2 / 276
第一部
2 エレナ、前世の記憶を思い出す
しおりを挟む
「エレナお嬢様。メリーですよ。見回りに参りました。御加減はいかがですか」
メリーの囁くような声のあと、ランタンの光が部屋を照らし、衣擦れが聞こえた。
いま考えるのはやめて、まずは心配性のメリーを安心させてあげないと。
「……メリー……」
わたしは声を振り絞って、部屋に入ってきたメリーを呼ぶ。
ベッドに駆け寄ってきたメリーは、サイドテーブルにランタンを置き、わたしの顔を覗き込む。
「エレナお嬢様! 目を覚まされたんですね! あぁ!」
メリーは手で顔を覆い涙を流している。
「……メリー。目が覚めたら喉が渇いたわ」
「かしこまりました。すぐにご用意いたします」
涙をエプロンで拭ったメリーは笑顔を見せ、サイドテーブルに置かれた水差しからコップに水を注ぐ。
「エレナお嬢様。無理をなさらずにゆっくりですよ」
メリーに支えられて水を飲ませてもらうと、気持ちが落ち着いてきたのが分かる。
時間をかけてコップの水を飲み干した。
「……ねぇメリー。わたしは気を失っていたのよね? どれくらい気を失っていたの?」
「三日でございます」
三日も……
「そう。ずいぶんと長く気を失っていたのね。メリーにも心配かけたでしょ?」
「えぇ。でも、エレナお嬢さま。心配していたのはメリーだけではありませんよ。旦那様も奥様もエリオット坊ちゃまも屋敷の使用人も、みんなエレナお嬢様の事を心配しておりました。それに……シリル殿下もご心配をされてました」
「お父様もお母様も、お兄様も、みんなも……シリル殿下も……」
メリーの真似して呟く。
何も考えなくても、メリーの言うエリオットが兄である事、それにシリル殿下が自分の婚約者である事は自然に理解できた。
登場人物のことはわかっている。
でも、やっぱりなんの作品に転生したのかは全く思い当たらない……
眉を顰めて考えていると、メリーが心配そうに覗き込む。
「エレナお嬢様。旦那様方も心配しておいでです。お嬢様さえ良ければお部屋にお呼びしてよろしいでしょうか?」
考えるのはやめようと思ったのに、また考え込んでしまった……
「わたしはいいけれど、みんなもう寝てる時間でしょ。無理に起こしてはいけないわ」
「皆さまエレナお嬢様を心配してなかなか寝付けない日々を過ごされてましたから、お顔を見て安心していただきましょう」
そう言ってメリーがお父様たちを呼びに行くと、静かだった部屋が一気に騒がしくなった。
とんでもなく顔のいい三人が続々と部屋に駆けつけ、わたしの顔を次々に覗き込む。
「あぁエレナ。よかった。またその愛らしい顔を見る事ができて嬉しいよ」
そう言ったのは、少し恰幅が良いけれど、優しそうな雰囲気のイケオジ。お父様だわ。
「私の愛するエレナ。まだ無理はしないでね。しっかりと休むのよ」
清楚な寝巻き姿でも、大人の色気が溢れ出ているお母様。
「エレナ。まだ痛いでしょう? 大丈夫? 僕が変わってあげられたらいいのに」
お兄様はまるで少女漫画の相手役みたいにイケメンで、泣きそうな顔でわたしの手を握りしめて、甘い言葉をかけてくれた。
「お父様、お母様、お兄様。心配おかけしました。もう大丈夫です」
わたしがそう言うと、みんなほっとした表情を浮かべる。なんて暖かい家族なんだろう。
本当は大丈夫なんかじゃない。だってわたしはいつものエレナじゃないのに。
きちんと伝えるべきなのに、みんなの顔を見ていたら何も言えない。
「エレナ。お医者様には明日の朝すぐ診ていただこう。今はゆっくりお休み」
そうお父様は言うと、わたしの頭をゆっくりと撫でておでこにキスをし、みんなの退室を促した。
疲れない様に配慮はしてくれたけれど、それでもやはり気を失ってから目覚めたばかりの身体には辛かったみたいだ。
みんなが部屋に戻ってからは、わたしはすぐに眠りについた。
メリーの囁くような声のあと、ランタンの光が部屋を照らし、衣擦れが聞こえた。
いま考えるのはやめて、まずは心配性のメリーを安心させてあげないと。
「……メリー……」
わたしは声を振り絞って、部屋に入ってきたメリーを呼ぶ。
ベッドに駆け寄ってきたメリーは、サイドテーブルにランタンを置き、わたしの顔を覗き込む。
「エレナお嬢様! 目を覚まされたんですね! あぁ!」
メリーは手で顔を覆い涙を流している。
「……メリー。目が覚めたら喉が渇いたわ」
「かしこまりました。すぐにご用意いたします」
涙をエプロンで拭ったメリーは笑顔を見せ、サイドテーブルに置かれた水差しからコップに水を注ぐ。
「エレナお嬢様。無理をなさらずにゆっくりですよ」
メリーに支えられて水を飲ませてもらうと、気持ちが落ち着いてきたのが分かる。
時間をかけてコップの水を飲み干した。
「……ねぇメリー。わたしは気を失っていたのよね? どれくらい気を失っていたの?」
「三日でございます」
三日も……
「そう。ずいぶんと長く気を失っていたのね。メリーにも心配かけたでしょ?」
「えぇ。でも、エレナお嬢さま。心配していたのはメリーだけではありませんよ。旦那様も奥様もエリオット坊ちゃまも屋敷の使用人も、みんなエレナお嬢様の事を心配しておりました。それに……シリル殿下もご心配をされてました」
「お父様もお母様も、お兄様も、みんなも……シリル殿下も……」
メリーの真似して呟く。
何も考えなくても、メリーの言うエリオットが兄である事、それにシリル殿下が自分の婚約者である事は自然に理解できた。
登場人物のことはわかっている。
でも、やっぱりなんの作品に転生したのかは全く思い当たらない……
眉を顰めて考えていると、メリーが心配そうに覗き込む。
「エレナお嬢様。旦那様方も心配しておいでです。お嬢様さえ良ければお部屋にお呼びしてよろしいでしょうか?」
考えるのはやめようと思ったのに、また考え込んでしまった……
「わたしはいいけれど、みんなもう寝てる時間でしょ。無理に起こしてはいけないわ」
「皆さまエレナお嬢様を心配してなかなか寝付けない日々を過ごされてましたから、お顔を見て安心していただきましょう」
そう言ってメリーがお父様たちを呼びに行くと、静かだった部屋が一気に騒がしくなった。
とんでもなく顔のいい三人が続々と部屋に駆けつけ、わたしの顔を次々に覗き込む。
「あぁエレナ。よかった。またその愛らしい顔を見る事ができて嬉しいよ」
そう言ったのは、少し恰幅が良いけれど、優しそうな雰囲気のイケオジ。お父様だわ。
「私の愛するエレナ。まだ無理はしないでね。しっかりと休むのよ」
清楚な寝巻き姿でも、大人の色気が溢れ出ているお母様。
「エレナ。まだ痛いでしょう? 大丈夫? 僕が変わってあげられたらいいのに」
お兄様はまるで少女漫画の相手役みたいにイケメンで、泣きそうな顔でわたしの手を握りしめて、甘い言葉をかけてくれた。
「お父様、お母様、お兄様。心配おかけしました。もう大丈夫です」
わたしがそう言うと、みんなほっとした表情を浮かべる。なんて暖かい家族なんだろう。
本当は大丈夫なんかじゃない。だってわたしはいつものエレナじゃないのに。
きちんと伝えるべきなのに、みんなの顔を見ていたら何も言えない。
「エレナ。お医者様には明日の朝すぐ診ていただこう。今はゆっくりお休み」
そうお父様は言うと、わたしの頭をゆっくりと撫でておでこにキスをし、みんなの退室を促した。
疲れない様に配慮はしてくれたけれど、それでもやはり気を失ってから目覚めたばかりの身体には辛かったみたいだ。
みんなが部屋に戻ってからは、わたしはすぐに眠りについた。
24
あなたにおすすめの小説
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない
miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。
家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。
いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。
「僕の心は君だけの物だ」
あれ? どうしてこうなった!?
※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。
※ご都合主義の展開があるかもです。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる