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第48話
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街へ戻る道すがら、森を抜ける風がひどく静かだった。
葉擦れの音も、虫の気配も薄い。夜の森にしては不自然なほどだ。
ライトは歩調を変えず、街道へ出る。
松明の灯りが見え始めたころ、ようやく息を整えた。
「追ってこないな」
リオナが小さく言う。
「目的は達したんだろ」
「測る、か」
「ああ。力量と対応速度。それと……」
ライトは一瞬だけ肩のミリュウに視線を落とす。
「竜の反応」
ミリュウは落ち着いていた。警戒はしているが、怯えはない。
「ミリュ」
「問題ない」
街門をくぐると、空気が変わる。
人の匂い、生活の音、灯り。
だが視線は、確実に増えていた。
露骨ではない。
けれど、すれ違う冒険者の目が、一瞬だけミリュウで止まる。
「……噂、広がってるわね」
「止めようがない」
ギルドへ向かう途中、広場の端で足を止める。
そこに、見覚えのある背中があった。
勇者カイル。
アルシア、リデル、そしてグロウ。
全員揃っている。
こちらには気づいていない。
だが、話の内容ははっきりと聞こえた。
「……水の次は、森沿いだ」
カイルの声は低く、短い。
「街中でやる気はない。被害が出る」
「連中は引いたわけじゃない」
アルシアが淡々と続ける。
「条件を揃えてるだけ。こっちが動くのを待ってる」
グロウが腕を組む。
「なら、先に潰すか」
「いや」
カイルが即座に否定した。
「もう一段、様子を見る」
「……あいつのこと?」
リデルの視線が、街道の方を向いた。
カイルは答えない。
ただ一度だけ、目を細める。
「想定より、早い」
その言葉だけが、夜に落ちた。
ライトは、物陰から離れる。
「見られてたな」
「ええ。完全に」
「でも、動かない」
「今は、ね」
二人はギルドへ向かう。
扉を開けると、ミィナがすぐに気づいた。
「お帰りなさい。怪我は……」
「ありません」
即答すると、ミィナはほっと息を吐いた。
「ギルドマスターは奥です」
「お願いします」
グランは地図を広げたまま、顔を上げた。
「戻ったか」
「はい。街道側で再接触しました。撤退されましたが、組織的です」
「勇者パーティは?」
「街にいます」
グランは短く頷いた。
「想定通りだ」
指先が、地図の川沿いをなぞる。
「明日、ここで依頼を出す。正式なものだ」
「討伐ですか」
「調査だ。だが、戦闘は避けられん」
グランは視線を上げる。
「一人、追加する」
扉がノックされた。
「入ります」
柔らかな声。
扉の向こうに立っていたのは、淡い緑の髪を持つ少女だった。
人型だが、どこか輪郭が曖昧で、空気に溶けるような存在感。
ミリュウが、はっきりと反応する。
「ミリュ……」
少女は驚いたように目を見開き、すぐに微笑んだ。
「……竜の子」
ライトは、その一言で理解した。
この少女は、ただ者ではない。
「フィーナだ」
グランが紹介する。
「森と水に縁のある精霊だ。今回の件に関わる」
フィーナは一歩前に出て、軽く頭を下げた。
「よろしく。……争いは、好きじゃないけど」
視線が、ライトに向く。
「必要なら、力は貸す」
リオナが小さく息を呑んだ。
「精霊……」
「珍しい?」
「ええ。かなり」
グランは話を切る。
「明日は夜明け前に出る。準備を整えろ」
「分かりました」
ギルドを出ると、夜はさらに深まっていた。
宿へ向かう途中、フィーナが並ぶ。
「あなた、不思議」
「そうか」
「水と風、もう馴染んでる」
ライトは否定しない。
「使った」
「うん。だから分かる」
ミリュウが、フィーナに近づく。
「ミリュ」
「大丈夫。取らないよ」
小さく笑う。
宿に着き、部屋に入る。
剣を外し、椅子に腰を下ろす。
今日の戦いが、身体に残っている。
疲労ではない。反応の変化だ。
踏み込みが安定し、重心がぶれない。
「……悪くない」
ミリュウがベッドに丸まる。
フィーナは窓際に立ち、夜空を見ていた。
「明日、川沿い……動くね」
「ああ」
外で、遠く鐘が鳴る。
街は眠りにつこうとしているが、水面下では確実に流れが速くなっていた。
勇者パーティ。
組織的な敵。
精霊という新たな存在。
それらが同じ場所へ向かっている。
ライトは目を閉じ、短く息を吐いた。
明日は、今までとは違う一日になる。
