111 / 276
第三部
10 エレナと騎士候補たちの訓練
しおりを挟む
「待って待って! ダスティン! 僕は無理だから!」
お兄様は慌てて顔の前で手をブンブン振る。
殿下の側付き騎士に抜擢された「三騎士」の一人であるダスティン様に、代々中央騎士団の将軍職を担っているフォスター公爵家の嫡男オーウェン様。
日頃から騎士になるために常に鍛えているお二人と、鍛えてないわけじゃない程度のお兄様じゃレベルが違う。
でも、そんなのお構いなしでダスティン様とオーウェン様が近づいてきた。
「エリオット様は王太子殿下の側近になられるのですから、不測の事態に備え、鍛える事は大切ですよ」
ダスティン様はさも当たり前の事を告げるように真顔でお兄様の肩に手を置き、その横でオーウェン様はニヤニヤしている。
「不測の事態が起きないようにするのが武官の役目でしょ。そのための稽古なんだから、文官を目指す僕なんかがしゃしゃり出るなんて悪いよ。しかるべき人に譲るよ」
「諦めが悪いぞエリオット」
お兄様がヘラヘラ笑って逃げ腰になっているのを、今度はオーウェン様が肩を抱き顔を寄せる。
ひぃっ。
柔和な癒し系イケメンのお兄様、色気たっぷり妖艶なイケメンのオーウェン様、凛々しい硬派なイケメンのダスティン様が顔を寄せ合っている姿は絵力が強い。
キラキラエフェクトにやられてしまう。
周りを見回せばわたしと同じようにご令嬢達がポーッとお兄様達を見つめていた。
「俺たちは騎士としてこの国を護るのを誓っているが、この国を護る事が殿下を護る事に繋がるとは限らないぜ。お前はいつも殿下の庇護下にいるんだ。不測の事態に備えておくに越したことはないだろ」
そう言ってオーウェン様はチラリとルーセント少尉を一瞥する。
ルーセント少尉は隣国出身とベリンダさんが言っていた。
エレナの知識を総動員してリズモンド王国について思い出す。
リズモンド王国はヴァーデン王国と大河を隔てた西側に位置する小国で、ルーセント少尉が産まれて間も無い頃にクーデターが起きて、今は当時の将軍が王位についている。
国を護る騎士達に国を奪われ、当時の王族達はみな処刑されたと聞く。
そもそもリズモンド王国は大国に囲まれていてその時その時の大陸内のパワーバランスに左右されやすい。
大陸で力があるのはヴァーデン王国の北に位置するファルファウラ帝国で、二十年余り前にリズモンド王国はヴァーデン王国につくかファルファウラ帝国につくか国内でも意見が二分していた。
そんな中、リズモンドの姫君が幼い頃から婚約していたヴァーデン王国の王太子殿下──いまの国王陛下に嫁ぐ時期が近づいて、ヴァーデン王国派に傾くと、リズモンドの姫君が儚くなられた一報が届く。
ファルファウラ帝国派の将軍達がその騒乱に乗じてクーデターを起こしたと言われている。
リズモンドの姫君の遺体は一度も確認されていないことから、将軍達が暗殺したんじゃないかとか、実はいまだに生きていて王族派に匿われているんじゃないかとかいろんな噂が流れている。
「もし、そんな不測の事態になった時は僕はペンを取りあらゆる術を使って異国で匿ってもらえるように戦うよ。イスファーンにあてだってあるしね。それにさ。本当に僕が剣をとって戦わなくちゃいけないほど万策が尽きたら、それこそ盾となるしかないもの」
「ええ! お兄様ったら、殿下の盾になるご覚悟がおありなの⁈」
わたしが驚くと、お兄様は心外そうな顔をする。
「だって僕と殿下は運命共同体なんだよ。万が一クーデターが起きて殿下が玉座を追われるような立場になったら僕の立場だってないよ」
「……お兄様なら殿下を売って、自分だけは助かると思いましたわ」
「最近のエレナは僕に厳しすぎやしない?」
じっとりとした眼差しで見つめられて慌てる。
やばい。ついお兄様がツッコミしやすいからとグイグイ言いすぎた。
エレナはそこまでツッコミする子じゃなかったかもしれないのに。
「そうかしら」
素知らぬ顔をして誤魔化そうとすると、フハッと吹き出す声が聞こえた。
メアリさんが目尻に涙を溜めて笑うのを耐えていた。
