトの手の中だけで落ち着くように思えた。

 それが不思議で、同時にうれしかった。

 支度を済ませ、ライトは卵を抱えてギルドへ向かった。
 今日の目標は簡単な依頼を一件こなし、卵に異変がないか報告することだ。

 ギルドの扉を押し開けると、ミィナがすぐに気づいて笑顔を向けた。

「ライトさん、おはようございます。今日も卵、連れてきてるんですね」

「はい。昨日も特に変わりはありませんでした」

「よかった……。なんだか、本当に守っているみたいですね」

 ミィナは布の包みを見て、ほっとしたように表情を緩める。

「今日の依頼ですけど、無理のないものを選んでおきました。卵を抱えてでもこなせるくらいの」

「ありがとうございます。助かります」

 ライトは敬語のまま丁寧に頭を下げた。
 ミィナは小さく首を振り、にこっと笑う。

「いえ。ライトさん、すごく優しい顔してますよ。卵、大事なんですね」

「……はい。なんだか、不思議と放っておけなくて」

 2日前ならあり得なかった言葉だ。
 自分でも驚くほど自然に答えていた。

 依頼を受けたライトは、日中は街の近くで軽い討伐や調査をこなした。
 卵は布の中で温かく、時折かすかに脈動するような光を返してくる。

(こんなに落ち着いてるのは……本当に俺のせいなのか?)

 グランの言葉が頭に浮かんだ。

『卵がお前の魔力に反応しているようだ』

 それが本当なら、責任の重さも増す。
 でもライトは不思議と怖くなかった。

(守りたいって、思ってるんだよな)

 誰に言われたわけでもない。
 ただ自分がそう思っているだけだ。

 夕暮れが近づき、宿へ戻るころには、薄い雲が夕日を優しく染めていた。

「ただいま」

 ライトは卵をそっとベッドに置き、布を開いた。

 すると――

 卵が、いつもより強く脈打っていた。

「……え?」

 表面の光が膨らんだり縮んだりを繰り返す。
 まるで内側で何かが動き、殻を押しているようだった。

「まさか……今日……?」

 胸が一瞬で高鳴る。
 息を呑んで見守ると、卵の頂点に細い亀裂が走った。

 ピシ……

 淡い光が漏れ出し、部屋の空気が変わる。

「ほんとに……?」

 手も足も出ない。
 ただ、心臓が激しく鼓動する。

 ピシッ。ピシッ。

 亀裂は勢いを増し、赤い殻が震えた。

 そして――

 パリン、と高い音を立てて割れた。

 光がはじけ、赤い欠片が床へ落ちる。
 その中心に、小さな影が丸まっていた。

 手のひらより少し大きな体。
 真紅の鱗が宝石のように光り、小さな翼が閉じられている。

 影がもぞりと動き、ゆっくり顔を上げた。

 金色の瞳が開かれる。

 ライトをまっすぐに見つめてきた。

「……っ」

 息が止まる。

 その小さな口が震え――

「ミリュ……」

 涙が出そうなほど、優しい声だった。

 ライトの胸に暖かい何かが広がる。

「君……生まれたんだな」

 そっと手を伸ばすと、子竜はよたよたと近づき、指先に頭をこすりつけた。

「ミュー」

「大丈夫。怖くないよ」

 抱き上げると、軽くて温かい。
 小さな鼓動が胸の奥に伝わってくる。

 子竜はライトの胸元にしがみつき、小さく鳴いた。

「リュリュ……」

「うん……。よく頑張ったな」

 自然と、言葉が溢れた。

 名前を考える。
 真紅の体。
 優しい鳴き声。
 そして森で初めて出会ったときの温かさ。

「……ミリュウ。君の名前は、ミリュウだ」

 子竜の耳の先がぴんと立つ。

「ミリュ!」

 光がぱっと灯ったかのように、喜びを全身で表す。

《命名確認。魔力同期率が上昇しています》

「……そっか。よろしくな、ミリュウ」

 ミリュウはライトの胸に小さく寄り添い、安心したように目を閉じる。

(俺……竜の子を育てることになるんだな)

 驚きよりも、嬉しさが大きかった。

 窓の外では、柔らかな夜風がカーテンを揺らしている。

「これから……どうなるんだろうな」

 ミリュウは寝息のように「ミュー」と鳴いた。

 その音が、ライトの未来に小さな灯りをともすように響いた。

(大丈夫。きっと、うまくいく)

 ライトは静かに目を閉じた。
 胸の中には、小さな竜と、新しい物語の始まりが温かく眠っていた。
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