追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第75話

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渓谷の内部は、外から想像していた以上に深かった。

両側を切り立った岩壁に挟まれ、空は細い帯のようにしか見えない。足元には水が流れ、岩を削りながら低い音を立てている。濡れた苔が滑りやすく、踏み外せばそのまま下へ落ちる地形だった。

アリアが先頭で足場を確かめながら進む。

「……ここ、罠を張るにはちょうどいいな」

「だから使われてる」

ライトは短く答え、周囲から目を離さない。

視界は狭い。だが気配は広い。壁の向こう、水音の奥、空気の流れの中に、はっきりと人の動きが混じっていた。

フィーナが小さく息を吸う。

「……人、います。上。左右にも」

数は多くない。だが、配置がいい。逃げ道を塞ぎ、挟む位置だ。

フィオが一歩前に出た。

「ここから先は、私が先導する。水の流れは読める」

「任せる」

ライトは即答した。

躊躇はなかった。ここで主導権を譲れる相手だと、直感的に分かっている。

進んだ瞬間だった。

上方から岩が落ちてくる。狙いは前列ではなく中央。連携を崩す意図が見えた。

「来る!」

アリアが叫ぶ。

ライトは踏み込み、剣を抜く。

「《斬撃強化(大)》」

横薙ぎの一閃。落ちてきた岩を砕き、進路を確保する。同時に、左右から水が弾丸のように撃ち出された。

「《ウォーターLv2》」

放った水で正面の弾を逸らし、身体を沈める。

衝撃が来る。

だが、踏み込んだ脚が耐えた。

「《身体強化Lv2》」

意識するより早く、体が反応する。踏ん張りが効き、岩場でのバランスが崩れない。

背後でリオナが杖を振る。

「フレイムボール、三連」

火球が連なり、岩壁の影に潜んでいた二人を炙り出す。逃げた先に、アリアが踏み込んだ。

「遅い!」

獣人の脚力が炸裂し、距離を一瞬で詰める。刃が振るわれ、敵は地面に転がった。

上から風が来る。

鋭い。刃物のように切り込む流れ。

「《ウィンドLv2》」

ライトが放った風が正面からぶつかり、相手の軌道をねじ曲げる。衝突はしない。ただ、流れを殺す。

フィオがその隙に跳んだ。

「……そこ!」

槍が水面を貫き、隠れていた敵の肩を抉る。血が散り、男は後退する。

数秒で決着がついた。

倒れたのは三人。残りは撤退している。追わなかった。追う必要がない。

渓谷に、再び水音だけが残った。

リオナが息を整えながら言う。

「……今の連中、前より腕がいい」

「別働隊だ」

ライトは視線を上げた。

「ここは通路。拠点は、この先にある」

フィオが静かに頷く。

「そう。水の流れが、不自然に分かれている」

フィーナも同意した。

「……集められてます。人も、魔力も」

ライトは剣を鞘に収める。

「行く」

誰も異論を出さなかった。

渓谷の奥へ進むにつれ、足元の水位が上がる。湿った空気の中、人工的に削られた岩肌が見え始めた。

隠す気のない入口。

そこに、確かに“拠点”があった。
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