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第一部
8 エレナとシリル殿下
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メリーに選んでもらったのはゆったりとしたシルエットの、やっぱり青い、柔らかな綿のワンピースだった。
シンプルだけど襟元を一周する銀色の小花の刺繍が可愛いらしい。
「エレナー! 殿下がお待ちだから僕と一緒に部屋へ向かおう。着替え終わったらでておいでー」
あとは髪飾りにリボンをつけるだけ……というところでドアの外から、慌てた様子のお兄様の声が聞こえた。
「お兄様。おかえりなさいませ。もう少しお待ち下さーい!」
わたしの返事は聞こえなかったのか、お兄様の返事はなく、そのかわり外からガヤガヤと話し声が聞こえる。
どうしたのかしら?
メリーに急いで髪の毛を仕上げてもらい、ドアに向かう。
「お兄様お待たせしました」
ドアを開けてもらうと、わたしの目の前に絶世のイケメンが立っていた。
「でっ……殿下!」
「医師に治療を受けたと聞いたが、体調はどうだい? 一目でも早くエレナ嬢に会いたくてエスコートしに来たよ」
「殿下! 僕がエレナを連れていきますので、僕の部屋で待っていてくださいっ!」
感情の乗ってない微笑みを浮かべ、歯が浮くような甘いセリフを吐く殿下と、殿下をこの場から引き離そうと腕を引っ張るお兄様。
そしてその後ろには、殿下の側近兼護衛のランス様が無表情でたたずみ、この場を眺めていた。
ひとまず、挨拶した方がいいのよね?
スカートの裾をつかみ少し屈む。
「殿下。ランス様。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
殿下は軽く手をあげわたしに挨拶をすると、支度部屋に視線を送る。
メリーやメイド達に微笑みかけ、その後何かを見つけたのか目を見開き、一瞬わたしに視線を戻したと思うと、そっと視線をずらした。
眉間をぎゅっと掴んだ片手で顔を隠した殿下から、聞こえるか聞こえないかの小さなため息が漏れる。
えっと……殿下ったら、すごい嫌そうなんだけど。
そっと顔だけ振り返り、殿下が見たものを確認する。
ってまぁ、確認するまでもない。
開け放たれた支度部屋は、さっきメリーが出して来た青い服ばかりが広がっている。
うん。まぁ、そりゃ確かにドン引くよ。
でも……でも……
いくらドン引きだからって、婚約者が自分のイメージカラーの服ばかり着ていることに対して、あんな嫌そうなため息はないと思う……
やっぱり、エレナの事を重いって思ってるのかな。
支度部屋から殿下に視線を戻すと、ランス様が殿下の顔を覗き込んでいた。
殿下の一歳上の乳母兄でもあるランス様は、すでにご結婚も済まされているのに、側近としてお仕えするためにわざわざ一年遅らせてアカデミーに入学して殿下と寮暮らしをしていらっしゃる。
そんな設定だけで萌える関係性のお二人が顔を近づける。
あぁ。ランス様が身を屈めご自身の長めな亜麻色の前髪をかき上げて殿下の瞳を覗き込む姿は、なんて尊い……
ダメだ。二人の周りに、キラキラエフェクトが見える気がする。
エレナの衣装が殿下にドン引きされたんだろうなって事は一旦棚上げして、美しすぎる景色を瞼にしっかり焼き付けるように眺める。
「ごちそうさまです」
わたしの呟きに顔を上げたランス様と、目があってしまった。
「ごちそうさま? ですか?」
「いっいえ! なんでもございません! 殿下は大丈夫なのですか?」
「……殿下は少し公務が重なり多忙でしたので一瞬めまいを起こされたようです。少し座ることができればすぐ治りますのでご心配には及びません。エリオット様、エレナ様。殿下に休んでいただくために、この部屋をお借りしても? 落ち着かれましたら私が殿下をお連れいたしますから、エレナ様とお待ちいただけないでしょうか」
そういって再びランス様は心配そうに殿下の顔を覗き込んだ。
「エレナ。じゃあ、僕の部屋で待とう」
もう少しこの尊い景色を見ていたかったけど、背中を丸めて顔を手で覆っている殿下は、本当に具合が悪くそう。
お兄様の部屋で待つことにして、わたしの支度部屋に入る殿下を見送った。
シンプルだけど襟元を一周する銀色の小花の刺繍が可愛いらしい。
「エレナー! 殿下がお待ちだから僕と一緒に部屋へ向かおう。着替え終わったらでておいでー」
あとは髪飾りにリボンをつけるだけ……というところでドアの外から、慌てた様子のお兄様の声が聞こえた。
「お兄様。おかえりなさいませ。もう少しお待ち下さーい!」
わたしの返事は聞こえなかったのか、お兄様の返事はなく、そのかわり外からガヤガヤと話し声が聞こえる。
どうしたのかしら?
