235 / 276
第五部
29 エレナ、殿下の気持ちを聞く
しおりを挟む
「チッ。邪魔が入ったか」
「嫌がるエレナを無理やり手籠にしようとするなんて信じられない! 離れてくださいっ!」
凄い勢いでお兄様が駆け寄る。
「エレナは嫌がってなどいない」
「はぁ? 嫌がって逃げられたからエレナはここにいるんでしょう⁈」
「逃げられてなどいない。エレナは私の腕の中にいるではないか」
「殿下が無理やり拘束してるんでしょう! もう離してあげてよ!」
わたしを引き離そうとしても、もちろんそこそこ鍛えてる程度のお兄様が殿下に勝てるわけがない。
「だいたいエレナも殿下にされるがままになってないで毅然とした態度を取りなさい」
殿下と話してても埒が開かないと思ったのかお兄様の矛先がわたしに向かう。
「だって……」
「だってじゃないよ。エレナがそうやって安易に殿下に絆されたりするから、殿下が調子に乗って自分の都合がいいふうに話を持ってっちゃうんだよ」
お兄様は引き離すのを諦めて、殿下に抱きしめられたままのわたしの頬を両手で挟む。
頭の上からギリギリと聞こえる歯軋りの音に不穏な空気を感じる。
「エリオットは私の味方ではなかったのか」
「僕はエレナの味方であって殿下の味方ではありません」
「おにぃひゃま。しょんなこひょひっはららめひょ」
これから殿下の下で働くのに「殿下の味方じゃない」なんて、いくら幼馴染で日頃大目に見てもらってるからって許される発言じゃない。
わたしが偽物のエレナだと説明してる最中で、殿下に騙されたと糾弾されてもおかしくないのに、お兄様まで不敬な振る舞いをしていたら断罪どころの騒ぎじゃない。
じっとお兄様を見つめるとお兄様は苦しげに顔を歪めた。
「エレナの誕生日に殿下をお呼びした時だって、エレナがお茶会でうまく立ち回れないから参加したがらなくてこのままじゃ出会いがないよなんて話をしただっただけなのに、子供の頃嫁の行き先を心配されるくらいお転婆なエレナに『何かあったらお嫁さんにしてあげる』なんてくだらない約束してたのを持ち出して『夢を叶えていいかな』なんてエレナのこと婚約者に決めちゃって。そもそもエレナの夢じゃなくて殿下の願望を叶えただけなのにさ。それでも僕はエレナが殿下のことを慕ってるって思ってたから協力しただけなんだよ。でもエレナが殿下から逃げ出しちゃうくらい嫌なんだったら話が違うでしょ」
「だから嫌がられてなどいない」
「殿下に聞いてません。ほら、エレナ。お兄様にきちんと説明してご覧?」
エメラルド色の瞳は優しくて本当に心配してくれているのが伝わる。
いつもエレナを大切にしてくれるお兄様に、いつまでも嘘をついているのは心苦しい。
「おにぃひゃま。てをはにゃひて」
慌ててお兄様は手を引っ込める。
「わたしの話を聞いてくれますか?」
「もちろん」
「信じられないかもしれないけれど……」
「信じるよ。僕はエレナのお兄様だから。いつでもエレナの味方だよ」
力強く断定されて胸を撫で下ろす。
「……春先に屋敷の階段から落ちたでしょう?」
「うん。そうだねって。えっ? なんの話?」
「とりあえず聞いてください」
困惑した表情のお兄様に話を聞くように伝える。
「あの時わたしは記憶を無くしてしまったのはお兄様もご存知だと思いますけど、本当は記憶を無くしただけじゃないんです。実は大切な記憶を無くした代わりに前世の記憶を思い出したんです。だから、今ここにいるわたしは殿下やお兄様の知る本物のエレナではないの。記憶を無くして前世の記憶を思い出した偽物のエレナなの」
「はぁ? エレナは何言ってるの? ちょっと信じられないんだけど」
「もう! 信じるって味方だって言ったのに、どうして舌の根も乾かないうちに話を覆すんですか!」
「ええっ⁈ だって、エレナは小さい頃から頭の中に別の世界で生きていたエレナの記憶があるって言ってしょっちゅう頭の中のエレナとおしゃべりしてたじゃない。今更何言ってるの? ねぇ、また頭の中のエレナとおしゃべりしてこねくり回してろくでもない結論出してたってこと?」
「えっ?」
心配して損したと言わんばかりの呆れ顔を見つめる。
「エレナは階段から落ちたはずみで、自分が前世の記憶を持っているという事を忘れてしまっていたようなのだ」
「ええっ?」
「それで、突然前世の記憶を思い出したと勘違いした私の可愛いエレナは、私からの手紙を読んで自分は私の愛したエレナではない偽物のエレナなのに私の愛を受け入れてはいけない。などと思い込んで身を引こうとしたみたいなのだ。いじらしいだろう?」
嬉しそうな声の主は再び私を強く抱きしめた。
「嫌がるエレナを無理やり手籠にしようとするなんて信じられない! 離れてくださいっ!」
凄い勢いでお兄様が駆け寄る。
「エレナは嫌がってなどいない」
「はぁ? 嫌がって逃げられたからエレナはここにいるんでしょう⁈」
「逃げられてなどいない。エレナは私の腕の中にいるではないか」
「殿下が無理やり拘束してるんでしょう! もう離してあげてよ!」
わたしを引き離そうとしても、もちろんそこそこ鍛えてる程度のお兄様が殿下に勝てるわけがない。
「だいたいエレナも殿下にされるがままになってないで毅然とした態度を取りなさい」
殿下と話してても埒が開かないと思ったのかお兄様の矛先がわたしに向かう。
「だって……」
「だってじゃないよ。エレナがそうやって安易に殿下に絆されたりするから、殿下が調子に乗って自分の都合がいいふうに話を持ってっちゃうんだよ」
お兄様は引き離すのを諦めて、殿下に抱きしめられたままのわたしの頬を両手で挟む。
頭の上からギリギリと聞こえる歯軋りの音に不穏な空気を感じる。
「エリオットは私の味方ではなかったのか」
「僕はエレナの味方であって殿下の味方ではありません」
「おにぃひゃま。しょんなこひょひっはららめひょ」
これから殿下の下で働くのに「殿下の味方じゃない」なんて、いくら幼馴染で日頃大目に見てもらってるからって許される発言じゃない。
わたしが偽物のエレナだと説明してる最中で、殿下に騙されたと糾弾されてもおかしくないのに、お兄様まで不敬な振る舞いをしていたら断罪どころの騒ぎじゃない。
じっとお兄様を見つめるとお兄様は苦しげに顔を歪めた。
「エレナの誕生日に殿下をお呼びした時だって、エレナがお茶会でうまく立ち回れないから参加したがらなくてこのままじゃ出会いがないよなんて話をしただっただけなのに、子供の頃嫁の行き先を心配されるくらいお転婆なエレナに『何かあったらお嫁さんにしてあげる』なんてくだらない約束してたのを持ち出して『夢を叶えていいかな』なんてエレナのこと婚約者に決めちゃって。そもそもエレナの夢じゃなくて殿下の願望を叶えただけなのにさ。それでも僕はエレナが殿下のことを慕ってるって思ってたから協力しただけなんだよ。でもエレナが殿下から逃げ出しちゃうくらい嫌なんだったら話が違うでしょ」
「だから嫌がられてなどいない」
「殿下に聞いてません。ほら、エレナ。お兄様にきちんと説明してご覧?」
エメラルド色の瞳は優しくて本当に心配してくれているのが伝わる。
いつもエレナを大切にしてくれるお兄様に、いつまでも嘘をついているのは心苦しい。
「おにぃひゃま。てをはにゃひて」
慌ててお兄様は手を引っ込める。
「わたしの話を聞いてくれますか?」
「もちろん」
「信じられないかもしれないけれど……」
「信じるよ。僕はエレナのお兄様だから。いつでもエレナの味方だよ」
力強く断定されて胸を撫で下ろす。
「……春先に屋敷の階段から落ちたでしょう?」
「うん。そうだねって。えっ? なんの話?」
「とりあえず聞いてください」
困惑した表情のお兄様に話を聞くように伝える。
「あの時わたしは記憶を無くしてしまったのはお兄様もご存知だと思いますけど、本当は記憶を無くしただけじゃないんです。実は大切な記憶を無くした代わりに前世の記憶を思い出したんです。だから、今ここにいるわたしは殿下やお兄様の知る本物のエレナではないの。記憶を無くして前世の記憶を思い出した偽物のエレナなの」
「はぁ? エレナは何言ってるの? ちょっと信じられないんだけど」
「もう! 信じるって味方だって言ったのに、どうして舌の根も乾かないうちに話を覆すんですか!」
「ええっ⁈ だって、エレナは小さい頃から頭の中に別の世界で生きていたエレナの記憶があるって言ってしょっちゅう頭の中のエレナとおしゃべりしてたじゃない。今更何言ってるの? ねぇ、また頭の中のエレナとおしゃべりしてこねくり回してろくでもない結論出してたってこと?」
「えっ?」
心配して損したと言わんばかりの呆れ顔を見つめる。
「エレナは階段から落ちたはずみで、自分が前世の記憶を持っているという事を忘れてしまっていたようなのだ」
「ええっ?」
「それで、突然前世の記憶を思い出したと勘違いした私の可愛いエレナは、私からの手紙を読んで自分は私の愛したエレナではない偽物のエレナなのに私の愛を受け入れてはいけない。などと思い込んで身を引こうとしたみたいなのだ。いじらしいだろう?」
嬉しそうな声の主は再び私を強く抱きしめた。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる