追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第52話

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 街へ戻る途中、森を抜けたところで風向きが変わった。冷たい流れが地表を撫で、草の匂いが薄れる。道はなだらかに下り、視界が開けていく。

 アリアは足を止め、剣を抜かずに周囲を見回した。

「……来る」

 声は低く、短い。

 次の瞬間、斜面の上から土砂が崩れ落ちた。石混じりの塊が転がり、道を塞ぐ。その向こう、影が複数動いた。

「挟まれる」

 リオナが後退し、フィーナがライトの横に並ぶ。

 だが、アリアは前に出た。

「ここは私が行く」

 止める間もない。獣人の身体が一気に加速した。

 最初の敵が飛び出す。重装の兵士。盾と斧。動きは鈍いが、力任せの一撃は危険だ。

 アリアは半歩外へ流れ、斧をかわす。返す刃は、肩口ではなく脚。

 斬撃が入る。

 体勢が崩れた瞬間、二体目が背後から迫る。

 だが、アリアは振り返らない。

 踏み込みの角度が変わる。

 剣が低く走り、地面すれすれで跳ね上がった。

 敵の脇腹を正確に捉え、吹き飛ばす。

 動きに迷いがない。

 力で押さない。流れで切る。

 ライトは一歩も動かず、その背中を見ていた。

 剣の軌道が、以前よりも研ぎ澄まされている。

 アリアの剣が止まらない。

 三体目が距離を取って槍を構えた瞬間、彼女は一気に詰めた。

 間合いを殺す。

 槍の柄を弾き、肘から先を断つ。

 悲鳴が上がる前に、剣の峰で首元を打つ。

 敵が崩れ落ちる。

 残る影が一斉に後退した。

「……退くか」

 リオナが呟く。

 そのとき、風が変わった。

 背後。

 高所から、鋭い音。

 空気を裂く矢。

 ライトは即座に前へ出る。

「《ウィンドLv1》」

 風が軌道を逸らし、矢は地面に突き刺さる。

 同時に、アリアが振り返った。

「上だ」

 木の枝に、軽装の斥候。

 だが、その動きは人間ではない。

 着地と同時に距離を詰め、短剣が連続で走る。

 アリアは剣を立て、受ける。

 金属音が重なり、火花が散る。

 速い。

 だが、アリアの足が止まらない。

 一歩、半歩、さらに踏み込む。

 身体ごと押し込み、相手の懐へ入った。

 剣が水平に走る。

 外套が裂け、血が飛ぶ。

 斥候は地面を転がり、距離を取るが、もう遅い。

 アリアは追わない。

 その場で剣を下げた。

 相手が撤退を選ぶと、空気が一気に緩む。

「……強くなったな」

 リオナが率直に言った。

 アリアは肩をすくめる。

「前からだ」

 フィーナが小さく笑う。

「でも、安定してる」

 ライトは剣を鞘に収めた。

 胸の奥で、確かな手応えがあった。

 アリアの剣は、力任せではない。

 積み上げた動き。

 それが、今はっきりと形になっている。

「戻ろう」

 ライトが言う。

 全員が頷いた。

 街へ向かう道すがら、誰も口を開かなかった。

 だが、それぞれが感じていた。

 敵は散発的ではない。

 こちらの動きを測り、編成を変え、役割を分けている。

 それに対応できているのは、偶然じゃない。

 宿の灯りが見えたとき、ミリュウが小さく鳴いた。

「ミリュ」

「分かってる」

 ライトは短く答えた。

 次に動くのは、向こうだけじゃない。

 こちらも、もう揃っている。
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