【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
24 / 276
第一部

24 エレナと魔法少女

しおりを挟む
 王立学園アカデミーでの講義が終わり、わたしを講堂まで迎えに来てくれたお兄様と馬車に乗り込む。

「ごめんね、エレナ」

 お兄様が隣に座ってわたしの手を握る。わたしのことを見つめる緑色の瞳は潤んでいて、今にも泣き出しそう。
 悲壮感漂うイケメン……いい。

「お兄様、どうなさったの?」

 お兄様が泣くのを堪えていることに萌えている。なんてことを悟られない様に、優しく声をかける。

「僕がエレナの事守るだなんて言ってたくせに、コーデリア様とお話する時に何も助けてあげられなかった。怖かったでしょ」
「……?」
「ほら、コーデリア様って綺麗だけど何考えてるかわかんないし。エレナの話ずーっと値踏みするような顔して聞いて、結局、エレナの話は無視した挙句、いじめられるの我慢しろとか言い出すしさ。助けてあげたかったんだけど、何もできなくてごめんね」
「えっと、あの……ご挨拶だけのつもりだったのに、わたしが思いつきであんなに長々と話してしまって……せっかくお兄様や殿下にご用意いただいた場をめちゃくちゃにしてしまって。わたしの方が謝らなくちゃ」

 どう考えても、あの場の不穏な空気は、わたしの暴走が原因なのに、自分が助ける事が出来なかったと心を痛めている優しいお兄様のために、反省した素振りをみせる。

「コーデリア様の雰囲気に飲まれて、エレナが暴走してめちゃくちゃにすることなんて想像つくのに、本当にごめん。最近コーデリア様とお話する機会もなかったから、ついうっかり殿下と僕がいれば挨拶くらい大丈夫かな。なんて思っちゃったんだ。殿下なんかに任せないで、僕がちゃんと準備すればよかったんだ」

 あ、流石にお兄様でもわたしが暴走して場の空気を悪くしたって思っているのか。

 ……待って。
 お兄様はエレナ贔屓だから、自分が不甲斐ないと責めてるけど……
 殿下は、せっかく作った挨拶の場で、ズカズカと他人の領地の実情に踏み込んで勝手に同情して、その挙句なんの解決策もなく、殿下に頼れと放り投げられてどう思ったかしら……

「どっどうしようお兄様! わたし、殿下のこと怒らせてしまったかしら!」
「大丈夫だよ。殿下は怒るとかそう言う人間らしい感情はないもん。きっとコーデリア様に奪われた優位な立場を取り返すことしか考えてないから、エレナは心配しないで平気だよ」

 さっきからお兄様ったら、殿下がいないのをいいことにすごい事を言う。
 友達だからの軽口なのかしら……

「とにかく、シーワード公爵領については殿下にお任せして、周りのご令嬢達にいじめられたら僕にいうんだよ。それは絶対に助けるから。大丈夫? お友達はできそう?」

 相変わらず潤んだ瞳で、わたしの顔を心配そうに覗き込む。

 お兄様に心配かけない様に、今日スピカさんと仲良くなった事を伝えた。

「スピカ嬢? 聞いた事ないなぁ。どこの家のご令嬢?」

 あれ? もしかして同じくらいの身分のご令嬢としかお友達になっちゃいけなかったのかな。
 確かに午後の授業でスピカさんの隣の席に座ったら驚いた様子だったし……

「えっと、あの……魔法が使えて、今年王立学園アカデミーに特待生で入った同じクラスの女性です……」

 とりあえず平民って言わない方がいいのかな? 言葉を選んでスピカさんの説明をする。 

 泣きそうで潤んでいた、お兄様の目が見開いた。

「特待生? ってあの特待生?」
「あの? ってどのですか?」
「そっか。今年は特待生がいるって噂を聞いてはいたけど、本当にいたんだ」
「お兄様。なんだかよくわからないけど特待生がどうかしたの?」

 お兄様がいうには貴族の子女が通う王立学園アカデミーはかなり費用がかかるらしい。

 だから貴族以外だと手広く商売をして儲かってる商家の子女くらいじゃないと、おいそれと通えないんだって。

 もちろん優秀な人材を集めているから、勉強ができたり、剣技が得意だったり、魔法が使えたり突出した能力があれば平民でも王立学園アカデミーに入る事はできるけど、それでも普通は多額の費用がかかるからちょっと普通より能力があるくらいだと結局入るのを諦めちゃうみたい。
 でも、その費用を免除して特待生として迎え入れるっていうのは国が囲っておきたいレベルの才能があるって事らしい。

 特待生制度ができてまだ十年弱らしいけど、特待生は片手で数えるほどしかいないんだって。

 まぁ、高位貴族の方たちは、特待生になって国に縛り付けられるのを嫌がって特待生試験は受けないらしいけどね。
 お兄様は「僕も受けたら特待生だったと思うんだよね」とか言ってるけれど、お兄様がなれるなら勉強熱心なエレナもなれる気がするから、話半分に聞いておく。

 それにしてもスピカさんってそんなに才能溢れる人だったのね。
 明るくて可愛い、話しやすい子くらいにしか思ってなかった。

「よかったね! すごい人とお友達になれて」

 お兄様に笑顔でそう言ってもらえて、ちょっと行きたくない気持ちになっていた王立学園アカデミーに通うのが楽しみになった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...