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ミーア
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ギルドマスターのアイギレンが駆け込んできた。
「トラティーヤ様!」
俺は顎で二階を示す。
ギルマスの部屋へ行くぞという合図だ。
アイギレンは職員に茶の手配をして、俺たちをすぐに案内した。
俺は獣人の少女にも一緒に来るように言う。
応接室のソファに座り、両隣にイリスと少女を座らせた。
「今回は、まことに申し訳ありませんでした!」
「あんな三下をのさばらせるようじゃ、ギルドの格もずい分と落ちたもんだなぁ」
「仰るとおりで、まことに申し訳ない」
詳しく聞けば、アイギレンの留守を知り、他に自分を止める格上の冒険者がいなかったことを見計らってのことだったらしい。
「それで、どう仕切るつもりだ?」
「はっ! あのパーティは資格剥奪の」
「そんなことは当たり前だ! 俺が言っているのは、この子に対するギルドの詫びだ」
「あ、そちらに関しては……」
「お前なぁ、処分なんていうのは子どもできるんだぞ。重要なのは被害者の方だ」
「君の名前は?」
「ミーア」
「カワイイ名前だなぁ、おい!」
俺が頭を撫でるよ、嬉しそうにミーアは笑う。
「ただちに、相応の慰謝料を」
「あいつら、無一文だぞ?」
「へ?」
「俺が全部巻き上げた」
「え、でもそうすると」
「ああ、この金をやればいいのか!」
「……」
アイギレンはちょっと不満そうな顔で俺を見る。
ただし、一言も口にはしない。
「冗談だよ。最初からそのつもりで巻き上げたんだ。それでギルドの詫びはどうすんだって話だよ」
「はい、ギルド職員がいながら暴力を防げなかったわけですから、しばらくは依頼達成の報酬を優遇する、というのはどうでしょうか」
俺はミーアを抱き寄せて言った。
「聞いたか、ミーア! 早速依頼をとりに行こう!」
「へ、あの?」
「イリス! ミーアの依頼に付き合うぞ!」
「はい、我が主」
「あの、ところでこちらの女性は?」
俺は何も応えずに、ミーアと階下へ降りる。
早くしなければ、いい依頼が無くなる。
「ミーア、いつもどういう依頼を受けるんだ?」
「私はまだF級なので、採集の依頼が多いです」
「よし!」
俺はF級の採集以来と、ついでにその上のE級の討伐以来を全部剥がして受付に持って行く。
「あの、これを全部ですか?」
「そうだ」
「か、かしこまりました!」
ギルドを出ると、それまで黙っていたイリスが聞いてくる。
「主は一体どういう身分なんだ?」
「ああ、言ってなかったな。俺はこの町の領主だよ」
「なんと!」
驚いたイリスが立ち止まって俺を見る。
「領主でありながら、森の中に住んでいるのか?」
「ああ、言ってなかったな。俺は一応黒の森の領主というか、まあ王だと言えばいいのかな」
「主、理解が追いつかないぞ」
「別にお前に分かってもらわなくて構わないよ」
「そんなぁ」
イリスは泣き顔に近い。
「あの、トラティーヤ様」
「うん? なにかな?」
「あの、どうして私なんかの依頼を手伝ってくれるんですか?」
「そりゃ、ミーアがカワイイからだよ」
俺はミーアの頭を撫でてやる。
嬉しそうに微笑む。
「でも、あんなに一杯、無理ですよ」
「大丈夫だよ、俺たちがいるからな」
「うーん」
ミーアは腕を組んで考え込む。
カワイイ。
俺は黒の森の隅々まで把握している。
採集の植物はすぐに依頼達成した。
討伐も、「探査」の魔法でなんなく終わる。
戦闘は一瞬だ。
ギルドに戻り、依頼達成の承認を受け、金貨一枚と銀貨三枚の報酬を受け取った。
「はい、今日の報酬だよ」
「え、でも私はほとんど何もしてませんから」
「いいんだよ。君の依頼受注なんだから」
「そんなぁ」
俺たちは、ちょっと遅い昼食を食べに行った。
「私なんか、お店になど入れませんよ」
ミーアが悲しそうに言った。
俺はミーアを見た。
どう見ても、汚い。
「そうだなぁ。先に宿屋だな」
俺は手近な宿屋に入り、洗い場を借り、ミーアを連れて行く。
たらいの水を魔法で温め、イリスに洗ってやるように言った。
一応、女の子だからなぁ。
