追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

文字の大きさ
46 / 93

第46話

しおりを挟む
 朝の空気はひんやりとしていた。
 宿を出ると、街道沿いに霧が薄く残り、石畳を白く覆っている。人の往来は少ない。まだ商人も動き出していない時間帯だ。

 ライトはミリュウを肩に乗せ、街の外れへ向かって歩いていた。隣にはリオナがいる。装備は軽めだが、足取りに迷いはない。

「昨日の連中、動きが早かったな」

「ああ。集落の件も、街での襲撃も、引き際が同じだった」

 ライトは視線を前に向けたまま答える。
 街道脇の草が、風もないのに揺れた。

 ミリュウが小さく鳴く。

「ミリュ」

「分かってる」

 ライトは歩調を緩めず、剣に手をかけた。
 視界の端、街道から外れた林の中。人影が一つ、こちらを見ている。

 だが、敵意はない。

 むしろ――待っていた、という距離感だった。

「……出てきたらどうだ」

 ライトの声に応じるように、林の影から一人の女性が姿を現した。

 フードを被り、弓を背負っている。身のこなしは軽く、足音がほとんどしない。
 獣人だ。耳と尻尾がはっきり見える。

「やっぱり気づくよね」

 穏やかな声だった。

「昨日から見てたけど、噂通り」

 リオナが半歩前に出る。

「誰」

「敵じゃないよ」

 女性は両手を上げ、弓からも距離を取った。

「私はアリア。ここの集落で、護衛を請け負ってた」

 その名前を聞き、リオナが一瞬だけ目を細める。

「獣人の剣士……いや、弓も使う?」

「両方」

 アリアは軽く肩をすくめた。

「で、本題だけど」

 視線がライトへ向く。

「昨日の水の使い手、私も追ってた」

 ライトは表情を変えない。

「どこまで」

「川沿い。途中で撒かれたけど、逃げ方は見えた」

 アリアは地面に視線を落とす。

「足跡を消す癖がある。でも、完全じゃない」

 その言葉に、リオナが小さく息を吐く。

「……信用していい?」

「好きに判断して」

 アリアは視線を逸らさない。

「私は、あの連中が嫌い。理由はそれだけ」

 沈黙が落ちる。
 ライトは一歩前に出た。

「なら、一緒に動ける」

 即断だった。

「今は、人手が要る」

 アリアは一瞬だけ目を丸くし、それから笑った。

「話が早いね」

 ミリュウがアリアを見て鳴く。

「ミリュ」

「あ、竜……」

 アリアの声が少し柔らいだ。

「……大事にされてるのが分かる」

 その言葉に、ライトは何も返さなかった。

 だが、否定もしなかった。

 その直後だった。

 街道の先、遠くで馬の蹄の音が響く。
 数は多い。

「来たな」

 リオナが杖を構える。

 土煙の向こうから現れたのは、鎧に身を包んだ一団だった。
 見覚えのある構成。

 勇者パーティ。

 先頭のカイルが、馬を止める。

「……いたか」

 その視線が、ライトに向く。

「生きてたな」

「見ての通りだ」

 短く返す。

 アルシアとリデルが周囲を警戒し、アリアの姿に気づく。

「新しい顔?」

 アルシアが口角を上げた。

「随分、動きが早いじゃない」

 ライトは一歩も引かない。

「調査なら、邪魔はしない」

「調査、ね」

 カイルの視線がミリュウへ移る。

「その竜も含めて、だ」

 空気が張りつめる。

 アリアが、静かに弓に手をかけた。

 ライトは一歩前に出る。

「ここでやる気はないだろ」

「……ああ」

 カイルは短く答えた。

「今日は確認だけだ」

 そう言って、馬首を返す。

「だが、動き出した歯車は止まらない」

 去っていく背中を、ライトは追わなかった。

 アリアが小さく息を吐く。

「……有名人なんだね」

「面倒なだけだ」

 リオナが肩をすくめる。

「これで分かったでしょ。敵は一つじゃない」

 ライトは剣から手を離す。

「だから、仲間が要る」

 視線をアリアへ向ける。

「来るなら、今だ」

 アリアは一瞬だけ考え、それから頷いた。

「いいよ。しばらく、組もう」

 ミリュウが、嬉しそうに鳴いた。

「ミリュ!」

 三人は、同じ方向を見て歩き出した。
 街道の先には、まだ静けさが残っている。

 だが、それは嵐の前のものに過ぎなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...