187 / 2,619
皇紀、ドライブ。 横浜篇
しおりを挟む
土曜日の夜。
俺は皇紀を誘ってドライブに出た。
皇紀は大人しい優しい性格のため、普段はあまり話をしない。
たまには男同士で外に出て、いろいろ話をしたかった。
フェラーリで横浜の金沢の海に行く。
「お前、柳が好きになったか?」
俺は行きの車の中で、皇紀に聞く。
「え、そんな……」
皇紀は突然の質問に戸惑うが、否定はしねぇ。
「別に誰を好きになったっていいんだぞ」
「いえ、でも」
「カァー! お前は煮え切らねぇ奴だなぁ! 柳は美人だしスタイルもいいし、楽しい奴だしな。いいじゃないか、あの女は」
「そ、そうですね」
「お前がドイツ語を勉強してるって言ったら驚いてたぞ」
「そうなんですか?」
皇紀の顔が少し明るくなる。
「あいつは勉強は真面目で出きる奴だけどな。それ以外のことはあんまりなんだよ。今回はそういうことに気付いたようだな。お前たちのお蔭だ」
「そうなら嬉しいです」
「それで柳のどこがいいんだよぅ?」
皇紀は抵抗したが、俺は無理矢理に聞く。
「そうですね。顔がキレイなのと、あとは僕なんかにも優しいことですかね」
年上お姉さんに憧れるガキそのものじゃねぇか。
「オッパイはどうだよ?」
「僕はそういうのは、あんまり」
「花岡さんって大きいですよね」
「ナニ!」
「タカさんは大きいのがいいんですか?」
「お前、ちゃんと反撃できる人間になってきたな!」
俺たちは笑った。
「別にどっちでもいいんだけどなぁ。緑子なんかは小さいじゃない」
「そういえば」
「でもあいつのことも大好きだしな」
「そうですか」
「響子なんか何にもねぇ!」
「アハハハ!」
車は横浜を抜ける。
「でもなぁ、花岡さんのは「魔乳」と言ってなぁ」
「なんですか、マニュウって?」
「どんなチッパイ好きな奴でも、ロリコンでも、あの乳を見たら魅了されるというものなんだよ」
「へぇー!」
「お前も見れば分かる」
「タカさんは見たんですね!」
「攻撃するな!」
男同士のくだらない会話はいい。
まあ、俺は女相手でもエロ話をするが。
「ちょっと海辺で軽く食べるか」
「いいですね!」
俺は横浜市内のスーパーを見つけ、車を停めて買い物をした。
残ったら亜紀ちゃんたちにも食べさせようと、大量の焼き鳥やその他の惣菜を買い込む。
出てくると、入り口脇に、花火の露天が出ていた。
面白そうなので、それも大量に、というかほとんど買い占めた。
「そんなに買って大丈夫なんですか?」
「花火っていうのは嫌になるほどやるもんなんだよ」
「そうなんですか」
まあ、残るだろうけど、家でもできるしな。
これも焼き鳥と一緒に土産だ。
金沢文庫の海岸に着いた。
皇紀に途中の寺の人形供養を見せて怖がらせようとしたが、門が閉まっていた。
残念。
夕涼みだろうか。
結構子どもを連れた人たちがいて、花火なんかもやっている。
カップルも多い。
俺たちはレジャーシートを敷いて、しばらく夜の海を眺めた。
「こういうのもいいですね」
皇紀がしんみりと言う。
こいつは大人しいが、感性は鋭い。
「俺は昼の海は好きじゃないんだが、夜の海は好きなんだよな」
「いいですよね」
《昼の光に、夜の闇の深さが分かるものか》(dass ich von Licht umgürtet bin. Ach, dass ich dunkel wäre und nächtig! )
「ニーチェの言葉だよなぁ。いいだろう!」
「はい!」
「ニーチェが言う昼の光というのは、神が人間のために用意したものだ。しかしニーチェは神が死んだことで、それ以外のものを求める必要があった。それが「夜」というものだ」
俺たちはまた、ニーチェの話で盛り上がる。
いつの間にか、多くの人が俺たちを囲んでいた。
何人かがスマホで写真を撮ったり、動画で撮影してるらしい奴もいる。
俺は一通り話して、周囲の人々に頭を下げた。
「こんな場所ですいません。息子と話が夢中になってしまいまして」
「いいえ! すばらしいお話でした!」
みんなが良かったと言ってくれた。
皇紀も子どもなのにすごかったとも褒めてもらう。
俺は嬉しくなり、大量の花火をみなさんに配って一緒にやりましょうと誘った。
焼き鳥などもみんなに配って、どんどん食べてくださいと言う。
二十人近い、大人も子どもも、熟年夫婦も若いカップルも、高校生らしき男女もいた。
みんなで花火大会をやった。
俺は噴射式の花火を両手と口にくわえ、くるくると回った。
みんなが拍手をしてくれる。
皇紀が同じことをしたがるので、拳骨を喰らわした。
みんなが笑う。
一時間も、それぞれに楽しんでもらった。
俺は高校生のカップルと仲良くなった。
女の子の方が、看護師になりたいのだと聞いたからだ。
「じゃあ、なったらうちの病院へ来いよ!」
「ほんとですか!」
俺は名刺を渡した。
「試験とかあるけどな!」
「えぇ、コネじゃ入れないんですか!」
「あたりまえだ!」
二人は笑って、女の子は絶対に面接に行くと言った。
花火が全部終わり、集まった人たちが後片付けはやると言ってくれた。
みんなが駐車場まで見送りに来てくれる。
俺と皇紀がフェラーリに乗り込むと、みんな驚いていた。
エンジンを暖気し、手を振って別れた。
翌週の月曜日。
一江から先週の報告と今週の予定を聞いた。
「おう! 問題ないな」
「はい、ところで」
一江がスマホで俺に動画を見せる。
スマホの小さな画面の中で、男が花火をくわえて楽しそうに舞っている。
「……」
「これって部長ですよね?」
「お前、なんでそれを!」
「大手投稿サイトで、「海辺でニーチェを語るフェラーリの男」という投稿を見つけました」
「だから、なんでそんなものを」
「部長、あれからずっと毎日ニーチェとかフェラーリとか検索してるんですよ! アレ、大変だったじゃないですか!」
「そうか、すまん」
「そうしたら昨日、投稿を見つけて。動画のURLも貼ってあったんです」
「もしかして?」
「そうですよ! 「フェラーリ・ダンディ」ともう繋がってますって!」
「……」
その夜。
俺はうろうろしている皇紀の尻を蹴り、亜紀ちゃんに叱られた。
俺は皇紀を誘ってドライブに出た。
皇紀は大人しい優しい性格のため、普段はあまり話をしない。
たまには男同士で外に出て、いろいろ話をしたかった。
フェラーリで横浜の金沢の海に行く。
「お前、柳が好きになったか?」
俺は行きの車の中で、皇紀に聞く。
「え、そんな……」
皇紀は突然の質問に戸惑うが、否定はしねぇ。
「別に誰を好きになったっていいんだぞ」
「いえ、でも」
「カァー! お前は煮え切らねぇ奴だなぁ! 柳は美人だしスタイルもいいし、楽しい奴だしな。いいじゃないか、あの女は」
「そ、そうですね」
「お前がドイツ語を勉強してるって言ったら驚いてたぞ」
「そうなんですか?」
皇紀の顔が少し明るくなる。
「あいつは勉強は真面目で出きる奴だけどな。それ以外のことはあんまりなんだよ。今回はそういうことに気付いたようだな。お前たちのお蔭だ」
「そうなら嬉しいです」
「それで柳のどこがいいんだよぅ?」
皇紀は抵抗したが、俺は無理矢理に聞く。
「そうですね。顔がキレイなのと、あとは僕なんかにも優しいことですかね」
年上お姉さんに憧れるガキそのものじゃねぇか。
「オッパイはどうだよ?」
「僕はそういうのは、あんまり」
「花岡さんって大きいですよね」
「ナニ!」
「タカさんは大きいのがいいんですか?」
「お前、ちゃんと反撃できる人間になってきたな!」
俺たちは笑った。
「別にどっちでもいいんだけどなぁ。緑子なんかは小さいじゃない」
「そういえば」
「でもあいつのことも大好きだしな」
「そうですか」
「響子なんか何にもねぇ!」
「アハハハ!」
車は横浜を抜ける。
「でもなぁ、花岡さんのは「魔乳」と言ってなぁ」
「なんですか、マニュウって?」
「どんなチッパイ好きな奴でも、ロリコンでも、あの乳を見たら魅了されるというものなんだよ」
「へぇー!」
「お前も見れば分かる」
「タカさんは見たんですね!」
「攻撃するな!」
男同士のくだらない会話はいい。
まあ、俺は女相手でもエロ話をするが。
「ちょっと海辺で軽く食べるか」
「いいですね!」
俺は横浜市内のスーパーを見つけ、車を停めて買い物をした。
