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第74話
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森を抜けると、地形は一変した。
樹木は低くなり、代わりに岩肌が露出している。踏み固められた獣道が何本も交差し、意図的に作られた導線が見て取れた。
「……拠点だな」
ライトは足を止め、周囲を見渡した。
野営跡がある。焚き火の灰は新しく、荷の跡も残っている。ここ数日で何度も使われた形跡だ。
アリアが地面を蹴る。
「守りは薄い。戦う場所じゃない」
「中継地点」
リオナが頷く。
「情報と物資だけ受け取って、すぐ移動するタイプ」
フィーナは岩壁に手を当て、目を閉じた。
「……人の気配は消えてる。でも、完全には隠してない」
つまり、急いで離れた。
追われることを前提に。
ライトは剣から手を離さず、奥へ進む。
岩陰の向こうで、何かが動いた。
「止まれ」
声は若い。
だが、怯えはない。
現れたのは一人の少女だった。
外套は簡素。武器は短槍。冒険者装備だが、どこか寄せ集めに見える。
「……追ってきたのは、あんたたち?」
ライトは頷いた。
「ここを使ってた連中を探してる」
少女は一瞬、歯を噛みしめた後、槍を下ろした。
「なら、方向は合ってる。あたしも、あいつらにやられた」
アリアが眉を上げる。
「一人で?」
「仲間は……逃げた。いや、散った」
声は淡々としていたが、拳は震えている。
リオナが一歩前に出る。
「名前は?」
「……フィオ」
短く答えた少女は、岩壁に背を預けた。
「魔導具と水使い、風の斥候、重装の前衛。あたしの村を通って行った。止めようとしたら、返り討ち」
ライトは即座に判断した。
情報が一致している。
「進行方向は?」
フィオは南を指した。
「渓谷。下に降りる道がある」
そのときだった。
遠くで、別の気配が動いた。
森ではない。
統制された足音。
アリアが舌打ちする。
「……来たな。別口だ」
フィーナが顔を上げる。
「強い人たち」
数秒後、姿を現したのは四人。
迷いのない歩き方。装備の質。無駄のない間合い。
勇者カイルを先頭に、アルシア、リデル、そしてグロウ。
カイルはライトを見て、わずかに目を細めた。
「……やはり、ここにいたか」
ライトは剣に手を添えたまま、答える。
「そっちも来てたか」
アルシアがフィオに視線を向ける。
「新顔?」
「関係ない」
ライトが遮る。
カイルは一瞬だけ黙り、それから言った。
「この先は、国の管轄になる。下がれ」
「断る」
即答だった。
リデルが静かに言う。
「忠告だ。奥にいるのは、今までの連中とは違う」
「分かってる」
ライトは渓谷の方を見る。
「だから、止まらない」
短い沈黙。
そして、カイルが小さく息を吐いた。
「……勝手にしろ。ただし、邪魔はするな」
「同じだ」
勇者パーティは進路をずらし、別の尾根へ向かっていった。
交わることなく、しかし同じ場所を目指している。
フィオが呟く。
「……あれが、勇者?」
アリアが笑った。
「肩書きは立派だな」
ライトは振り返る。
「行けるか」
フィオは槍を握り直した。
「……行く。今度は逃げない」
フィーナが頷く。
「一緒なら、通れる」
渓谷へ続く細道に、五人分の足音が重なる。
下から、湿った空気と微かな魔力のうねりが上がってきていた。
樹木は低くなり、代わりに岩肌が露出している。踏み固められた獣道が何本も交差し、意図的に作られた導線が見て取れた。
「……拠点だな」
ライトは足を止め、周囲を見渡した。
野営跡がある。焚き火の灰は新しく、荷の跡も残っている。ここ数日で何度も使われた形跡だ。
アリアが地面を蹴る。
「守りは薄い。戦う場所じゃない」
「中継地点」
リオナが頷く。
「情報と物資だけ受け取って、すぐ移動するタイプ」
フィーナは岩壁に手を当て、目を閉じた。
「……人の気配は消えてる。でも、完全には隠してない」
つまり、急いで離れた。
追われることを前提に。
ライトは剣から手を離さず、奥へ進む。
岩陰の向こうで、何かが動いた。
「止まれ」
声は若い。
だが、怯えはない。
現れたのは一人の少女だった。
外套は簡素。武器は短槍。冒険者装備だが、どこか寄せ集めに見える。
「……追ってきたのは、あんたたち?」
ライトは頷いた。
「ここを使ってた連中を探してる」
少女は一瞬、歯を噛みしめた後、槍を下ろした。
「なら、方向は合ってる。あたしも、あいつらにやられた」
アリアが眉を上げる。
「一人で?」
「仲間は……逃げた。いや、散った」
声は淡々としていたが、拳は震えている。
リオナが一歩前に出る。
「名前は?」
「……フィオ」
短く答えた少女は、岩壁に背を預けた。
「魔導具と水使い、風の斥候、重装の前衛。あたしの村を通って行った。止めようとしたら、返り討ち」
ライトは即座に判断した。
情報が一致している。
「進行方向は?」
フィオは南を指した。
「渓谷。下に降りる道がある」
そのときだった。
遠くで、別の気配が動いた。
森ではない。
統制された足音。
アリアが舌打ちする。
「……来たな。別口だ」
フィーナが顔を上げる。
「強い人たち」
数秒後、姿を現したのは四人。
迷いのない歩き方。装備の質。無駄のない間合い。
勇者カイルを先頭に、アルシア、リデル、そしてグロウ。
カイルはライトを見て、わずかに目を細めた。
「……やはり、ここにいたか」
ライトは剣に手を添えたまま、答える。
「そっちも来てたか」
アルシアがフィオに視線を向ける。
「新顔?」
「関係ない」
ライトが遮る。
カイルは一瞬だけ黙り、それから言った。
「この先は、国の管轄になる。下がれ」
「断る」
即答だった。
リデルが静かに言う。
「忠告だ。奥にいるのは、今までの連中とは違う」
「分かってる」
ライトは渓谷の方を見る。
「だから、止まらない」
短い沈黙。
そして、カイルが小さく息を吐いた。
「……勝手にしろ。ただし、邪魔はするな」
「同じだ」
勇者パーティは進路をずらし、別の尾根へ向かっていった。
交わることなく、しかし同じ場所を目指している。
フィオが呟く。
「……あれが、勇者?」
アリアが笑った。
「肩書きは立派だな」
ライトは振り返る。
「行けるか」
フィオは槍を握り直した。
「……行く。今度は逃げない」
フィーナが頷く。
「一緒なら、通れる」
渓谷へ続く細道に、五人分の足音が重なる。
下から、湿った空気と微かな魔力のうねりが上がってきていた。
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