追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第69話

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 川上へ向かう道は、想像以上に荒れていた。
 増水した痕跡が残り、石は剥き出し、足元は不安定だ。だがライトは歩調を落とさない。足運びに迷いがない。身体が自然と、最も安定する位置を選んでいた。

 アリアが前を行き、周囲を見渡す。

「……匂いが濃いな。人も魔獣も混じってる」

「川沿いに集めてるな」

 リオナが低く言う。
 魔導士の目線で見ても、魔力の流れが歪だ。自然発生とは違う。意図的に誘導されている。

 フィーナは黙ったまま、川辺の草に触れた。

「……水が騒いでる。上流で、何かやってる」

 その言葉が終わる前に、霧の向こうが揺れた。

 出てきたのは魔獣だった。
 だが一体ではない。三体。水に濡れた体毛、赤く濁った目。統制はないが、突進の方向が揃っている。

「来るぞ」

 ライトは前へ出る。

「《斬撃強化(大)》」

 踏み込みが鋭い。
 一体目の魔獣が牙を剥いた瞬間、刃が横一線に走り、首元を裂いた。重さを感じさせない一撃。返す動きで二体目の脚を斬る。

 アリアが間合いに入る。

「遅い!」

 獣人の一撃が顎を打ち抜き、魔獣が地面に沈む。

 三体目が跳ぶ。
 水を蹴り、霧を裂き、一直線にライトへ。

「《ウォーターLv1》」

 放たれた水が地面を滑り、魔獣の踏み込みを崩す。
 勢いが殺された一瞬を逃さず、ライトは前へ。

 刃が深く食い込み、魔獣は動かなくなった。

 静寂。
 だが、それは短かった。

 上流から、重い音が響く。
 人だ。数は多くない。だが気配が揃っている。

「……やっぱり来たか」

 現れたのは、黒装束の集団。
 装備は統一されていないが、動きに無駄がない。後方には魔導具を持つ者が二人。

 最初に飛んできたのは火だった。

 直線的な火球。牽制だ。

 ライトは踏み込む。

「《ファイアLv1》」

 放った炎が正面からぶつかり、相殺する。
 衝突の衝撃が腕に伝わるが、崩れない。

 次が来る。水。
 川の流れを引き、刃状にまとめた攻撃。

「《ウォーターLv1》」

 今度は流れを読む。
 力で止めない。角度をずらし、逃がす。水刃は地面を抉るだけで終わった。

 連続する攻防。
 火、水、接近戦。

 身体が熱を帯びる。息は荒い。
 だが、踏ん張りが効く。衝撃を受けても、芯が揺れない。

 重装の一撃を正面から受け止めた瞬間、足が沈まずに耐えた。

 次の瞬間、確かな変化が走る。

《身体強化Lv2》

 力が増す。
 単純な上乗せではない。踏み込み、耐久、反応。すべてが一段、安定した。

 ライトは押し返す。

「《斬撃強化(大)》」

 刃が鎧の継ぎ目を裂き、相手が崩れる。

 リオナが後方から畳みかける。

「フレイムボール!」

 爆ぜた火が敵の隊列を乱す。

 水が飛ぶ。
 ライトは即座に応じる。

「《ウォーターLv2》」

 放たれた水は、先ほどより明確だった。
 厚みがあり、流れが安定している。相手の水魔法を押し流し、そのまま敵の足元を払った。

 同時に、炎が重なる。

「《ファイアLv2》」

 火力が違う。
 爆発ではない。貫く炎。逃げ場を焼く。

 黒装束の連中は判断が早かった。
 合図一つで散開し、霧の向こうへ消える。

 追わない。
 目的は果たした。

 川辺に残ったのは、荒れた地面と、焦げ跡だけ。

 アリアが剣を収める。

「……一気に来たな」

「来させた」

 ライトは短く答えた。

 リオナが息を整えながら言う。

「火と水、完全に馴染んでる。さっきとは別物ね」

 フィーナが頷く。

「身体も、強くなってる」

 ライトは剣を見下ろした。
 力は確かに増している。だが、浮つきはない。

 ミリュウが肩で鳴く。

「ミリュ」

「大丈夫だ」

 川の音が、元に戻っていく。

 敵は退いた。
 だが、終わったわけじゃない。

 ただ一つ、はっきりしたことがある。

 ――こちらは、もう試される側じゃない。

 歩き出す足取りは、迷いなく上流へ向いていた。
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