その間に、俺は子ども用の服と下着を買ってくる。
イリスを呼び、ミーアに着せるように渡した。
ミーアは見違えるようになった。
身体に張り付いていた体毛は、輝きと共にフサフサになり、可愛らしい耳がピンと立った。
「よし! じゃあ本当に食事に行こうか。ミーア、お腹空いただろう!」
遠慮するミーアを、アーデルハイドでも高級な店に連れて行く。
好きなものを注文しろと言ったが、ミーアが本当に遠慮なく頼むわけはない。
俺が勝手に大量の食事を注文し、どんどんテーブルに置かせた。
「よし、じゃあ食べよう」
最初は手を出さなかったミーアも、恐る恐る口に入れてからは、恐ろしい勢いで食べた。
余程、腹が減っていたのだろう。
ミーアの身体は、泣きたいくらいに痩せていた。
俺たちは長い時間、店にいた。
すっかり日が暮れている。
「トラティーヤさん、イリスさん。今日は本当にありがとうございました」
「ああ、俺たちも楽しかったぞ。またな。じゃあ、宿まで送ってやろう」
「いえ、もう大丈夫ですから!」
ミーアが走って去っていった。
「どうする、イリス」
「ちょっと気になりますね」
ミーアが行った方向へ向かった。
途中に宿屋はなく、行き着いた先は黒の森に面した公園だった。
もちろん、その外側には魔獣よけの高い塀がある。
ミーアは、公園の隅に丸くなって寝ていた。
「ミーア」
俺が声を掛けると、驚いたように飛び起きた。
「あ、あの」
「いつもここで寝ているのか」
「は、はい」
「今日は収入があっただろう。宿に泊まらないのか?」
「はい。私のような弱い子どもは、力づくでとられちゃうこともあるので」
「……」
「イリス!」
「はい、主!」
「もうダメだ」
「はい、ダメですね」
「ミーア!」
「は、はい!」
「俺のうちに来い!」
「え、えぇー!」
俺はミーアを腰に抱えた。
反対にイリスを抱え、塀を飛び越えた。
「あの、どこへ!」
「だから、俺の家だよ」
「でも、もう夜ですよ!」
「ああ、月が綺麗だな」
「そんなことじゃ!」
「そうだな。ミーアの方がカワイイよな」
「えぇー!」
俺はそのまま疾走した。
「ぎゃーーーーー!」
イリスはなんとか耐えていた。
数分で家に着いたが、ミーアは気絶していた。
「トラティーヤ様!」
俺は顎で二階を示す。
ギルマスの部屋へ行くぞという合図だ。
アイギレンは職員に茶の手配をして、俺たちをすぐに案内した。
俺は獣人の少女にも一緒に来るように言う。
応接室のソファに座り、両隣にイリスと少女を座らせた。
「今回は、まことに申し訳ありませんでした!」
「あんな三下をのさばらせるようじゃ、ギルドの格もずい分と落ちたもんだなぁ」
「仰るとおりで、まことに申し訳ない」
詳しく聞けば、アイギレンの留守を知り、他に自分を止める格上の冒険者がいなかったことを見計らってのことだったらしい。
「それで、どう仕切るつもりだ?」
「はっ! あのパーティは資格剥奪の」
「そんなことは当たり前だ! 俺が言っているのは、この子に対するギルドの詫びだ」
「あ、そちらに関しては……」
「お前なぁ、処分なんていうのは子どもできるんだぞ。重要なのは被害者の方だ」
「君の名前は?」
「ミーア」
「カワイイ名前だなぁ、おい!」
俺が頭を撫でるよ、嬉しそうにミーアは笑う。
「ただちに、相応の慰謝料を」
「あいつら、無一文だぞ?」
「へ?」
「俺が全部巻き上げた」
「え、でもそうすると」
「ああ、この金をやればいいのか!」
「……」
アイギレンはちょっと不満そうな顔で俺を見る。
ただし、一言も口にはしない。
「冗談だよ。最初からそのつもりで巻き上げたんだ。それでギルドの詫びはどうすんだって話だよ」
「はい、ギルド職員がいながら暴力を防げなかったわけですから、しばらくは依頼達成の報酬を優遇する、というのはどうでしょうか」
俺はミーアを抱き寄せて言った。
「聞いたか、ミーア! 早速依頼をとりに行こう!」
「へ、あの?」
「イリス! ミーアの依頼に付き合うぞ!」
「はい、我が主」
「あの、ところでこちらの女性は?」
俺は何も応えずに、ミーアと階下へ降りる。
早くしなければ、いい依頼が無くなる。
「ミーア、いつもどういう依頼を受けるんだ?」
「私はまだF級なので、採集の依頼が多いです」
「よし!」
俺はF級の採集以来と、ついでにその上のE級の討伐以来を全部剥がして受付に持って行く。
「あの、これを全部ですか?」
「そうだ」
「か、かしこまりました!」
ギルドを出ると、それまで黙っていたイリスが聞いてくる。
「主は一体どういう身分なんだ?」
「ああ、言ってなかったな。俺はこの町の領主だよ」
「なんと!」
驚いたイリスが立ち止まって俺を見る。
「領主でありながら、森の中に住んでいるのか?」
「ああ、言ってなかったな。俺は一応黒の森の領主というか、まあ王だと言えばいいのかな」
「主、理解が追いつかないぞ」
「別にお前に分かってもらわなくて構わないよ」
「そんなぁ」
イリスは泣き顔に近い。
「あの、トラティーヤ様」
「うん? なにかな?」
「あの、どうして私なんかの依頼を手伝ってくれるんですか?」
「そりゃ、ミーアがカワイイからだよ」
俺はミーアの頭を撫でてやる。
嬉しそうに微笑む。
「でも、あんなに一杯、無理ですよ」
「大丈夫だよ、俺たちがいるからな」
「うーん」
ミーアは腕を組んで考え込む。
カワイイ。
俺は黒の森の隅々まで把握している。
採集の植物はすぐに依頼達成した。
討伐も、「探査」の魔法でなんなく終わる。
戦闘は一瞬だ。
ギルドに戻り、依頼達成の承認を受け、金貨一枚と銀貨三枚の報酬を受け取った。
「はい、今日の報酬だよ」
「え、でも私はほとんど何もしてませんから」
「いいんだよ。君の依頼受注なんだから」
「そんなぁ」
俺たちは、ちょっと遅い昼食を食べに行った。
「私なんか、お店になど入れませんよ」
ミーアが悲しそうに言った。
俺はミーアを見た。
どう見ても、汚い。
「そうだなぁ。先に宿屋だな」
俺は手近な宿屋に入り、洗い場を借り、ミーアを連れて行く。
たらいの水を魔法で温め、イリスに洗ってやるように言った。
一応、女の子だからなぁ。
その間に、俺は子ども用の服と下着を買ってくる。
イリスを呼び、ミーアに着せるように渡した。
ミーアは見違えるようになった。
身体に張り付いていた体毛は、輝きと共にフサフサになり、可愛らしい耳がピンと立った。
「よし! じゃあ本当に食事に行こうか。ミーア、お腹空いただろう!」
遠慮するミーアを、アーデルハイドでも高級な店に連れて行く。
好きなものを注文しろと言ったが、ミーアが本当に遠慮なく頼むわけはない。
俺が勝手に大量の食事を注文し、どんどんテーブルに置かせた。
「よし、じゃあ食べよう」
最初は手を出さなかったミーアも、恐る恐る口に入れてからは、恐ろしい勢いで食べた。
余程、腹が減っていたのだろう。
ミーアの身体は、泣きたいくらいに痩せていた。
俺たちは長い時間、店にいた。
すっかり日が暮れている。
「トラティーヤさん、イリスさん。今日は本当にありがとうございました」
「ああ、俺たちも楽しかったぞ。またな。じゃあ、宿まで送ってやろう」
「いえ、もう大丈夫ですから!」
ミーアが走って去っていった。
「どうする、イリス」
「ちょっと気になりますね」
ミーアが行った方向へ向かった。
途中に宿屋はなく、行き着いた先は黒の森に面した公園だった。
もちろん、その外側には魔獣よけの高い塀がある。
ミーアは、公園の隅に丸くなって寝ていた。
「ミーア」
俺が声を掛けると、驚いたように飛び起きた。
「あ、あの」
「いつもここで寝ているのか」
「は、はい」
「今日は収入があっただろう。宿に泊まらないのか?」
「はい。私のような弱い子どもは、力づくでとられちゃうこともあるので」
「……」
「イリス!」
「はい、主!」
「もうダメだ」
「はい、ダメですね」
「ミーア!」
「は、はい!」
「俺のうちに来い!」
「え、えぇー!」
俺はミーアを腰に抱えた。
反対にイリスを抱え、塀を飛び越えた。
「あの、どこへ!」
「だから、俺の家だよ」
「でも、もう夜ですよ!」
「ああ、月が綺麗だな」
「そんなことじゃ!」
「そうだな。ミーアの方がカワイイよな」
「えぇー!」
俺はそのまま疾走した。
「ぎゃーーーーー!」
イリスはなんとか耐えていた。
数分で家に着いたが、ミーアは気絶していた。
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