追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第85話

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古い山道は、人の気配を拒むように静まり返っていた。踏み固められた痕跡はあるが、最近使われた様子はない。にもかかわらず、空気は澱んでいる。夜露に濡れた石畳が鈍く光り、進むほどに森の匂いが濃くなる。

ライトは先頭に立ち、歩幅を一定に保った。アリアは半歩後ろ、左右の死角を切る。リオナは視界の奥を読むように杖を握り、フィーナは足元の草木に意識を伸ばしている。ミリュウは肩で静かだ。

道が緩く折れ、谷に向かって下る。そこで、フィーナが足を止めた。

「……人の痕が重なってる」

指先が指し示すのは、岩陰に残る削れた跡。荷の重さが違う。単独じゃない。定期的だ。

アリアが低く笑う。「拠点に近いな」

ライトは頷き、歩みを止めない。谷底から、微かな金属音が上がってくる。打ち合わせじゃない。規則性がある。作業だ。

「距離、詰める」

短い合図で、全員が散る。視界の端に、明かりが二つ。火ではない。遮光された魔導灯だ。照らす範囲を絞っている。

影が動いた。見張りだ。軽装、二名。互いに背を預ける配置。間合いを保つ。

ライトは一歩踏み出し、石を蹴った。音はわずか。視線がこちらに向いた瞬間、剣が走る。

「《斬撃強化(大)》」

刃は短く、正確に。一人目の手首を弾き、得物が落ちる。二人目が声を上げる前に、アリアが入った。低い跳躍からの一撃で、体勢を崩す。

リオナが詠唱を切る。「ファイアランス」

火は線になる。地面に突き刺さり、逃げ道を塞ぐ。フィーナの蔦が足を取った。抵抗は短い。

谷へ下りると、簡素な施設が現れた。掘り下げた岩場に、仮設の梁。木箱が積まれ、帳簿が吊られている。拠点と呼ぶには小さいが、通過点には過ぎる。

ライトは箱の一つを開けた。中は魔導具の部品。水と風に偏っている。刻印は雑だが、量がある。

「流通だな」リオナが言う。「戦うためじゃない。運ぶため」

フィーナが帳簿を覗く。「……人の名前。印は二種類。回収と、試験」

アリアが顔をしかめる。「胸糞悪ぃ」

奥から足音。重い。装甲だ。ライトは箱を閉じ、前に出た。

現れたのは三人。中央は重装、左右は軽装。距離を測る動き。中央が一歩、踏み出す。

「通行証は?」

答えない。ライトは剣を構え、半歩入る。相手の重心が沈む。

「《身体強化Lv3》」

踏み込みが短くなる。距離が消える。刃が鎧の継ぎ目を叩き、衝撃が抜ける。重装が膝をついた。

左右が同時に来る。風が走る。

「《ウィンドLv2》」

流れを斜めに切る。足場が崩れ、二人の軌道がずれる。リオナが間合いを詰める。

「アイスカッター」

氷刃が地を裂き、逃げ道を断つ。フィーナの拘束が一瞬、決まる。

中央が魔導具を起動する。水圧。直線。

「《ウォーターLv2》」

水が返る。ぶつからない。芯を外し、霧にする。視界が割れた。

ライトは踏み込み、終わらせた。重装が倒れ、左右は撤退を選ぶ。追わない。ここは抑える場所だ。

静寂が戻る。ミリュウが小さく鳴いた。

「ミリュ」

ライトは帳簿を手に取った。頁の端に、山の印。古道の先。今日の目的地だ。

「片付いた」

アリアが肩を回す。「次だな」

「行く」ライトは短く答え、道を示した。

谷を抜ける風が、冷たい。だが足取りは重くない。
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