図書と保健の秘密きち

梅のお酒

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5 保健室①(倉田)

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「えっと、こんにちは」
「、、、」
「あはは、ここは一体?あなたは?先生はどこに?」
わからないことが多すぎて、思わず質問攻めしてしまう。
「ここは保健室で私は体調を悪くした生徒で先生はトイレ」
保健室か、とりあえず先生がいない子にホッとする。
「えっと、あなたは?」
次は向こうから話しかけてきた。
「私も同じく体調を悪くした生徒」
「そう。汗すごいけど大丈夫?」
「んー、ちょっとだるいかも」

コツコツコツコツ
保健室に向かって誰かが歩いてくる足音が聞こえる。
今の会話の流れからしてトイレに行った先生が返ってきているのだろう。
私はとっさに隠れようとベットの中に潜り込む。
あれ、なんで私は隠れたんだ?
ガララララ
「あれ、草餅。寝てなくて大丈夫なのか?」
「いえ、少しのどが渇いたので」
「そうか、入学式で倒れてるんだからのどを潤したらしばらく寝ておけよ」
「はい」
「、、、」
「、、、」
少女は私の潜り込んだベッドのほうをしばらく向いて何かを考えている様子だった。
「どうした?」
「いえ、なんでも」
それから少女は私が潜り込んだベッドにいそいそと入り込んできた。
そういえば、体調が悪くて保健室にいるって言ってたよな。もしかして私が潜り込んだベッドってこの子が寝てたベッドだったのか?
どうりで人のぬくもりを感じると思った。それにちょっといい匂いもするし。
冷静に考えると先生が保健室に入ってきた時点で、体調が悪いと説明すればうまくいっていたはず。教師に見つからないことを意識しすぎてとっさに隠れてしまった数分前の私を平手打ちしたい。
そんなことより今はこの状況をどうするか?保健室の先生は椅子に座り何やらパソコンをカチカチやっている。トイレも済ませたようだし、しばらくここを動く気配はない。
それに布団の中といえばさっきの少女の胸が私の目の前にあり、頭を抱え込まれているような体制になっている。
くそ、このベッド小さすぎるだろ。いや、いたって普通のサイズなのだが2人が入るとさすがに窮屈だった。
それに女の子に頭を胸に頭をうずめている私は変態だろうか。いや別に意図してそうなったわけではないので通報しないでほしい。というか、この少女はこの状況をどう思っているのだろうか?本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「なんかごめん」
先生にばれないよう、羽虫より小さな声で声をかけてみる。
「うん、こっちこそなんかごめん」
「いつかジュースかなんかおごらせて」
「それじゃあ、さくらソーダで」
「了解」
ミジンコより小さな声で何とかコミュニケーションが取れた。この少女と私の耳は猫よりいいのかも。というかミジンコはしゃべるのか?
それからしばらく同じ体制が続いた、授業終わりのチャイムが鳴らなければ先生が保健室を出る気配もない。
それにしてもこの少女からは何とも優しいにおいがする。なんというか一生匂っていたいような、落ち着く香り。ちょっと待てやっぱり私は変態か。少女のぬくもりを感じすぎて気がおかしくなってくる。
あー、柔らかい。思わず抱き着く。
少女は驚いたのか、体をブルっと震わせこちらを見てくる。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。ごめん。」

キーンコーンカーンコーン
ようやくチャイムが鳴った。ベッドにもぐりこんでからおそらく30分以上たっていたと思う。
「それじゃ、僕は職員室で会議があるから行くね。ゆっくり寝てていいから。なんかつらくなったら来て」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
それだけ言うと先生は保健室から出ていった。

私と少女はようやくベッドから顔を出す。
「いや、ほんとにごめん。君の寝てたベッドだって考えが全くなくてつい」
「こっちこそごめん。のど潤した後、別のベッドに移動して寝ればよかったよね。そこまで頭が回らなかった」
ははは、お互いさっきまでの状況のおかしさに顔を見合わせて思わず笑ってしまう。
「それより体調悪いならちゃんと寝とかないと」
「んーと、実は体調悪いってのはうそ。仮病よ仮病。それよりあなたこそ体調悪いから保健室に来たんじゃないの?」
とりあえず私は朝起きてからここに至るまでの経緯を説明してみる。
それを聞いて少女は腹を抱えて笑っていた。
「なんだあなたも新入生なんだ。私も新入生」
「そかそか、じゃあ同級生だ。クラスとかってもうわかってるの?」
「うん、朝昇降口前に張り出されてた。ちなみに私は1-E組」
「私わかんない、あははは、、、これからどうするの?授業に戻る?」
「戻ろうかな。君は?」
「戻ろっかな。戻るっていうか行くの初めてだけど、あはははは、、、」
「ほう。そろそろチャイムなりそうだし、急いで確認したほうがいいかも。それじゃ私先に行くね」
「うん」
少女は保健室を出て教室へと向かっていった。
そのまま出て行ってしまったけど、保健室の先生に戻ることを報告しなくていいのだろうか?
もうそんなこと考えてる暇はない。急いでクラス確認して教室に向かおう。さすがに次の授業遅刻したらどうしようもない。
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