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第三部
24 エレナとお兄様と逃避行
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船に乗り込むとすぐ、わたしはお兄様の腕をひき、甲板に向かう。
「急に、帰ろうなんて何があったの?」
アイラン様にはネネイとメリーと一緒に客室に向かってもらったので、さっさと話を済ませるために本題から入る。
「えっと。ごめんねエレナ。アイラン様が僕を待ってるから早く行かなくちゃ……」
自分の気持ちに嘘をつくのが苦手なお兄様は、都合が悪くなると話を逸らして誤魔化す。
わたしは悲しげにかぶりを振るお兄様の腕を掴む手に力を込め、逃げ出すのを防ぐ。
「待って! 殿下にご挨拶もしないで島を後にして問題は起きないの? アイラン様を連れ出したなんて大事になる気しかしないわ!」
「別に、問題になんてならないよ。殿下がどうにかするでしょ」
投げやりな態度に呆れたわたしは、お兄様に顔を近づける。
「お兄様は、わたしが衝動的に動くことを咎めるくせに、お兄様も人のこと言えないじゃない」
「ちゃんと手紙は置いて出たし、そもそも婚約式も披露のパーティもつつがなく終わって、招待客の大半はもう帰路についてる。イスファーンの大使達だって、国の有力者たちだって、なんならお父様もお母様もお帰りになってるでしょ? 僕たちは、ヴァカンスがてら残って島の観光をする予定だったのを、数日早く切り上げただけさ。何の問題もない」
お兄様はため息をつく。
無駄にアンニュイな雰囲気でイケメンっぷりが二割り増しだけど、全然話にならない。
「……アイラン様の警護だってあるのよ?」
「だから、ブライアンとジェレミーを護衛代わりに連れてきたじゃない」
振り返ると、ハニーブロンドの青年と赤毛の青年が立っている。
ベリンダさんのお兄様でミンディ様の婚約者であるブライアン様と、メアリさんの双子の弟のジェレミー様は騎士の制服を着て私たちに付き添ってくれていた。
二人ともちょっぴりやんちゃそうな雰囲気で、お兄様達とはまた違ったタイプのイケメンだ。
お兄様が正統派アイドルタイプなら、二人はダンサータイプね。
って、違う。イケメン分析をしてる場合じゃない。
「お二人は殿下の警護を任されたのでしょう? 勝手に連れてきたなら、それこそ問題よ」
ブライアン様はわたしの言葉にかぶりを振る。
「いいえ。殿下から個人的に護衛を頼まれはしましたが、殿下の護衛は近衛騎士がおります。俺達はエリオット様の友人として招待されてるので殿下の警護が手薄になることはありません。それに殿下のそばにはダスティンとオーウェン様がついてらっしゃいます」
毅然としたブライアン様の態度に、ジェレミー様は困ったように肩をすくめた。
お二人はお兄様が急に島から逃げ出した理由がわかってるのかしら。
お兄様に聞くよりも、タイミングを見て二人に聞いた方が確実そうね。
わたしはそう考えて、お兄様の腕を離した。
──なのに。
船から降りるや否や、港町でもう少し羽を伸ばしている予定だった我が家の馭者を探し出すと、すぐにお兄様は馬車に乗り込む。
ブライアン様とジェレミー様は馬に乗り馬車と並走するから、探りを入れることもできない。
メリーは使用人用の馬車に乗っている。
ネネイがお世話のために同じ馬車に乗っているから、迂闊な話もできないし、お兄様がアイラン様にちやほやするのを見せつけられるだけの時間が無駄に過ぎてゆく。
仕方ない。刺繍でもするか。
わたしは持ち込んでいる裁縫箱から刺繍道具を取り出す。
「……それって殿下へ誕生日に贈るやつ?」
「の試作品です」
毎日はしゃいでいたアイラン様も流石に疲れたんだろう。
お兄様の肩にもたれかかって気持ちよさそうに寝ている。
わたしに質問したくせにお兄様は話を膨らませる気もないみたいで、わたしの答えに「今年も贈るのか」と呟くと、窓の外に視線を送る。
エレナは毎年殿下に刺繍入りのハンカチを誕生日プレゼントしている。
殿下の誕生日は秋の終わりだから、まだまだ時間はたっぷりあるけれど、納得のいく品を贈るために、エレナは半年くらいかけてデザインを考えて試作をたくさん作っている。
「毎年慣例ですもの」
「そう。慣例……ね」
エレナが殿下に贈らないわけなんてないのに、わざわざそんなことを確認するお兄様に違和感を覚えた。
「急に、帰ろうなんて何があったの?」
アイラン様にはネネイとメリーと一緒に客室に向かってもらったので、さっさと話を済ませるために本題から入る。
「えっと。ごめんねエレナ。アイラン様が僕を待ってるから早く行かなくちゃ……」
自分の気持ちに嘘をつくのが苦手なお兄様は、都合が悪くなると話を逸らして誤魔化す。
わたしは悲しげにかぶりを振るお兄様の腕を掴む手に力を込め、逃げ出すのを防ぐ。
「待って! 殿下にご挨拶もしないで島を後にして問題は起きないの? アイラン様を連れ出したなんて大事になる気しかしないわ!」
「別に、問題になんてならないよ。殿下がどうにかするでしょ」
投げやりな態度に呆れたわたしは、お兄様に顔を近づける。
「お兄様は、わたしが衝動的に動くことを咎めるくせに、お兄様も人のこと言えないじゃない」
「ちゃんと手紙は置いて出たし、そもそも婚約式も披露のパーティもつつがなく終わって、招待客の大半はもう帰路についてる。イスファーンの大使達だって、国の有力者たちだって、なんならお父様もお母様もお帰りになってるでしょ? 僕たちは、ヴァカンスがてら残って島の観光をする予定だったのを、数日早く切り上げただけさ。何の問題もない」
お兄様はため息をつく。
無駄にアンニュイな雰囲気でイケメンっぷりが二割り増しだけど、全然話にならない。
「……アイラン様の警護だってあるのよ?」
「だから、ブライアンとジェレミーを護衛代わりに連れてきたじゃない」
振り返ると、ハニーブロンドの青年と赤毛の青年が立っている。
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二人ともちょっぴりやんちゃそうな雰囲気で、お兄様達とはまた違ったタイプのイケメンだ。
お兄様が正統派アイドルタイプなら、二人はダンサータイプね。
って、違う。イケメン分析をしてる場合じゃない。
「お二人は殿下の警護を任されたのでしょう? 勝手に連れてきたなら、それこそ問題よ」
ブライアン様はわたしの言葉にかぶりを振る。
「いいえ。殿下から個人的に護衛を頼まれはしましたが、殿下の護衛は近衛騎士がおります。俺達はエリオット様の友人として招待されてるので殿下の警護が手薄になることはありません。それに殿下のそばにはダスティンとオーウェン様がついてらっしゃいます」
毅然としたブライアン様の態度に、ジェレミー様は困ったように肩をすくめた。
お二人はお兄様が急に島から逃げ出した理由がわかってるのかしら。
お兄様に聞くよりも、タイミングを見て二人に聞いた方が確実そうね。
わたしはそう考えて、お兄様の腕を離した。
──なのに。
船から降りるや否や、港町でもう少し羽を伸ばしている予定だった我が家の馭者を探し出すと、すぐにお兄様は馬車に乗り込む。
ブライアン様とジェレミー様は馬に乗り馬車と並走するから、探りを入れることもできない。
メリーは使用人用の馬車に乗っている。
ネネイがお世話のために同じ馬車に乗っているから、迂闊な話もできないし、お兄様がアイラン様にちやほやするのを見せつけられるだけの時間が無駄に過ぎてゆく。
仕方ない。刺繍でもするか。
わたしは持ち込んでいる裁縫箱から刺繍道具を取り出す。
「……それって殿下へ誕生日に贈るやつ?」
「の試作品です」
毎日はしゃいでいたアイラン様も流石に疲れたんだろう。
お兄様の肩にもたれかかって気持ちよさそうに寝ている。
わたしに質問したくせにお兄様は話を膨らませる気もないみたいで、わたしの答えに「今年も贈るのか」と呟くと、窓の外に視線を送る。
エレナは毎年殿下に刺繍入りのハンカチを誕生日プレゼントしている。
殿下の誕生日は秋の終わりだから、まだまだ時間はたっぷりあるけれど、納得のいく品を贈るために、エレナは半年くらいかけてデザインを考えて試作をたくさん作っている。
「毎年慣例ですもの」
「そう。慣例……ね」
エレナが殿下に贈らないわけなんてないのに、わざわざそんなことを確認するお兄様に違和感を覚えた。
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