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第46話
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朝の空気はひんやりとしていた。
宿を出ると、街道沿いに霧が薄く残り、石畳を白く覆っている。人の往来は少ない。まだ商人も動き出していない時間帯だ。
ライトはミリュウを肩に乗せ、街の外れへ向かって歩いていた。隣にはリオナがいる。装備は軽めだが、足取りに迷いはない。
「昨日の連中、動きが早かったな」
「ああ。集落の件も、街での襲撃も、引き際が同じだった」
ライトは視線を前に向けたまま答える。
街道脇の草が、風もないのに揺れた。
ミリュウが小さく鳴く。
「ミリュ」
「分かってる」
ライトは歩調を緩めず、剣に手をかけた。
視界の端、街道から外れた林の中。人影が一つ、こちらを見ている。
だが、敵意はない。
むしろ――待っていた、という距離感だった。
「……出てきたらどうだ」
ライトの声に応じるように、林の影から一人の女性が姿を現した。
フードを被り、弓を背負っている。身のこなしは軽く、足音がほとんどしない。
獣人だ。耳と尻尾がはっきり見える。
「やっぱり気づくよね」
穏やかな声だった。
「昨日から見てたけど、噂通り」
リオナが半歩前に出る。
「誰」
「敵じゃないよ」
女性は両手を上げ、弓からも距離を取った。
「私はアリア。ここの集落で、護衛を請け負ってた」
その名前を聞き、リオナが一瞬だけ目を細める。
「獣人の剣士……いや、弓も使う?」
「両方」
アリアは軽く肩をすくめた。
「で、本題だけど」
視線がライトへ向く。
「昨日の水の使い手、私も追ってた」
ライトは表情を変えない。
「どこまで」
「川沿い。途中で撒かれたけど、逃げ方は見えた」
アリアは地面に視線を落とす。
「足跡を消す癖がある。でも、完全じゃない」
その言葉に、リオナが小さく息を吐く。
「……信用していい?」
「好きに判断して」
アリアは視線を逸らさない。
「私は、あの連中が嫌い。理由はそれだけ」
沈黙が落ちる。
ライトは一歩前に出た。
「なら、一緒に動ける」
即断だった。
「今は、人手が要る」
アリアは一瞬だけ目を丸くし、それから笑った。
「話が早いね」
ミリュウがアリアを見て鳴く。
「ミリュ」
「あ、竜……」
アリアの声が少し柔らいだ。
「……大事にされてるのが分かる」
その言葉に、ライトは何も返さなかった。
だが、否定もしなかった。
その直後だった。
街道の先、遠くで馬の蹄の音が響く。
数は多い。
「来たな」
リオナが杖を構える。
土煙の向こうから現れたのは、鎧に身を包んだ一団だった。
見覚えのある構成。
勇者パーティ。
先頭のカイルが、馬を止める。
「……いたか」
その視線が、ライトに向く。
「生きてたな」
「見ての通りだ」
短く返す。
アルシアとリデルが周囲を警戒し、アリアの姿に気づく。
「新しい顔?」
アルシアが口角を上げた。
「随分、動きが早いじゃない」
ライトは一歩も引かない。
「調査なら、邪魔はしない」
「調査、ね」
カイルの視線がミリュウへ移る。
「その竜も含めて、だ」
空気が張りつめる。
アリアが、静かに弓に手をかけた。
ライトは一歩前に出る。
「ここでやる気はないだろ」
「……ああ」
カイルは短く答えた。
「今日は確認だけだ」
そう言って、馬首を返す。
「だが、動き出した歯車は止まらない」
去っていく背中を、ライトは追わなかった。
アリアが小さく息を吐く。
「……有名人なんだね」
「面倒なだけだ」
リオナが肩をすくめる。
「これで分かったでしょ。敵は一つじゃない」
ライトは剣から手を離す。
「だから、仲間が要る」
視線をアリアへ向ける。
「来るなら、今だ」
アリアは一瞬だけ考え、それから頷いた。
「いいよ。しばらく、組もう」
ミリュウが、嬉しそうに鳴いた。
「ミリュ!」
三人は、同じ方向を見て歩き出した。
街道の先には、まだ静けさが残っている。
だが、それは嵐の前のものに過ぎなかった。
宿を出ると、街道沿いに霧が薄く残り、石畳を白く覆っている。人の往来は少ない。まだ商人も動き出していない時間帯だ。
ライトはミリュウを肩に乗せ、街の外れへ向かって歩いていた。隣にはリオナがいる。装備は軽めだが、足取りに迷いはない。
「昨日の連中、動きが早かったな」
「ああ。集落の件も、街での襲撃も、引き際が同じだった」
ライトは視線を前に向けたまま答える。
街道脇の草が、風もないのに揺れた。
ミリュウが小さく鳴く。
「ミリュ」
「分かってる」
ライトは歩調を緩めず、剣に手をかけた。
視界の端、街道から外れた林の中。人影が一つ、こちらを見ている。
だが、敵意はない。
むしろ――待っていた、という距離感だった。
「……出てきたらどうだ」
ライトの声に応じるように、林の影から一人の女性が姿を現した。
フードを被り、弓を背負っている。身のこなしは軽く、足音がほとんどしない。
獣人だ。耳と尻尾がはっきり見える。
「やっぱり気づくよね」
穏やかな声だった。
「昨日から見てたけど、噂通り」
リオナが半歩前に出る。
「誰」
「敵じゃないよ」
女性は両手を上げ、弓からも距離を取った。
「私はアリア。ここの集落で、護衛を請け負ってた」
その名前を聞き、リオナが一瞬だけ目を細める。
「獣人の剣士……いや、弓も使う?」
「両方」
アリアは軽く肩をすくめた。
「で、本題だけど」
視線がライトへ向く。
「昨日の水の使い手、私も追ってた」
ライトは表情を変えない。
「どこまで」
「川沿い。途中で撒かれたけど、逃げ方は見えた」
アリアは地面に視線を落とす。
「足跡を消す癖がある。でも、完全じゃない」
その言葉に、リオナが小さく息を吐く。
「……信用していい?」
「好きに判断して」
アリアは視線を逸らさない。
「私は、あの連中が嫌い。理由はそれだけ」
沈黙が落ちる。
ライトは一歩前に出た。
「なら、一緒に動ける」
即断だった。
「今は、人手が要る」
アリアは一瞬だけ目を丸くし、それから笑った。
「話が早いね」
ミリュウがアリアを見て鳴く。
「ミリュ」
「あ、竜……」
アリアの声が少し柔らいだ。
「……大事にされてるのが分かる」
その言葉に、ライトは何も返さなかった。
だが、否定もしなかった。
その直後だった。
街道の先、遠くで馬の蹄の音が響く。
数は多い。
「来たな」
リオナが杖を構える。
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見覚えのある構成。
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先頭のカイルが、馬を止める。
「……いたか」
その視線が、ライトに向く。
「生きてたな」
「見ての通りだ」
短く返す。
アルシアとリデルが周囲を警戒し、アリアの姿に気づく。
「新しい顔?」
アルシアが口角を上げた。
「随分、動きが早いじゃない」
ライトは一歩も引かない。
「調査なら、邪魔はしない」
「調査、ね」
カイルの視線がミリュウへ移る。
「その竜も含めて、だ」
空気が張りつめる。
アリアが、静かに弓に手をかけた。
ライトは一歩前に出る。
「ここでやる気はないだろ」
「……ああ」
カイルは短く答えた。
「今日は確認だけだ」
そう言って、馬首を返す。
「だが、動き出した歯車は止まらない」
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「面倒なだけだ」
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「これで分かったでしょ。敵は一つじゃない」
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「来るなら、今だ」
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「いいよ。しばらく、組もう」
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三人は、同じ方向を見て歩き出した。
街道の先には、まだ静けさが残っている。
だが、それは嵐の前のものに過ぎなかった。
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