追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第70話

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 川上へ続く道は、次第に人の手が入った痕跡を失っていった。踏み固められた土は消え、代わりに湿った落ち葉と露出した岩肌が増えていく。水音は近いが、視界は悪い。霧が低く垂れ込み、距離感を曖昧にしていた。

 ライトは先頭を歩きながら、剣から手を離さない。
 戦闘が終わってから、身体の感覚は安定している。呼吸も整っている。だが気を緩めるつもりはなかった。あの撤退の仕方は、単なる逃走じゃない。位置を明け渡しただけだ。

「この先、地形が変わる」

 フィーナが足を止め、低く告げた。
 草木の密度が薄くなり、代わりに岩と水路が増えている。

「川を制御してる。自然じゃない」

「水路か」

 リオナが頷く。

「魔導具を据えるなら、ああいう場所が一番効率いい」

 アリアが鼻で笑った。

「面倒な真似するよな。正面から来ればいいのに」

「正面だと、測れないからだ」

 ライトは視線を上げる。

「力じゃない。対応力を見てる」

 言葉を足さなくても、全員が理解した。
 洞窟、集落、夜襲、川沿い。すべて同じ目的に繋がっている。

 進んだ先で、川が分岐しているのが見えた。
 人工的に削られた水路跡。古いが、最近使われた形跡がある。

 そこで、気配が現れた。

 人影が三つ。
 今度は隠れもしない。正面から出てきた。

 装備は簡素だが、動きが揃っている。後方に一人、杖持ち。魔導具ではない。生身の魔導士だ。

「止まれ」

 低い声。

「これ以上、進むな」

 ライトは歩みを止めない。

「理由は?」

「その先は、管理区域だ」

 管理。
 言葉の選び方が、はっきりしすぎている。

「誰の?」

 魔導士は答えなかった。代わりに、杖を構える。

 空気が張り詰めた。

 最初に動いたのは相手だった。
 地面に走る電光。一直線ではない。拡散する雷だ。

 ライトは踏み込む。

「《サンダーLv1》」

 迎撃ではない。
 雷を打ち消すのではなく、進路をずらす。電光が地面へ逃げ、草を焦がす。

 一瞬の隙。

「《斬撃強化(大)》」

 前衛の一人が反応する前に、刃が入った。致命傷ではない。だが戦線から外れる。

 残る二人が距離を取る。

 リオナが前へ出た。

「下がって」

 詠唱は短い。

「フレイムボール」

 爆発は控えめ。逃げ場を潰すための火だ。

 相手は水で消しにかかる。
 だが、そこでライトが踏み込む。

「《ウォーターLv2》」

 流れを奪う。
 相手の水がまとまる前に散らされ、地面に落ちる。

 アリアが間合いに入る。

「遅い」

 一撃。
 残る前衛が倒れる。

 魔導士は迷わなかった。即座に後退し、霧の向こうへ消える。

 追撃はしない。

 静けさが戻る。

 ライトは剣を収め、水路跡を見下ろした。

「……拠点は近い」

「来る?」

 リオナが聞く。

「来る」

 即答だった。

「でも、同じやり方じゃない」

 フィーナが頷く。

「次は、人を使わない」

 アリアが笑う。

「なら、魔獣か?」

「違う」

 ライトは一歩、前へ出た。

「勇者パーティだ」

 空気が一瞬、変わる。

 その名を出すだけで、意味が通じた。

「向こうも、そろそろ動く」

 川の流れが、低く音を立てる。

 戦いは続く。
 だが、局面は確実に変わり始めていた。

 ライトは視線を上げ、霧の向こうを見据えた。
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