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第84話
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街を出る準備は静かに進んだ。
装備の確認も、食料の補充も、必要最低限だ。目立つ動きは避ける。今回向かうのは、依頼として名前の出ない場所。人の流れから外れ、戻る者の少ない古道だ。
夜明け前、ギルド裏の路地で合流する。
アリアは既に鎧を着け、剣を背負っていた。表情はいつも通りだが、耳がわずかに動いている。周囲の気配を拾っている証拠だ。
「時間通りだな」
「ああ。遅れてはいない」
リオナは杖を抱え、外套のフードを深くかぶっている。視線は街道の方角ではなく、逆側――山影へ向いていた。
「正規ルートじゃない。嫌な予感しかしないわね」
「だから行く」
ライトの返答は短い。
フィーナは最後に姿を見せた。土の匂いを帯びた外套。歩くたび、草木がわずかに揺れる。
「……朝露が荒れてる。最近、人が通った」
「馬車?」
「違う。徒歩。数は多くない」
それで十分だった。
ミリュウが肩で鳴く。
「ミリュ」
「分かってる。静かにな」
街を離れると、空気が変わる。人の匂いが薄れ、湿った土と苔の匂いが濃くなる。古道は舗装も崩れ、ところどころで草に呑まれていた。
進むにつれ、違和感が増す。
捨てられた荷。割れた水袋。火を使った痕跡。だが争った形跡はない。
「……連れていかれてる」
リオナが低く言う。
「抵抗の跡がない。自分から歩いてるか、歩かされてるか」
アリアが歯を鳴らした。
「胸糞悪ぃな」
ライトは足を止め、周囲を見渡した。道の脇、斜面の下に、かすかに残る魔力の痕。
「水……いや、混ざってる」
フィーナが頷く。
「ここ、境目。人為的に整えられてる」
罠ではない。結界でもない。ただ、逃げにくくするための地形操作だ。
「試験場だな」
ライトの言葉に、誰も否定しなかった。
進んだ先で、視界が開ける。
谷だ。下には古い施設跡。崩れた石壁と、半壊した塔。人が集められるには十分な空間。
そして――人影。
数人が列を作り、中央へ誘導されている。武装していない。冒険者でも兵でもない。一般人だ。
周囲を囲む影が動く。数は少ないが、配置が綺麗すぎる。
「……いたな」
アリアが囁く。
ライトは剣に手を掛けたが、抜かない。
「まだだ」
視線を巡らせる。
高台。崩れた塔の上。そこに立つ人影が一つ。
外套。フード。顔は見えない。
だが、こちらを見ている。
「見られてるわね」
リオナが息を詰める。
相手は逃げない。隠れもしない。ただ、待っている。
ライトは一歩、前に出た。
「……来いってか」
ミリュウが小さく鳴いた。
谷に風が落ちる。
その瞬間、塔の上の影が、ゆっくりと手を上げた。
合図だ。
周囲の影が一斉に動く。
だが、一般人には触れない。
狙いは――こちら。
ライトは剣を抜いた。
「分断されるな」
短い指示。全員が動く。
敵は数を抑え、逃げ道を潰しに来ている。殺しではない。捕縛でもない。
“測る”動きだ。
谷の入口が閉じる。
退路が断たれた。
ライトは前を見据えた。
ここは、戻れなくなる場所。
だが――引き返す気はなかった。
装備の確認も、食料の補充も、必要最低限だ。目立つ動きは避ける。今回向かうのは、依頼として名前の出ない場所。人の流れから外れ、戻る者の少ない古道だ。
夜明け前、ギルド裏の路地で合流する。
アリアは既に鎧を着け、剣を背負っていた。表情はいつも通りだが、耳がわずかに動いている。周囲の気配を拾っている証拠だ。
「時間通りだな」
「ああ。遅れてはいない」
リオナは杖を抱え、外套のフードを深くかぶっている。視線は街道の方角ではなく、逆側――山影へ向いていた。
「正規ルートじゃない。嫌な予感しかしないわね」
「だから行く」
ライトの返答は短い。
フィーナは最後に姿を見せた。土の匂いを帯びた外套。歩くたび、草木がわずかに揺れる。
「……朝露が荒れてる。最近、人が通った」
「馬車?」
「違う。徒歩。数は多くない」
それで十分だった。
ミリュウが肩で鳴く。
「ミリュ」
「分かってる。静かにな」
街を離れると、空気が変わる。人の匂いが薄れ、湿った土と苔の匂いが濃くなる。古道は舗装も崩れ、ところどころで草に呑まれていた。
進むにつれ、違和感が増す。
捨てられた荷。割れた水袋。火を使った痕跡。だが争った形跡はない。
「……連れていかれてる」
リオナが低く言う。
「抵抗の跡がない。自分から歩いてるか、歩かされてるか」
アリアが歯を鳴らした。
「胸糞悪ぃな」
ライトは足を止め、周囲を見渡した。道の脇、斜面の下に、かすかに残る魔力の痕。
「水……いや、混ざってる」
フィーナが頷く。
「ここ、境目。人為的に整えられてる」
罠ではない。結界でもない。ただ、逃げにくくするための地形操作だ。
「試験場だな」
ライトの言葉に、誰も否定しなかった。
進んだ先で、視界が開ける。
谷だ。下には古い施設跡。崩れた石壁と、半壊した塔。人が集められるには十分な空間。
そして――人影。
数人が列を作り、中央へ誘導されている。武装していない。冒険者でも兵でもない。一般人だ。
周囲を囲む影が動く。数は少ないが、配置が綺麗すぎる。
「……いたな」
アリアが囁く。
ライトは剣に手を掛けたが、抜かない。
「まだだ」
視線を巡らせる。
高台。崩れた塔の上。そこに立つ人影が一つ。
外套。フード。顔は見えない。
だが、こちらを見ている。
「見られてるわね」
リオナが息を詰める。
相手は逃げない。隠れもしない。ただ、待っている。
ライトは一歩、前に出た。
「……来いってか」
ミリュウが小さく鳴いた。
谷に風が落ちる。
その瞬間、塔の上の影が、ゆっくりと手を上げた。
合図だ。
周囲の影が一斉に動く。
だが、一般人には触れない。
狙いは――こちら。
ライトは剣を抜いた。
「分断されるな」
短い指示。全員が動く。
敵は数を抑え、逃げ道を潰しに来ている。殺しではない。捕縛でもない。
“測る”動きだ。
谷の入口が閉じる。
退路が断たれた。
ライトは前を見据えた。
ここは、戻れなくなる場所。
だが――引き返す気はなかった。
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