お兄様は慌てて顔の前で手をブンブン振る。
殿下の側付き騎士に抜擢された「三騎士」の一人であるダスティン様に、代々中央騎士団の将軍職を担っているフォスター公爵家の嫡男オーウェン様。
日頃から騎士になるために常に鍛えているお二人と、鍛えてないわけじゃない程度のお兄様じゃレベルが違う。
でも、そんなのお構いなしでダスティン様とオーウェン様が近づいてきた。
「エリオット様は王太子殿下の側近になられるのですから、不測の事態に備え、鍛える事は大切ですよ」
ダスティン様はさも当たり前の事を告げるように真顔でお兄様の肩に手を置き、その横でオーウェン様はニヤニヤしている。
「不測の事態が起きないようにするのが武官の役目でしょ。そのための稽古なんだから、文官を目指す僕なんかがしゃしゃり出るなんて悪いよ。しかるべき人に譲るよ」
「諦めが悪いぞエリオット」
お兄様がヘラヘラ笑って逃げ腰になっているのを、今度はオーウェン様が肩を抱き顔を寄せる。
ひぃっ。
柔和な癒し系イケメンのお兄様、色気たっぷり妖艶なイケメンのオーウェン様、凛々しい硬派なイケメンのダスティン様が顔を寄せ合っている姿は絵力が強い。
キラキラエフェクトにやられてしまう。
周りを見回せばわたしと同じようにご令嬢達がポーッとお兄様達を見つめていた。
「俺たちは騎士としてこの国を護るのを誓っているが、この国を護る事が殿下を護る事に繋がるとは限らないぜ。お前はいつも殿下の庇護下にいるんだ。不測の事態に備えておくに越したことはないだろ」
そう言ってオーウェン様はチラリとルーセント少尉を一瞥する。
ルーセント少尉は隣国出身とベリンダさんが言っていた。
エレナの知識を総動員してリズモンド王国について思い出す。
リズモンド王国はヴァーデン王国と大河を隔てた西側に位置する小国で、ルーセント少尉が産まれて間も無い頃にクーデターが起きて、今は当時の将軍が王位についている。
国を護る騎士達に国を奪われ、当時の王族達はみな処刑されたと聞く。
そもそもリズモンド王国は大国に囲まれていてその時その時の大陸内のパワーバランスに左右されやすい。
大陸で力があるのはヴァーデン王国の北に位置するファルファウラ帝国で、二十年余り前にリズモンド王国はヴァーデン王国につくかファルファウラ帝国につくか国内でも意見が二分していた。
そんな中、リズモンドの姫君が幼い頃から婚約していたヴァーデン王国の王太子殿下──いまの国王陛下に嫁ぐ時期が近づいて、ヴァーデン王国派に傾くと、リズモンドの姫君が儚くなられた一報が届く。
ファルファウラ帝国派の将軍達がその騒乱に乗じてクーデターを起こしたと言われている。
リズモンドの姫君の遺体は一度も確認されていないことから、将軍達が暗殺したんじゃないかとか、実はいまだに生きていて王族派に匿われているんじゃないかとかいろんな噂が流れている。
「もし、そんな不測の事態になった時は僕はペンを取りあらゆる術を使って異国で匿ってもらえるように戦うよ。イスファーンにあてだってあるしね。それにさ。本当に僕が剣をとって戦わなくちゃいけないほど万策が尽きたら、それこそ盾となるしかないもの」
「ええ! お兄様ったら、殿下の盾になるご覚悟がおありなの⁈」
わたしが驚くと、お兄様は心外そうな顔をする。
「だって僕と殿下は運命共同体なんだよ。万が一クーデターが起きて殿下が玉座を追われるような立場になったら僕の立場だってないよ」
「……お兄様なら殿下を売って、自分だけは助かると思いましたわ」
「最近のエレナは僕に厳しすぎやしない?」
じっとりとした眼差しで見つめられて慌てる。
やばい。ついお兄様がツッコミしやすいからとグイグイ言いすぎた。
エレナはそこまでツッコミする子じゃなかったかもしれないのに。
「そうかしら」
素知らぬ顔をして誤魔化そうとすると、フハッと吹き出す声が聞こえた。
メアリさんが目尻に涙を溜めて笑うのを耐えていた。
7
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる