【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
8 / 276
第一部

8 エレナとシリル殿下

しおりを挟む
 メリーに選んでもらったのはゆったりとしたシルエットの、やっぱり青い、柔らかな綿のワンピースだった。
 シンプルだけど襟元を一周する銀色の小花の刺繍が可愛いらしい。

「エレナー! 殿下がお待ちだから僕と一緒に部屋へ向かおう。着替え終わったらでておいでー」

 あとは髪飾りにリボンをつけるだけ……というところでドアの外から、慌てた様子のお兄様の声が聞こえた。

「お兄様。おかえりなさいませ。もう少しお待ち下さーい!」

 わたしの返事は聞こえなかったのか、お兄様の返事はなく、そのかわり外からガヤガヤと話し声が聞こえる。

 どうしたのかしら?

 メリーに急いで髪の毛を仕上げてもらい、ドアに向かう。

「お兄様お待たせしました」

 ドアを開けてもらうと、わたしの目の前に絶世のイケメンが立っていた。

「でっ……殿下!」
「医師に治療を受けたと聞いたが、体調はどうだい? 一目でも早くエレナ嬢に会いたくてエスコートしに来たよ」
「殿下! 僕がエレナを連れていきますので、僕の部屋で待っていてくださいっ!」

 感情の乗ってない微笑みを浮かべ、歯が浮くような甘いセリフを吐く殿下と、殿下をこの場から引き離そうと腕を引っ張るお兄様。
 そしてその後ろには、殿下の側近兼護衛のランス様が無表情でたたずみ、この場を眺めていた。
 ひとまず、挨拶した方がいいのよね?
 スカートの裾をつかみ少し屈む。

「殿下。ランス様。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」

 殿下は軽く手をあげわたしに挨拶をすると、支度部屋に視線を送る。
 メリーやメイド達に微笑みかけ、その後何かを見つけたのか目を見開き、一瞬わたしに視線を戻したと思うと、そっと視線をずらした。
 眉間をぎゅっと掴んだ片手で顔を隠した殿下から、聞こえるか聞こえないかの小さなため息が漏れる。
 
 えっと……殿下ったら、すごい嫌そうなんだけど。

 そっと顔だけ振り返り、殿下が見たものを確認する。
 ってまぁ、確認するまでもない。
 開け放たれた支度部屋は、さっきメリーが出して来た青い服ばかりが広がっている。
 
 うん。まぁ、そりゃ確かにドン引くよ。

 でも……でも……
 いくらドン引きだからって、婚約者が自分のイメージカラーの服ばかり着ていることに対して、あんな嫌そうなため息はないと思う……
 やっぱり、エレナの事を重いって思ってるのかな。
 支度部屋から殿下に視線を戻すと、ランス様が殿下の顔を覗き込んでいた。

 殿下の一歳上の乳母兄でもあるランス様は、すでにご結婚も済まされているのに、側近としてお仕えするためにわざわざ一年遅らせてアカデミーに入学して殿下と寮暮らしをしていらっしゃる。
 そんな設定だけで萌える関係性のお二人が顔を近づける。

 あぁ。ランス様が身を屈めご自身の長めな亜麻色の前髪をかき上げて殿下の瞳を覗き込む姿は、なんて尊い……
 ダメだ。二人の周りに、キラキラエフェクトが見える気がする。
 エレナの衣装が殿下にドン引きされたんだろうなって事は一旦棚上げして、美しすぎる景色を瞼にしっかり焼き付けるように眺める。

「ごちそうさまです」

 わたしの呟きに顔を上げたランス様と、目があってしまった。

「ごちそうさま? ですか?」
「いっいえ! なんでもございません! 殿下は大丈夫なのですか?」
「……殿下は少し公務が重なり多忙でしたので一瞬めまいを起こされたようです。少し座ることができればすぐ治りますのでご心配には及びません。エリオット様、エレナ様。殿下に休んでいただくために、この部屋をお借りしても? 落ち着かれましたら私が殿下をお連れいたしますから、エレナ様とお待ちいただけないでしょうか」

 そういって再びランス様は心配そうに殿下の顔を覗き込んだ。

「エレナ。じゃあ、僕の部屋で待とう」

 もう少しこの尊い景色を見ていたかったけど、背中を丸めて顔を手で覆っている殿下は、本当に具合が悪くそう。

 お兄様の部屋で待つことにして、わたしの支度部屋に入る殿下を見送った。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...