それだけは、はっきりしていた。
葉擦れの音も、虫の気配も薄い。夜の森にしては不自然なほどだ。
ライトは歩調を変えず、街道へ出る。
松明の灯りが見え始めたころ、ようやく息を整えた。
「追ってこないな」
リオナが小さく言う。
「目的は達したんだろ」
「測る、か」
「ああ。力量と対応速度。それと……」
ライトは一瞬だけ肩のミリュウに視線を落とす。
「竜の反応」
ミリュウは落ち着いていた。警戒はしているが、怯えはない。
「ミリュ」
「問題ない」
街門をくぐると、空気が変わる。
人の匂い、生活の音、灯り。
だが視線は、確実に増えていた。
露骨ではない。
けれど、すれ違う冒険者の目が、一瞬だけミリュウで止まる。
「……噂、広がってるわね」
「止めようがない」
ギルドへ向かう途中、広場の端で足を止める。
そこに、見覚えのある背中があった。
勇者カイル。
アルシア、リデル、そしてグロウ。
全員揃っている。
こちらには気づいていない。
だが、話の内容ははっきりと聞こえた。
「……水の次は、森沿いだ」
カイルの声は低く、短い。
「街中でやる気はない。被害が出る」
「連中は引いたわけじゃない」
アルシアが淡々と続ける。
「条件を揃えてるだけ。こっちが動くのを待ってる」
グロウが腕を組む。
「なら、先に潰すか」
「いや」
カイルが即座に否定した。
「もう一段、様子を見る」
「……あいつのこと?」
リデルの視線が、街道の方を向いた。
カイルは答えない。
ただ一度だけ、目を細める。
「想定より、早い」
その言葉だけが、夜に落ちた。
ライトは、物陰から離れる。
「見られてたな」
「ええ。完全に」
「でも、動かない」
「今は、ね」
二人はギルドへ向かう。
扉を開けると、ミィナがすぐに気づいた。
「お帰りなさい。怪我は……」
「ありません」
即答すると、ミィナはほっと息を吐いた。
「ギルドマスターは奥です」
「お願いします」
グランは地図を広げたまま、顔を上げた。
「戻ったか」
「はい。街道側で再接触しました。撤退されましたが、組織的です」
「勇者パーティは?」
「街にいます」
グランは短く頷いた。
「想定通りだ」
指先が、地図の川沿いをなぞる。
「明日、ここで依頼を出す。正式なものだ」
「討伐ですか」
「調査だ。だが、戦闘は避けられん」
グランは視線を上げる。
「一人、追加する」
扉がノックされた。
「入ります」
柔らかな声。
扉の向こうに立っていたのは、淡い緑の髪を持つ少女だった。
人型だが、どこか輪郭が曖昧で、空気に溶けるような存在感。
ミリュウが、はっきりと反応する。
「ミリュ……」
少女は驚いたように目を見開き、すぐに微笑んだ。
「……竜の子」
ライトは、その一言で理解した。
この少女は、ただ者ではない。
「フィーナだ」
グランが紹介する。
「森と水に縁のある精霊だ。今回の件に関わる」
フィーナは一歩前に出て、軽く頭を下げた。
「よろしく。……争いは、好きじゃないけど」
視線が、ライトに向く。
「必要なら、力は貸す」
リオナが小さく息を呑んだ。
「精霊……」
「珍しい?」
「ええ。かなり」
グランは話を切る。
「明日は夜明け前に出る。準備を整えろ」
「分かりました」
ギルドを出ると、夜はさらに深まっていた。
宿へ向かう途中、フィーナが並ぶ。
「あなた、不思議」
「そうか」
「水と風、もう馴染んでる」
ライトは否定しない。
「使った」
「うん。だから分かる」
ミリュウが、フィーナに近づく。
「ミリュ」
「大丈夫。取らないよ」
小さく笑う。
宿に着き、部屋に入る。
剣を外し、椅子に腰を下ろす。
今日の戦いが、身体に残っている。
疲労ではない。反応の変化だ。
踏み込みが安定し、重心がぶれない。
「……悪くない」
ミリュウがベッドに丸まる。
フィーナは窓際に立ち、夜空を見ていた。
「明日、川沿い……動くね」
「ああ」
外で、遠く鐘が鳴る。
街は眠りにつこうとしているが、水面下では確実に流れが速くなっていた。
勇者パーティ。
組織的な敵。
精霊という新たな存在。
それらが同じ場所へ向かっている。
ライトは目を閉じ、短く息を吐いた。
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それだけは、はっきりしていた。
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