【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
155 / 276
第四部 

5 エレナと大商会の若奥様

しおりを挟む
 お兄様が部屋を出るとすぐ立ち止まる。
 振り返るとわたしの両肩を掴んで顔を寄せる。

 ひぃ。イケメンの顔が近いぃ。
 
「おっお兄様どうしたの?」
「エレナ。いい? この先はいろんな人がいるんだから、周りが何を言ってても、何を聞いたとしても、怒らない、叫ばない、飛び出さないって約束してね」

 ぐっと顔が近づく。
 そりゃお兄様の顔は見飽きてるくらい見飽きてるし、殿下の方が圧倒的にイケメンだけど、わたしはお兄様の顔にも弱い。

「もぅ! お友達の前で子供扱いしないでください」
「お友達⁈ まぁ! 嬉しい」

 照れ隠しにお兄様に文句を言ったら、メアリさんに喜ばれてしまった。
 そうだよね。国内一の大富豪なハロルド様にお近づきになろうとするメアリさんだもの。
 王太子殿下の婚約者であるエレナにお友達扱いされてるなんて、願ってもないことに違いない。
 エレナはかりそめの婚約者でしかなくて、近いうちに婚約破棄されるに違いないのに。
 すごく後ろめたい……

「わかった。子供扱いしないよ。でもお友達の前だからエレナはレディらしい振る舞いできるよね? 約束して」

 騒がないと約束をしないわたしに業を煮やしたのかお兄様の顔がますます近づき、おでこと鼻がくっつく。
 長いまつ毛の隙間から見えるエメラルドの瞳にエレナの姿が浮かぶ。

「わかった?」
「はい」

 わたしはお兄様の真剣な目と暴力的な美しさに気圧されて頷くしかできなかった。
 返事を聞いて優しい表情に戻ったお兄様と指切りをする。
 指がほどけると「何かあったら僕に言うんだよ」とわたしの頭を優しく撫でた。

 普段からエレナに甘いお兄様がことさら優しいのは、きっと何かあるからだ。
 なんだろう。エレナが我慢できずに怒って騒ぎ出しそうなことが王宮で起きてるってこと?
 ……そうね。ついさっきも文書係の役人が感じ悪すぎて文句を言うところだったわ。

「ジェイムズ夫人もエレナに振り回されてご心労をおかけすると思いますが、何卒お力添えをよろしくお願いします」

 わたしが考え事をしていると、お兄様は今度はメアリさんに対して貴族らしい態度で手を取り手の甲に唇を近づけるなんてことをし始めた。

 わわわ! ゲームのスチルか! キラキラして眩しい。

 乙女ゲーなら、そうね。
 うん。女官見習いと身分を隠して文官見習いをしている王子様や高位貴族の子息が恋に落ちて正体を明かしたシーンね。

 お兄様は自分がイケメンなことを自分が一番わかっていて、最大限それを活かす振る舞いができる。
 すごいとしかいいようがない。
 いつも余裕ある雰囲気のメアリさんも、お兄様の王子様な振る舞いに興奮した様子を隠しきれない。

 全ての仕草が絵になるお兄様にトキメキながらも、何かいろいろ引っかかる。

 そうだ。
 お兄様はなんでメアリさんが結婚したことを知ってるの? 仲良くしてもらってるわたしが知らないのに。
 
「お兄様はメアリさんがご結婚されてること、なんでもうご存じなの?」
「そりゃ、噂になってたからね」

 そういえばハロルド様もメアリさんに「噂のジェイムズ商会の若奥様」って言っていた。
 きっとわたしたちが王都を離れている時に噂になってたんだろう。
 でも……

「お兄様は最近ずっとわたしと一緒にいたのに、お兄様だけメアリさんの噂をご存知なんておかしいわ」

 お兄様が一瞬わたしから目を逸らしたのを見逃さない。

「なんでお兄様は噂をご存じだったの?」
「さあ……なんでだろうね。風の妖精が僕だけに噂話を運んでくれたのかなぁ。ほらよく風の妖精は女性だっていうじゃない? 妖精にまで好かれちゃうなんて自分でも驚くよ」

 そう言って目を瞑り両手を広げた。お兄様は何か誤魔化している。
 嘘をつくのが苦手なお兄様は、正直に話せない場面ではふざけた態度をとる。
 普段からお兄様は大袈裟だったり、ふざけたり、調子がよかったりするから、嘘がつけずにふざけていても周りの人にはバレないかもしれない。でも、わたしにはわかる。
 じっとわたしが睨んでいると、お兄様は「モテる男は困るね」なんて言って食堂にむかって歩き出した。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...