メリーに急いで髪の毛を仕上げてもらい、ドアに向かう。
「お兄様お待たせしました」
ドアを開けてもらうと、わたしの目の前に絶世のイケメンが立っていた。
「でっ……殿下!」
「医師に治療を受けたと聞いたが、体調はどうだい? 一目でも早くエレナ嬢に会いたくてエスコートしに来たよ」
「殿下! 僕がエレナを連れていきますので、僕の部屋で待っていてくださいっ!」
感情の乗ってない微笑みを浮かべ、歯が浮くような甘いセリフを吐く殿下と、殿下をこの場から引き離そうと腕を引っ張るお兄様。
そしてその後ろには、殿下の側近兼護衛のランス様が無表情でたたずみ、この場を眺めていた。
ひとまず、挨拶した方がいいのよね?
スカートの裾をつかみ少し屈む。
「殿下。ランス様。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
殿下は軽く手をあげわたしに挨拶をすると、支度部屋に視線を送る。
メリーやメイド達に微笑みかけ、その後何かを見つけたのか目を見開き、一瞬わたしに視線を戻したと思うと、そっと視線をずらした。
眉間をぎゅっと掴んだ片手で顔を隠した殿下から、聞こえるか聞こえないかの小さなため息が漏れる。
えっと……殿下ったら、すごい嫌そうなんだけど。
そっと顔だけ振り返り、殿下が見たものを確認する。
ってまぁ、確認するまでもない。
開け放たれた支度部屋は、さっきメリーが出して来た青い服ばかりが広がっている。
うん。まぁ、そりゃ確かにドン引くよ。
でも……でも……
いくらドン引きだからって、婚約者が自分のイメージカラーの服ばかり着ていることに対して、あんな嫌そうなため息はないと思う……
やっぱり、エレナの事を重いって思ってるのかな。
支度部屋から殿下に視線を戻すと、ランス様が殿下の顔を覗き込んでいた。
殿下の一歳上の乳母兄でもあるランス様は、すでにご結婚も済まされているのに、側近としてお仕えするためにわざわざ一年遅らせてアカデミーに入学して殿下と寮暮らしをしていらっしゃる。
そんな設定だけで萌える関係性のお二人が顔を近づける。
あぁ。ランス様が身を屈めご自身の長めな亜麻色の前髪をかき上げて殿下の瞳を覗き込む姿は、なんて尊い……
ダメだ。二人の周りに、キラキラエフェクトが見える気がする。
エレナの衣装が殿下にドン引きされたんだろうなって事は一旦棚上げして、美しすぎる景色を瞼にしっかり焼き付けるように眺める。
「ごちそうさまです」
わたしの呟きに顔を上げたランス様と、目があってしまった。
「ごちそうさま? ですか?」
「いっいえ! なんでもございません! 殿下は大丈夫なのですか?」
「……殿下は少し公務が重なり多忙でしたので一瞬めまいを起こされたようです。少し座ることができればすぐ治りますのでご心配には及びません。エリオット様、エレナ様。殿下に休んでいただくために、この部屋をお借りしても? 落ち着かれましたら私が殿下をお連れいたしますから、エレナ様とお待ちいただけないでしょうか」
そういって再びランス様は心配そうに殿下の顔を覗き込んだ。
「エレナ。じゃあ、僕の部屋で待とう」
もう少しこの尊い景色を見ていたかったけど、背中を丸めて顔を手で覆っている殿下は、本当に具合が悪くそう。
お兄様の部屋で待つことにして、わたしの支度部屋に入る殿下を見送った。
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