残ったら亜紀ちゃんたちにも食べさせようと、大量の焼き鳥やその他の惣菜を買い込む。
出てくると、入り口脇に、花火の露天が出ていた。
面白そうなので、それも大量に、というかほとんど買い占めた。
「そんなに買って大丈夫なんですか?」
「花火っていうのは嫌になるほどやるもんなんだよ」
「そうなんですか」
まあ、残るだろうけど、家でもできるしな。
これも焼き鳥と一緒に土産だ。
金沢文庫の海岸に着いた。
皇紀に途中の寺の人形供養を見せて怖がらせようとしたが、門が閉まっていた。
残念。
夕涼みだろうか。
結構子どもを連れた人たちがいて、花火なんかもやっている。
カップルも多い。
俺たちはレジャーシートを敷いて、しばらく夜の海を眺めた。
「こういうのもいいですね」
皇紀がしんみりと言う。
こいつは大人しいが、感性は鋭い。
「俺は昼の海は好きじゃないんだが、夜の海は好きなんだよな」
「いいですよね」
《昼の光に、夜の闇の深さが分かるものか》(dass ich von Licht umgürtet bin. Ach, dass ich dunkel wäre und nächtig! )
「ニーチェの言葉だよなぁ。いいだろう!」
「はい!」
「ニーチェが言う昼の光というのは、神が人間のために用意したものだ。しかしニーチェは神が死んだことで、それ以外のものを求める必要があった。それが「夜」というものだ」
俺たちはまた、ニーチェの話で盛り上がる。
いつの間にか、多くの人が俺たちを囲んでいた。
何人かがスマホで写真を撮ったり、動画で撮影してるらしい奴もいる。
俺は一通り話して、周囲の人々に頭を下げた。
「こんな場所ですいません。息子と話が夢中になってしまいまして」
「いいえ! すばらしいお話でした!」
みんなが良かったと言ってくれた。
皇紀も子どもなのにすごかったとも褒めてもらう。
俺は嬉しくなり、大量の花火をみなさんに配って一緒にやりましょうと誘った。
焼き鳥などもみんなに配って、どんどん食べてくださいと言う。
二十人近い、大人も子どもも、熟年夫婦も若いカップルも、高校生らしき男女もいた。
みんなで花火大会をやった。
俺は噴射式の花火を両手と口にくわえ、くるくると回った。
みんなが拍手をしてくれる。
皇紀が同じことをしたがるので、拳骨を喰らわした。
みんなが笑う。
一時間も、それぞれに楽しんでもらった。
俺は高校生のカップルと仲良くなった。
女の子の方が、看護師になりたいのだと聞いたからだ。
「じゃあ、なったらうちの病院へ来いよ!」
「ほんとですか!」
俺は名刺を渡した。
「試験とかあるけどな!」
「えぇ、コネじゃ入れないんですか!」
「あたりまえだ!」
二人は笑って、女の子は絶対に面接に行くと言った。
花火が全部終わり、集まった人たちが後片付けはやると言ってくれた。
みんなが駐車場まで見送りに来てくれる。
俺と皇紀がフェラーリに乗り込むと、みんな驚いていた。
エンジンを暖気し、手を振って別れた。
翌週の月曜日。
一江から先週の報告と今週の予定を聞いた。
「おう! 問題ないな」
「はい、ところで」
一江がスマホで俺に動画を見せる。
スマホの小さな画面の中で、男が花火をくわえて楽しそうに舞っている。
「……」
「これって部長ですよね?」
「お前、なんでそれを!」
「大手投稿サイトで、「海辺でニーチェを語るフェラーリの男」という投稿を見つけました」
「だから、なんでそんなものを」
「部長、あれからずっと毎日ニーチェとかフェラーリとか検索してるんですよ! アレ、大変だったじゃないですか!」
「そうか、すまん」
「そうしたら昨日、投稿を見つけて。動画のURLも貼ってあったんです」
「もしかして?」
「そうですよ! 「フェラーリ・ダンディ」ともう繋がってますって!」
「……」
その夜。
俺はうろうろしている皇紀の尻を蹴り、亜紀ちゃんに叱られた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
223
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる