49 / 93
第49話
しおりを挟む
夜明け前の街は、音が少なかった。
眠りから覚めきらない石畳を、靴底が静かに叩く。
ライトは外套を整え、ギルド前で立ち止まった。
空はまだ暗く、東の端がわずかに白み始めている。
「早いな」
リオナが先に来ていた。杖を肩に担ぎ、表情は引き締まっている。
「寝てないでしょ」
「まあな」
軽く言って、周囲を見渡す。
ほどなくして、フィーナが姿を現した。
朝靄の中から浮かび上がるように、静かな足取りで近づいてくる。
「おはよう」
「早いな」
「森は、もう起きてる」
ミリュウが肩の上で身じろぎする。
「ミリュ」
「大丈夫。今日は遠くまで行かない」
ギルドの扉が開き、グランが姿を見せた。
「揃ったな」
短く言い、地図を広げる。
「川沿いだ。集落と街の中間。被害が集中している地点がある」
指が示すのは、細い支流が本流に合流する場所。
「水の使い手が出た地点とも一致する」
「罠の可能性は?」
「高い」
即答だった。
「だが、放置はできん」
グランはライトを見る。
「お前が前に出る」
「分かりました」
言葉はそれだけで十分だった。
街を出ると、空気が変わる。
湿った匂いが濃くなり、川が近いことを知らせていた。
道はぬかるみ、草が靴に絡みつく。
「静かすぎるわね」
リオナが小声で言う。
「ああ」
ライトは剣に手をかけたまま進む。
川音が聞こえ始めたころ、フィーナが足を止めた。
「……ここ」
彼女の視線の先、川岸の草が不自然に倒れている。
踏み荒らされた跡。
だが新しい。
「来る」
次の瞬間だった。
水面が盛り上がり、弾ける。
水が刃となって飛ぶ。
「《斬撃強化(中)》」
ライトの剣が走り、水刃を弾き散らす。
同時に、対岸の茂みから人影が現れた。
外套姿が三人。
そして、奥に一人。
杖を持つ、見覚えのある鎧の男。
「……またお前か」
男は答えず、杖を振る。
水が集まり、地面を這う。
「来るわよ!」
「分かってる」
ライトは前へ出る。
「《ウォーターLv1》」
足元に水を走らせ、流れを制御する。
完全ではないが、動きを鈍らせるには十分だった。
外套の一人が距離を詰める。
ライトは半歩踏み込み、剣を振る。
「《斬撃強化(中)》」
外套が裂け、男が倒れる。
その瞬間、背後から衝撃。
風だ。
刃のような圧が背中を叩く。
ライトは前へ転がり、衝撃を殺す。
視界の端で、別の男が手を掲げていた。
風を使っている。
次の瞬間、身体の奥で何かが噛み合う感覚が走った。
《ウィンドLv1》を獲得。
空気の流れが、はっきりと分かる。
風は敵だけのものじゃない。
ライトは立ち上がり、踏み込む。
「《ウィンドLv1》」
足元に風を纏わせ、一気に距離を詰める。
相手が目を見開く。
剣が振り抜かれ、男は吹き飛んだ。
「……もう?」
リオナが一瞬だけ驚いた顔を見せる。
「使える」
それだけ答え、ライトは前を見る。
鎧の男が舌打ちし、後退する。
だが、フィーナが一歩前に出た。
地面に手をかざす。
水が揺れ、流れが変わる。
鎧の男の足元が崩れ、体勢が乱れた。
「今」
リオナが詠唱する。
「ファイアランス」
火の槍が一直線に走り、鎧の肩を貫いた。
男は呻き声を上げ、後退する。
撤退だ。
霧が立ち、視界が遮られる。
気配が散った。
静寂が戻る。
「……逃げた」
リオナが息を吐く。
「ああ」
ライトは剣を下ろした。
足元の感覚が、さっきまでと違う。
風が味方している。
「早いね」
フィーナが静かに言う。
「順応が」
「受けたものは、返すだけだ」
ミリュウが肩で鳴いた。
「ミリュ!」
川は何事もなかったかのように流れている。
だが、確実に分かった。
敵は揃え始めている。
こちらを試しながら。
ライトは川を見つめ、短く息を吐いた。
「戻ろう。次は、もっと大きく動く」
誰も異論はなかった。
朝日が、川面を照らし始めていた。
眠りから覚めきらない石畳を、靴底が静かに叩く。
ライトは外套を整え、ギルド前で立ち止まった。
空はまだ暗く、東の端がわずかに白み始めている。
「早いな」
リオナが先に来ていた。杖を肩に担ぎ、表情は引き締まっている。
「寝てないでしょ」
「まあな」
軽く言って、周囲を見渡す。
ほどなくして、フィーナが姿を現した。
朝靄の中から浮かび上がるように、静かな足取りで近づいてくる。
「おはよう」
「早いな」
「森は、もう起きてる」
ミリュウが肩の上で身じろぎする。
「ミリュ」
