図書と保健の秘密きち

梅のお酒

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6 保健室② (倉田)

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私と少女はようやくベッドから顔を出す。
「いや、ほんとにごめん。君の寝てたベッドだって考えが全くなくてつい」
「こっちこそごめん。のど潤した後、別のベッドに移動して寝ればよかったよね。そこまで頭が回らなかった」
ははは、お互いさっきまでの状況のおかしさに顔を見合わせて思わず笑ってしまう。
「それより体調悪いならちゃんと寝とかないと」
「んーと、実は体調悪いってのはうそ。仮病よ仮病。それよりあなたこそ体調悪いから保健室に来たんじゃないの?」
とりあえず私は朝起きてからここに至るまでの経緯を説明してみる。
それを聞いて少女は腹を抱えて笑っていた。
「なんだあなたも新入生なんだ。私も新入生」
「そかそか、じゃあ同級生だ。クラスとかってもうわかってるの?」
「うん、朝昇降口前に張り出されてた。ちなみに私は1-E組」
「私わかんない、あははは、、、これからどうするの?授業に戻る?」
「戻ろうかな。君は?」
「戻ろっかな。戻るっていうか行くの初めてだけど、あはははは、、、」
「ほう。そろそろチャイムなりそうだし、急いで確認したほうがいいかも。それじゃ私先に行くね」
「うん」
少女は保健室を出て教室へと向かっていった。
そのまま出て行ってしまったけど、保健室の先生に戻ることを報告しなくていいのだろうか?
もうそんなこと考えてる暇はない。急いでクラス確認して教室に向かおう。さすがに次の授業遅刻したらどうしようもない。

昇降口に行くと何人かが名簿を見に来ていた。ほとんど初対面だしクラス表見てもどれが誰だかわからんだろと思うが、すでに2人組、3人組でいる人たちは小学や中学が同じとかそういうことだろうか。もしかしてもう友達作り始まってたりするのか?
ほんとに最近の若いのはやることが早いのー。なんておばちゃんっぽくつぶやいてみる。
一体どうしたらそんなに早く初対面の人と打ち解けることができるのだろう。私が中学の時なんて始まって2週間は一人でいたような気がする。この時の私は、欠陥工事で建てられた建物は脆くすぐに崩れるように、手当たり次第に急いで作った関係はすぐに壊れる。何もしなくてもいつか気の合う人と深い関係が築けるから焦る必要はないといつも思っていた。
それから体育の授業が始まってペアの人と少しだけ仲良くなって、ペアの人が仲良かった人とほんの少しだけ仲良くなって、クラスが変わったらまた一人になって。
深い関係とはどんなものなのだろう。今までそんなものを築いたこともない私にはわからなかった。
2人で話しているときもいつも人ごとのように、グループ活動とかで大勢で話しているときは体こそみんなと輪に囲んでいたが、心はどこか遠くにあった。作り笑いで顔の筋肉がいたい。いつしか作り笑いすら浮かべられなくなり、私のそばから人はいなくなった。そしてペア活動グループ活動がある授業はさぼるようになっていた。

いつの間にか昇降口には誰もいなくなっていた。
えーと天海と、1-E組か。あれ?1-E組ってさっきの子と同じ?普段から他人の話をあまり聞いていない私にしては珍しく覚えていた。確かにあの出会いはだいぶ過激だったので覚えてしまうのも無理はない。
キーンコーンカーンコーン。やばい。
とりあえず時間もないし急いで教室に向かうとしますか。

教室の後ろのドアからこっそり入ると自分以外の全員が着席していた。そのため必然的にぽっかり空いている1席が私の席であり、座席表を確認する必要がなかったのは救いだ。
入学式と2時間目の授業にきていないというだけで浮いているのに、黒板前にある座席表をみんなの注目の中見に行くというのは流石に精神的にきつい。
ぽっかり空いていた私の席は窓側の1番前。ドアから一番遠いじゃん。なるべくみんなからの視線を集めないように、早歩きで席に向かう。
途中、保健室で会った少女とすれ違う。その少女は近くにいる人と3人で何やら楽しそうに会話をしていた。一瞬目が合う。そしてすぐになんか恥ずかしくなって目線をそらす。
そっか、もう知り合いがいるのか。
別に少女と仲良くなったわけではない。ただ保健室で30分ほど添い寝をしていただけ。いやもっと密着してた気もするが、、、そこはい置いておこう。
でも初めての同級生との会話ということで印象には残った。
あの少女を通り過ぎ自分の席に向かう。周りの席の人にちらちら見られたのが少し恥ずかしい。椅子に腰を下ろしたと同時に担任の先生らしき男性が入ってきて授業が始まった。 

新しい学生生活の始まりである。
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