追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第50話

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 朝靄がまだ街路に残る時間帯、ライトたちはギルドの裏手にある小さな中庭に集まっていた。石畳の隙間に溜まった露が、踏み出すたびに靴底でかすかに鳴る。

 アリアは壁際で剣を立て、黙々と刃の状態を確かめている。獣人特有の鋭い感覚なのか、視線は常に周囲を捉え、気配の変化を逃さない。

「今日の依頼、街道警戒だったよな」

 ライトの言葉に、アリアは短く頷いた。

「魔獣だけじゃない。人間も混じってる可能性が高い」

 その隣で、フィーナが地面に手を当てている。淡い光が指先から滲み、土と草の様子を確かめるように揺れた。

「夜のうちに、かなり人が通ったみたい。足取りが乱れてる」

「急ぎ足か?」

「ううん。周りを警戒しながら歩いた感じ」

 リオナは腕を組み、少し離れた位置で街道の方角を見ていた。

「逃げる動きじゃないわね。様子見」

 その判断に、ライトも同意した。ここ最近の動きは、明らかにこちらの反応を測っている。強く出れば引き、弱ければ踏み込む。単純な襲撃ではない。

「行こう」

 短く告げ、ライトは歩き出す。ミリュウが肩で体勢を整え、小さく鳴いた。

「ミリュ」

 街道に出ると、空気が変わった。人の往来はあるが、どこか緊張が混じっている。荷車を引く商人の視線がやけに鋭く、道の脇に立つ旅人が不自然に距離を取る。

 最初に異変が起きたのは、古い橋の手前だった。

 風が、不自然に渦を巻く。

 アリアが即座に前に出る。

「来る」

 次の瞬間、橋の下から影が跳ね上がった。外套を翻し、刃が閃く。

 ライトは剣を抜き、踏み込む。

「《斬撃強化(中)》」

 刃がぶつかり、火花が散る。相手は一人ではない。左右から挟む動き。連携が取れている。

 リオナが後方で杖を掲げた。

「フレイムボール」

 火球が一人の足元を襲い、動きを止める。だが残る一人は、躊躇なく距離を詰めた。

 風圧が走る。

 刃に乗せた風が、一直線に叩きつけられる。

 ライトは半歩下がり、剣を横に払った。

「《ウィンドLv1》」

 風がぶつかり合い、進路が逸れる。威力は大きくない。だが、十分だった。

 アリアが間合いに入る。

 一閃。

 獣人剣士らしい鋭い踏み込みで、相手の腕を打ち落とす。

 短い戦闘だった。残った者たちは、橋の向こうへ散るように退いた。

「深追いはしない」

 ライトが言うと、誰も反対しなかった。目的は撃退ではない。動きを掴むことだ。

 フィーナが倒れた敵の近くにしゃがみ込む。

「この人……身体が少し変」

「改変か?」

「うん。無理やり流れを変えられてる」

 洞窟、集落、街道。点が線になりつつある。

 そのときだった。

 街道の反対側、丘の上に人影が立っている。

 一瞬だけ、視線が交錯した。

 勇者カイル。

 距離はある。声も届かない。だが、確かにこちらを見ていた。

 アルシアとリデルの姿もある。

 アリアが低く唸る。

「……面倒なのが来てるな」

「今日は、あっちも様子見だ」

 ライトは視線を外さず、静かに言った。

 数秒後、勇者パーティは何事もなかったかのように踵を返し、丘の向こうへ消えた。

「動いてるのは、私たちだけじゃない」

 リオナが小さく息を吐く。

「ああ」

 ライトは剣を鞘に収める。

 仲間が揃い、力も確実に積み重なっている。だが同時に、見えない網も狭まってきている。

 ミリュウが肩で鳴いた。

「ミリュ」

「分かってる」

 ライトは歩き出した。

 街道の先には、まだ知らない動きがある。
 それを避けるつもりは、最初からなかった。
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