「大丈夫。今日は遠くまで行かない」
ギルドの扉が開き、グランが姿を見せた。
「揃ったな」
短く言い、地図を広げる。
「川沿いだ。集落と街の中間。被害が集中している地点がある」
指が示すのは、細い支流が本流に合流する場所。
「水の使い手が出た地点とも一致する」
「罠の可能性は?」
「高い」
即答だった。
「だが、放置はできん」
グランはライトを見る。
「お前が前に出る」
「分かりました」
言葉はそれだけで十分だった。
街を出ると、空気が変わる。
湿った匂いが濃くなり、川が近いことを知らせていた。
道はぬかるみ、草が靴に絡みつく。
「静かすぎるわね」
リオナが小声で言う。
「ああ」
ライトは剣に手をかけたまま進む。
川音が聞こえ始めたころ、フィーナが足を止めた。
「……ここ」
彼女の視線の先、川岸の草が不自然に倒れている。
踏み荒らされた跡。
だが新しい。
「来る」
次の瞬間だった。
水面が盛り上がり、弾ける。
水が刃となって飛ぶ。
「《斬撃強化(中)》」
ライトの剣が走り、水刃を弾き散らす。
同時に、対岸の茂みから人影が現れた。
外套姿が三人。
そして、奥に一人。
杖を持つ、見覚えのある鎧の男。
「……またお前か」
男は答えず、杖を振る。
水が集まり、地面を這う。
「来るわよ!」
「分かってる」
ライトは前へ出る。
「《ウォーターLv1》」
足元に水を走らせ、流れを制御する。
完全ではないが、動きを鈍らせるには十分だった。
外套の一人が距離を詰める。
ライトは半歩踏み込み、剣を振る。
「《斬撃強化(中)》」
外套が裂け、男が倒れる。
その瞬間、背後から衝撃。
風だ。
刃のような圧が背中を叩く。
ライトは前へ転がり、衝撃を殺す。
視界の端で、別の男が手を掲げていた。
風を使っている。
次の瞬間、身体の奥で何かが噛み合う感覚が走った。
《ウィンドLv1》を獲得。
空気の流れが、はっきりと分かる。
風は敵だけのものじゃない。
ライトは立ち上がり、踏み込む。
「《ウィンドLv1》」
足元に風を纏わせ、一気に距離を詰める。
相手が目を見開く。
剣が振り抜かれ、男は吹き飛んだ。
「……もう?」
リオナが一瞬だけ驚いた顔を見せる。
「使える」
それだけ答え、ライトは前を見る。
鎧の男が舌打ちし、後退する。
だが、フィーナが一歩前に出た。
地面に手をかざす。
水が揺れ、流れが変わる。
鎧の男の足元が崩れ、体勢が乱れた。
「今」
リオナが詠唱する。
「ファイアランス」
火の槍が一直線に走り、鎧の肩を貫いた。
男は呻き声を上げ、後退する。
撤退だ。
霧が立ち、視界が遮られる。
気配が散った。
静寂が戻る。
「……逃げた」
リオナが息を吐く。
「ああ」
ライトは剣を下ろした。
足元の感覚が、さっきまでと違う。
風が味方している。
「早いね」
フィーナが静かに言う。
「順応が」
「受けたものは、返すだけだ」
ミリュウが肩で鳴いた。
「ミリュ!」
川は何事もなかったかのように流れている。
だが、確実に分かった。
敵は揃え始めている。
こちらを試しながら。
ライトは川を見つめ、短く息を吐いた。
「戻ろう。次は、もっと大きく動く」
誰も異論はなかった。
朝日が、川面を照らし始めていた。
45
あなたにおすすめの小説
最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました
チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。
完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。
【捕食】
それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。
ゴブリンを食べれば腕力を獲得。
魔物を食べれば新スキルを習得。
レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。
森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。
やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。
これは――
最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる