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第四部
12 エレナとデートのお誘い
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「ステファン様お借りしていた本お返ししますね。とても興味深い内容でした。特に南の大陸におけるイスファーン王国とカチュル帝国の関わりについて互いの視点を知る事で──」
わたしは借りた本の感想をステファン様に伝える。
王立学園に特待生として首席入学されたステファン様は、学者になっていないのが不思議なくらい異国の歴史や地理、それに言語に精通されていた。
質問にその場で答えてくださるのがとても楽しい。
ステファン様は質問に回答をくださるだけでなく、他国の歴史を紐解くには、その国の言葉で書かれた文献を読むと理解が深まると、ご自身が所有する本を何冊も貸してくださった。
海向かいの隣国だけでなく、イスファーン王国と今も敵対している海向かいの大国。
わが国と力の拮抗している北の隣国と東の隣国。それにクーデター以降政情不安定な川向かいの隣国、友好国である西の大国。
ヴァーデン王国内に流通する異国の歴史書の多くは、建国からの歴史を文書として残す事で対外的に国家の権威と正当性を主張するのを目的とするものばかりだ。
でも、それぞれの国内にはヴァーデン王国内の神話や建国記と同様に、神話や伝記に英雄譚などが流布している。
編纂され他国に向けた歴史書と異なり、神話などは自国民にむけた治世者の正統性を、他国や過去の治世者を貶め優位性を主張するプロパガンダだ。
国民を扇動し続けた物語は、長い年月を経て国家主義の礎となっていく──
殿下と幼い頃に王宮の別荘で「ヴァーデン王国建国記」を読みながら感想を話し合ったり、わからないことを教えてもらっていたのを思い出す。
殿下はわたしを膝に抱き、一緒に本の頁をめくる。わたしの感想や質問に応じてくださった殿下の優しい瞳。あの日々はエレナの宝物だ。
「──聞こえているか?」
幼い頃の思い出に浸っていると、ステファン様がわたしに話しかけていた。
全く聞いていなかったわたしは慌てて笑顔を作る。
「えっ? あっ! 失礼しました。もう一度よろしいですか?」
「……えっと。ゴホン。今度、キミさえ良ければ王立図書館に一緒に行かないか」
「えっ? 図書館ですか?」
図書館は市街地にあり、王城と王立学園の間に位置する。
箱入り娘のエレナは王都は自由に歩かせてもらえない。
今日だってお兄様と一緒に家から一直線に馬車で王城に来た。
「すでに手に入らない文献なども図書館であれば閲覧できる」
行ってみたい!
「ちょっと。ステファンったら。僕の可愛い妹を大っぴらに口説くなんていい度胸してるね」
わたしが喜んでいたら後ろから強く抱きすくめられる。
お兄様がいつのまにか部屋に戻って来ていた。
「お兄様! ステファン様はわたしを図書館に連れて行ってくださろうとしただけです! ねえ? 連れて行っていただいていいかしら」
「ダメに決まってるでしょ」
お兄様の腕の中からすり抜けておねだりするのを速攻でダメ出しされる。
「へっ? えっ? お兄様? ってことはキミが殿下の婚約者……」
頷いたわたしをステファン様は目を丸くして見つめる。
「いや。だって、王太子殿下の婚約者は、小太りの醜女でわがままな癇癪持ちだと噂されて……えっ?」
ステファン様はハッとして口を塞ぐ。
でも、口から出た言葉は戻らない。ギュッと胸がつかまれる。
エレナは市井じゃそんな評価なのか……
子供っぽい……って思われてるくらいは覚悟していた。
それに、幼馴染の妹の立場を利用して殿下の婚約者になるなんて図々しいって言われてるだろうって考えてたけど……
そこまで酷く言われていたなんて。
そうか、わたしがメアリさんの結婚を知らなかったのは、ひどい噂話が耳に入らないように全てシャットアウトしてくれていたのね。
もしかして、エレナが階段から落ちたのは、市井でそんな噂話を聞いたから?
エレナのひどい噂は失った記憶に何か繋がるかしら。
「わたしが小太りの醜女でわがままな癇癪持ちと噂される婚約者ですわ」
「エレナったら、何言ってるの。僕の妹が、小太りの醜女なわけないじゃない。癇癪持ちなのは否定しないけどさ」
「否定してくださるのなら、癇癪持ちなことを否定してください」
おどけて話をうやむやにしようとするお兄様にわたしは言い返す。
「お兄様と怒らないし、叫ばないし、逃げ出さないって約束したことをちゃんと守ってます。それに……本当に弁えてますから。そこまで悪評が立ってるなら、やっぱりわたしはかりそめの婚約者に据えていただいただけでも感謝しなくちゃいけないのね」
「だから、かりそめの婚約者じゃないって、殿下はそんなこと言わないでしょ?」
「それはお優しいからよ」
「エレナはこの世で一番可愛い僕の妹だよ。自信を持って」
頭をポンポンしてくれる手を振り払う。
「お兄様にとっては可愛い妹かもしれませんけど、殿下はわたしのこともう可愛い妹だとは思っていてくださらないわ。そうでしょ?」
「だから、それは僕の口からは言えないんだって!」
「別にお兄様から真実を告げられても傷ついたりしないわ。わかってるもの。市井での評判もわかりましたし、心の準備はできております」
「全然わかってないから! もう。ステファンのせいでエレナの暴走が始まっちゃったじゃない」
「ステファン様は関係ありません!」
「いったいなんの騒ぎだ」
凛とした声に振り返ると、殿下がいらっしゃった。
わたしは借りた本の感想をステファン様に伝える。
王立学園に特待生として首席入学されたステファン様は、学者になっていないのが不思議なくらい異国の歴史や地理、それに言語に精通されていた。
質問にその場で答えてくださるのがとても楽しい。
ステファン様は質問に回答をくださるだけでなく、他国の歴史を紐解くには、その国の言葉で書かれた文献を読むと理解が深まると、ご自身が所有する本を何冊も貸してくださった。
海向かいの隣国だけでなく、イスファーン王国と今も敵対している海向かいの大国。
わが国と力の拮抗している北の隣国と東の隣国。それにクーデター以降政情不安定な川向かいの隣国、友好国である西の大国。
ヴァーデン王国内に流通する異国の歴史書の多くは、建国からの歴史を文書として残す事で対外的に国家の権威と正当性を主張するのを目的とするものばかりだ。
でも、それぞれの国内にはヴァーデン王国内の神話や建国記と同様に、神話や伝記に英雄譚などが流布している。
編纂され他国に向けた歴史書と異なり、神話などは自国民にむけた治世者の正統性を、他国や過去の治世者を貶め優位性を主張するプロパガンダだ。
国民を扇動し続けた物語は、長い年月を経て国家主義の礎となっていく──
殿下と幼い頃に王宮の別荘で「ヴァーデン王国建国記」を読みながら感想を話し合ったり、わからないことを教えてもらっていたのを思い出す。
殿下はわたしを膝に抱き、一緒に本の頁をめくる。わたしの感想や質問に応じてくださった殿下の優しい瞳。あの日々はエレナの宝物だ。
「──聞こえているか?」
幼い頃の思い出に浸っていると、ステファン様がわたしに話しかけていた。
全く聞いていなかったわたしは慌てて笑顔を作る。
「えっ? あっ! 失礼しました。もう一度よろしいですか?」
「……えっと。ゴホン。今度、キミさえ良ければ王立図書館に一緒に行かないか」
「えっ? 図書館ですか?」
図書館は市街地にあり、王城と王立学園の間に位置する。
箱入り娘のエレナは王都は自由に歩かせてもらえない。
今日だってお兄様と一緒に家から一直線に馬車で王城に来た。
「すでに手に入らない文献なども図書館であれば閲覧できる」
行ってみたい!
「ちょっと。ステファンったら。僕の可愛い妹を大っぴらに口説くなんていい度胸してるね」
わたしが喜んでいたら後ろから強く抱きすくめられる。
お兄様がいつのまにか部屋に戻って来ていた。
「お兄様! ステファン様はわたしを図書館に連れて行ってくださろうとしただけです! ねえ? 連れて行っていただいていいかしら」
「ダメに決まってるでしょ」
お兄様の腕の中からすり抜けておねだりするのを速攻でダメ出しされる。
「へっ? えっ? お兄様? ってことはキミが殿下の婚約者……」
頷いたわたしをステファン様は目を丸くして見つめる。
「いや。だって、王太子殿下の婚約者は、小太りの醜女でわがままな癇癪持ちだと噂されて……えっ?」
ステファン様はハッとして口を塞ぐ。
でも、口から出た言葉は戻らない。ギュッと胸がつかまれる。
エレナは市井じゃそんな評価なのか……
子供っぽい……って思われてるくらいは覚悟していた。
それに、幼馴染の妹の立場を利用して殿下の婚約者になるなんて図々しいって言われてるだろうって考えてたけど……
そこまで酷く言われていたなんて。
そうか、わたしがメアリさんの結婚を知らなかったのは、ひどい噂話が耳に入らないように全てシャットアウトしてくれていたのね。
もしかして、エレナが階段から落ちたのは、市井でそんな噂話を聞いたから?
エレナのひどい噂は失った記憶に何か繋がるかしら。
「わたしが小太りの醜女でわがままな癇癪持ちと噂される婚約者ですわ」
「エレナったら、何言ってるの。僕の妹が、小太りの醜女なわけないじゃない。癇癪持ちなのは否定しないけどさ」
「否定してくださるのなら、癇癪持ちなことを否定してください」
おどけて話をうやむやにしようとするお兄様にわたしは言い返す。
「お兄様と怒らないし、叫ばないし、逃げ出さないって約束したことをちゃんと守ってます。それに……本当に弁えてますから。そこまで悪評が立ってるなら、やっぱりわたしはかりそめの婚約者に据えていただいただけでも感謝しなくちゃいけないのね」
「だから、かりそめの婚約者じゃないって、殿下はそんなこと言わないでしょ?」
「それはお優しいからよ」
「エレナはこの世で一番可愛い僕の妹だよ。自信を持って」
頭をポンポンしてくれる手を振り払う。
「お兄様にとっては可愛い妹かもしれませんけど、殿下はわたしのこともう可愛い妹だとは思っていてくださらないわ。そうでしょ?」
「だから、それは僕の口からは言えないんだって!」
「別にお兄様から真実を告げられても傷ついたりしないわ。わかってるもの。市井での評判もわかりましたし、心の準備はできております」
「全然わかってないから! もう。ステファンのせいでエレナの暴走が始まっちゃったじゃない」
「ステファン様は関係ありません!」
「いったいなんの騒ぎだ」
凛とした声に振り返ると、殿下がいらっしゃった。
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