【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
168 / 276
第四部 

18 王太子殿下付き秘書官候補ステファンの失態【サイドストーリー】

しおりを挟む
「えっー! 僕が怒られるの? ステファンがエレナをデートに誘おうとしていたから僕は注意しただけなのに? ねえ、エレナ。僕を怒るなんて殿下はひどいと思わない?」

 無駄に響くひどく暢気な声に、自分の犯した失態を自覚する。

 いつも泰然と微笑みをたたえ、感情を表に出さない主人あるじの射抜くような視線が俺を捉える。
 背中を嫌な汗が伝い身震いが止まらない。

 王太子殿下の婚約者は、幼馴染のトワイン侯爵家の令息が、自分の利益のために、小太りの醜女でわがままな癇癪持ちで愚かな妹を押し付けたと思い込んでいた。
 我々が忠誠を誓った王太子殿下は、トワイン侯爵令息の企みを逆手にとって利用するために愚かな婚約者をお飾りに据えているだけで、本当は歯牙にも掛けていないのだと勝手に解釈していた。
 だから、目の前の愛らしく聡明な見習いの女官が、王太子の幼馴染だからと偉そうに振る舞うお坊ちゃんにそっくりだというのに、王太子殿下のご婚約者様だと気が付かなかったのだ。

 くそっ。なんで違和感をそのままにしてしまったんだ。
 年若い見習いの女官が、俺の書いた論文に興味を持つなんておかしいとは思ったんだ。
 トワイン侯爵家のご令嬢が王太子殿下のご婚約者に内定して一年以上経っているのだ。王太子妃教育として他国の歴史を学ぶのに俺の書いた論文を読んでいるなら合点がいく。

「ステファン。エリオットの発言は事実か」

 王太子殿下の冷ややかな声は研ぎ澄まされたナイフのように俺を突き刺す。
 
 役に立たない官吏たちにも声を荒げることなく、常に冷静でご自身のすべきことを粛々とこなされているあの王太子様が、怒りに打ち震え、覆う片手では歪んだ顔を隠しきれていない。
 寵愛など生ぬるい。どろりとした執着が溢れでた室内は緊張が走る。

「いいえ! そんな、王太子殿下のご婚約者様だと存じ上げておりませんでしたし、そもそもデートだなんて滅相もない! ただ、図書館にお誘いしただけで、その、ご興味がありそうな本を紹介したかっただけでございます!」

 慌てて弁明する。
 いつも室内で響くペンを走らせる音も今は聞こえない。同僚たちはみな動揺していた。

「お兄様が好き勝手に言っているだけだわ。誰もわたしなんかと外を歩きたがったりしないもの」

 王太子殿下のご婚約者様は庇うようにそう言って、俺に悲しげな笑みを向ける。
 嗚呼。やっと自分を認めてくれる運命の女性に出会えたかと思ったのに、俺はその女性を手に入れることはできないだけでなく、傷つけてしまった。

 その事実に打ちひしがれる。

 ……俺は自慢じゃないがモテたことがない。
 王立学園アカデミーにいた女生徒達も王宮の女官達も貴族の娘ばかりだ。
 玉の輿を狙っている貴族のご令嬢達にとっては俺がどれだけ優秀だろうが、お呼びではない。
 男爵家の四男なんて長兄が跡を継げば平民になるのが確実だ。結婚相手を探すことに血眼になっている女達の視界に入ることすらなかった。

 俺を認めてくれる女性に出会いたい。それは叶えられることのない長年の願いだった。

 そんな俺の前に、王立学園アカデミー時代に書き上げた論文を読んだという少女が現れた。
 他国語で書かれた文献をもとに我が国の他国における位置付けを多角的かつ客観的な視野で纏めたその論文は周りが浮ついた青春を送る中、学生時代の全てを費やして書いたと言っても過言ではない。
 少女からその論文を自身の語学と地政学の学習の礎にしていたと感謝された俺は、やっと自分を認めてくれる運命の女性に出会えたかと思った。
 さすがに見習いの女官だからまだ結婚できる年齢ではないだろうが、むしろ好都合だ。数年かけて俺を理解してもらおう。
 そんなことを考え、少女の興味関心をひこうと必死になる俺を同僚たちは揶揄うように笑っていたが……
 笑い事ではすまされない。
 せっかく王太子殿下に認めていただき、将来を約束頂いたというのに。
 俺はどうすればいい?

 ガタン! バタバタバタ!

 自己保身の言い訳を考えている間に、見習い女官の少女……いや、王太子殿下のご婚約者様は書類入れを抱え飛び出していった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...