119 / 276
第三部
18 エレナ、ボルボラ諸島を観光する
しおりを挟む
「デスティモナ殿。殿下がお呼びです」
殿下の側近であるランス様が私たちのそばにやってきた。
デスティモナと呼ばれた役人は黙りわたしにウィンクをする。
さっきのこと考えといてねって言いたいのね。
「殿下がホテルの計画について聞きたいとおっしゃっています」
「本当ですか?」
「さあ、早く向かってください」
ランス様に追い立てられてるっていうのに、目を輝かせて走り去る姿はまるで大型犬みたいだった。
「エレナ様。随分と楽しげにお話しされてましたがお気をつけくださいね」
ランス様は冷ややかな視線をさっきの役人に向けたままわたしにそう告げた。
役人が走っていった先にいる殿下は、相変わらず穏やかな微笑みを浮かべている。
けれど、わたしと視線が絡まった目の奥は笑っていなかった。
ドロリとした感情がわたしの心を覆う。
「申し訳ありません。迂闊でした」
ランス様に頭を下げる。
役人のお仕着せを着ているからと油断してはいけない。
王国内の貴族でデスティモナの名を知らないものはいない。
国内でも有力な伯爵家の家名だ。
ヴァーデン王国の王宮で働く役人達は貴族が多い。
貴族と言っても、もちろん代々王宮仕えをしている領地を持たない下級貴族や、領地を継ぐ予定のない嫡男以外が大半だ。
でも、領主の後継者であっても国に忠誠を誓っていることを示すために一定期間は役人として国に仕えなくてはいけない。
お兄様は侯爵家の跡取りだけど、王立学園を卒業すれば、文官として殿下の側近になる予定らしいし、公爵家の跡取りであるオーウェン様やダスティン様だって武官として騎士団の所属になる。
デスティモナ伯爵家の御令息が文官として王宮に仕えているのは何の違和感もない。
デスティモナ伯爵家は国内随一の資産家で銀行業を営んでいる。
その資産は国の予算を超えるとも言われている。
今回対岸の島を落札しホテルを建設しているのもデスティモナ伯爵家だ。
リゾートホテルを建設すれば、目新しい物好きな富裕層がヴァカンスに押し寄せる。
ヴァーデン王国の富裕層は貴族だけじゃない。
メアリさんが嫁ぐ予定のジェームズ商会は爵位はないけれど、役人として国からの給金をもらっているだけの下級貴族よりも資産が多い。
それに商家であれば養殖真珠が売れるとわかれば仕入れの商談にも繋がり、貴族相手にアクセサリーひとつ売るよりも大きい金額が動く。
つまり、ヴァカンスに来る商家の方々に養殖真珠の買い付けの商談をするときに、国内貴族やイスファーン王国で養殖真珠の需要が高まっていることを売りにしたいんだろう。
イスファーン王国で養殖真珠の需要を高めるためにエレナを利用しようと近づいて来た。
「エレナ様は、シリル殿下のご婚約者なのですからお立場を弁えて頂かなくてはなりません」
いくらかりそめでも、一応は殿下の婚約者であるエレナが利用される立場でいるのは都合が悪い。
王族は人の上に立つべくして振る舞う。為政者として利用する立場だ。
なのに、ランス様を使いにやらないと利用されそうになっていることに気がつけない、役立たずなエレナに、殿下は怒っているのだろう。
デスティモナ伯爵家の御令息だとわかっていれば利用されないように振る舞えたはず。
でも、社交界にデビューしていないエレナは本で得た知識はあっても、貴族達の顔はわからない。
王立学園の子息達だってまだ覚えきれていないくらいだ。
こちらを見ていた殿下の視線が外され、周りの視線も冷ややかだ。
わたしはデイ・ドレスの裾をギュッと握る。
「申し分けなく思っております」
「いえ、失礼しました。私も強く言いすぎました」
「ランス様が謝る必要なんてないわ」
ランス様が頭を下げるのを見てわたしは首を横に振る。
「ただ、エレナ様にはご自身の振る舞いが殿下にどう思われるか、少しお考えいただきたく思った次第です」
「周りの方々は利用されようとしているのに気が付かないわたしに呆れていらっしゃったでしょう。それに気がつかないわたしにきっと失望されたわ」
わたしの返事にランス様からため息が漏れた。
殿下の側近であるランス様が私たちのそばにやってきた。
デスティモナと呼ばれた役人は黙りわたしにウィンクをする。
さっきのこと考えといてねって言いたいのね。
「殿下がホテルの計画について聞きたいとおっしゃっています」
「本当ですか?」
「さあ、早く向かってください」
ランス様に追い立てられてるっていうのに、目を輝かせて走り去る姿はまるで大型犬みたいだった。
「エレナ様。随分と楽しげにお話しされてましたがお気をつけくださいね」
ランス様は冷ややかな視線をさっきの役人に向けたままわたしにそう告げた。
役人が走っていった先にいる殿下は、相変わらず穏やかな微笑みを浮かべている。
けれど、わたしと視線が絡まった目の奥は笑っていなかった。
ドロリとした感情がわたしの心を覆う。
「申し訳ありません。迂闊でした」
ランス様に頭を下げる。
役人のお仕着せを着ているからと油断してはいけない。
王国内の貴族でデスティモナの名を知らないものはいない。
国内でも有力な伯爵家の家名だ。
ヴァーデン王国の王宮で働く役人達は貴族が多い。
貴族と言っても、もちろん代々王宮仕えをしている領地を持たない下級貴族や、領地を継ぐ予定のない嫡男以外が大半だ。
でも、領主の後継者であっても国に忠誠を誓っていることを示すために一定期間は役人として国に仕えなくてはいけない。
お兄様は侯爵家の跡取りだけど、王立学園を卒業すれば、文官として殿下の側近になる予定らしいし、公爵家の跡取りであるオーウェン様やダスティン様だって武官として騎士団の所属になる。
デスティモナ伯爵家の御令息が文官として王宮に仕えているのは何の違和感もない。
デスティモナ伯爵家は国内随一の資産家で銀行業を営んでいる。
その資産は国の予算を超えるとも言われている。
今回対岸の島を落札しホテルを建設しているのもデスティモナ伯爵家だ。
リゾートホテルを建設すれば、目新しい物好きな富裕層がヴァカンスに押し寄せる。
ヴァーデン王国の富裕層は貴族だけじゃない。
メアリさんが嫁ぐ予定のジェームズ商会は爵位はないけれど、役人として国からの給金をもらっているだけの下級貴族よりも資産が多い。
それに商家であれば養殖真珠が売れるとわかれば仕入れの商談にも繋がり、貴族相手にアクセサリーひとつ売るよりも大きい金額が動く。
つまり、ヴァカンスに来る商家の方々に養殖真珠の買い付けの商談をするときに、国内貴族やイスファーン王国で養殖真珠の需要が高まっていることを売りにしたいんだろう。
イスファーン王国で養殖真珠の需要を高めるためにエレナを利用しようと近づいて来た。
「エレナ様は、シリル殿下のご婚約者なのですからお立場を弁えて頂かなくてはなりません」
いくらかりそめでも、一応は殿下の婚約者であるエレナが利用される立場でいるのは都合が悪い。
王族は人の上に立つべくして振る舞う。為政者として利用する立場だ。
なのに、ランス様を使いにやらないと利用されそうになっていることに気がつけない、役立たずなエレナに、殿下は怒っているのだろう。
デスティモナ伯爵家の御令息だとわかっていれば利用されないように振る舞えたはず。
でも、社交界にデビューしていないエレナは本で得た知識はあっても、貴族達の顔はわからない。
王立学園の子息達だってまだ覚えきれていないくらいだ。
こちらを見ていた殿下の視線が外され、周りの視線も冷ややかだ。
わたしはデイ・ドレスの裾をギュッと握る。
「申し分けなく思っております」
「いえ、失礼しました。私も強く言いすぎました」
「ランス様が謝る必要なんてないわ」
ランス様が頭を下げるのを見てわたしは首を横に振る。
「ただ、エレナ様にはご自身の振る舞いが殿下にどう思われるか、少しお考えいただきたく思った次第です」
「周りの方々は利用されようとしているのに気が付かないわたしに呆れていらっしゃったでしょう。それに気がつかないわたしにきっと失望されたわ」
わたしの返事にランス様からため息が漏れた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる