追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第81話

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 森を抜けるにつれて、空気の質が変わった。

 湿り気が減り、代わりに土と鉄の匂いが混じる。人の手が入った土地特有の匂いだ。街から離れているが、完全な自然ではない。

 ライトは足を止め、指で地面をなぞった。

「轍が新しい」

 アリアが頷く。

「川沿いじゃない。内側の道だな」

 リオナは周囲を見回し、低い声で言った。

「表の流通じゃないわ。荷の量も少ない。人目を避けてる」

 フィーナは少し遅れて、木々の間を見つめている。

「……ここ、音が変」

 確かに、風の音が不自然だった。枝が揺れているのに、擦れる音が小さい。布で覆われているような吸われ方だ。

 ライトは剣に手を添えた。

「囲いがある」

 森を抜けた先に、低い土塁が見えた。木と土を組み合わせた簡易的な囲いだが、外からは中が見えない。見張りの姿はない。だが、油断できる作りでもない。

 アリアが歯を鳴らす。

「嫌な感じだ」

「正面からは行かない」ライトは短く言う。「回る」

 土塁に沿って進む。裏手に回ると、地面が踏み固められ、足跡が集中していた。入口は一つ。布で覆われ、内側からしか開けられない構造だ。

 ライトは合図を出す。

 アリアが前へ。リオナが少し距離を取る。フィーナは背後を押さえる。

 布が揺れた瞬間、光が漏れた。

 中は簡素な野営地だった。焚き火の跡、木箱、魔導具。人影が三つ。武装は軽いが、反応は速い。

「来たぞ!」

 声が上がるより早く、ライトは踏み込んだ。

「《斬撃強化(大)》」

 刃が一直線に走り、手前の男の武器を弾く。反撃が来る前に、アリアが横から入り、体勢を崩す。

 奥から水が飛ぶ。細い刃状。

 ライトは横にずれ、掌を向ける。

「《ウォーターLv2》」

 流れを当てる。量は増え、相手の水を押し返す力がある。衝突はしない。弾道だけを曲げる。

 リオナが詠唱する。

「スパーク」

 雷が地面を走り、木箱の影に隠れていた一人が跳ねる。威力は控えめだが、動きを止めるには十分だ。

 フィーナが一歩前に出た。地面に触れ、根を走らせる。足首が絡め取られ、男が倒れる。

 残る一人が後退しながら叫んだ。

「時間稼ぎだ! 合図を――」

 言葉は最後まで続かなかった。

 ライトが距離を詰め、柄で鳩尾を打つ。男は崩れ落ちた。

 静かになった野営地で、ライトは箱を開けた。

 中には魔導具と書簡。紋は同じ。だが、文字は街のものじゃない。

 リオナが覗き込む。

「外の言葉ね。しかも、軍用寄り」

 アリアが腕を組む。

「傭兵か?」

「それより組織だ」ライトは書簡を戻した。「指示系統がある」

 フィーナが顔を上げた。

「……来る」

 遠くで、土を踏む音。数は多くないが、統制されている。

 ライトは即座に判断する。

「撤退」

 壊すべきものは壊した。ここで消耗する必要はない。

 森へ戻りながら、アリアが言った。

「今までと違うな」

「ああ」

 リオナが続ける。

「測る相手が、私たちだけじゃなくなってる」

 ライトは走りながら頷いた。

 川、集落、森。

 点だったものが、線になり始めている。

 そして、その線の先にいるのは――ただの追手じゃない。

 ミリュウが肩で鳴いた。

「ミリュ」

「分かってる」

 ライトは進路を変え、街道とは逆へ走った。
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