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第五部
65 魔法少女スピカ、王太子殿下の命令を遂行する【サイドストーリー】
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「真実の口!」
言い慣れない、意味のわからないその言葉を叫んで腕を精一杯伸ばす。
手のひらに隠し持っていた何面にも削られたガラス玉が、明かりとりの窓から入る光に照らされてキラキラと光る。
驚いたエレナ様は目を見開く。エメラルドみたいな瞳もキラキラと輝いてきれいだ。
こんなに純粋なエレナ様にこれから嘘をつくことに後ろめたさを感じる。
ううん。エレナ様を幸せにするためには必要なことだもん。
「これで魔法が展開されました」
わたしはエレナ様に嘘をついた。
──数日前。
「エレナ様が観客の発言を信じられるように魔法をかける。ですか?」
王太子殿下から突然執務室に呼び出しを受けて何事かと思えば、そんなことを命じられた。
もちろん王太子殿下から命令を断るわけにもいかいし、それにそもそもエレナ様のためならなんでもする。
わたしは「御意」なんてカッコよく返事をしたはいいけれど困り果てていた。
わたしは嘘をつくときに耐えられない痛みを与える魔法をかけることができる。
それはエレナ様もご存知だ。
以前感じの悪いご令嬢達に「魔女」って蔑まれて魔法を使った時はエレナ様も一緒だった。
わたしの魔法は対象範囲を広げれば広げるほど効果のある時間は短くなる。対象範囲を絞らないと効果はほとんどない。
いまさら出来ませんなんて言えない……
困ったわたしは、メアリ先輩とリリアンナ様に相談をすることにした。
お二人は王立学園や王宮で水面下で広がる「エレナ王太子妃殿下推進派」通称「エレ推し会」の活動でお会いした、エレ推し会の発起人。
メアリ先輩もリリアンナ様もエレナ様が王室に嫁がれた際に王太子妃付きの侍女としてお仕えになるらしく、王立学園で「王太子妃付きの騎士」を目指している私たちに声をかけてくださり、度々会合によばれている。
会のメンバー経由で言伝を頼むとすぐ時間を作ってくれた。
「わたしの魔法はそんな広範囲に長い時間効果を発揮できるものじゃないんです」
わたしは王太子殿下からの命令を説明する。
リリアンナさんは「エレナ様のためと言われれば断れないのをいいことに無理難題言って! あんの傲慢男!」と罵る。
エレ推し会の中でも過激派なリリアンナ様の発言は最初は戸惑ったけれど、いつものことなので軽く流すのが最適解だ。
「何かいい案はありませんか?」
思案顔のメアリ先輩に尋ねる。
「うーん。要は、エレナ様とあわよくば観客も魔法がかかってると信じる環境さえ用意できれば実際に魔法が効いてなくてもいいってことでしょう?」
「効いてないのにかかってるって信じさせるなんて無理じゃないですか?」
「エレナ様ってほら、単純だからめちゃくちゃド派手に魔法使ってますって演出をしたら絶対に騙されると思うの。しかもエレナ様なら騙された上に『みんなに魔法がかかってるのね! すごーい!』ってあの無駄に通る声で、感動して騒ぐと思うのよね。単純だから。エレナ様がいつものキラキラで騒いだらみんなも信じちゃうんじゃない?」
メアリさんはエレ推し会の発起人になるくらいなのに、少しエレナ様を軽んじてらっしゃる気がする。
エレナ様は単純なんじゃなくて純粋なのに。
「メアリさん。エレナ様は単純だから信じるのではありません。私たちのことを信用してくださっているからこそ疑わないのです」
リリアンナ様がメアリ先輩をピシャリと叱る。
けど、要はリリアンナ様もエレナ様は疑わずに信じちゃうって思ってるってことだ。
「でも……そんなうまくいくでしょうか」
「じゃあエレナ様には魔法をかけよう。一人に向けてなら効果はあるんでしょう? とにかくエレナ様が観客の言葉を信じられたらいいんでしょ?」
頷くとなんだかメアリ先輩はワクワクし始めた。
「呪文詠唱してエフェクトっぽい光ピカピカさせたいなぁ」
「呪文詠唱? エフェクト?」
「ああ、そうか通じないんだ……」
「なんでメアリさんは聖女様たちと同じようなこと言ってるの?」
なんか呟いているメアリさんに疑問をぶつける。
わたしは聖女様たちの第一発見者のうちの一人だ。初めて会った時に聖女様たちに魔法をかけて驚かれたのを思い出す。
「あ、そういや聖女様たちって異世界からきたんだよね」
「そうです」
「聖女様たちも現代日本から来たのかぁ。まぁ、名前からして日本人っぽいもんね……」
「ゲンダイニホン? ニホンジン?」
「ああ、気にしないで、それより呪文ってどうやって唱えるの?」
メアリ先輩の発言は気になるけれどいまはそれを追求している場合じゃない。
「名前とか、まあ名前が分からなくてもここにいる人とか範囲を決めて、嘘をつけないって指示をするだけです。そう意図して指示をすればいいので、例えば『あなた答えて』でも魔法がかかります」
「えー。地味!」
「それでいいんです。だって、尋問相手にバレないように魔法をかけたいのに光ったらダメじゃないですか」
「確かに。まあ今回はエレナ様と周りが素直に信じちゃうくらい、はったりがきいた呪文とキラキラエフェクトを考えよう」
そう言ってメアリ先輩とリリアンナ様が準備してくれたのがいま手に握ってるガラスの多面体と、不可思議な詩だった。
そう。本当は用意してくれた呪文の詩はもっと長かったけど最後の単語しか覚えられなかったんだ。
キラキラ輝くエレナ様と目が合う。
「もうみんな嘘をつけないの?」
「エレナ様は心にもないことは言えません」
範囲を絞り指示を出す。これでエレナ様にだけ魔法がかかる。
「本当に?」
「はい。これから何か嘘をついてみてください」
「えっ、ええ? 急に言われても思いつかないわ」
観客も自分たちにも魔法がかかってると思い込んでいるみたい。効果がどれくらいなのか気になってるのか固唾を飲んで見守っている。
「じゃあ……わたしに嫌いって言ってみてください」
「スピカさん、き……痛い!」
痛みで顔をしかめるエレナ様を見ているのは苦しいのに、わたしを嫌いと言えないことに喜んでしまいそうになる。
「すごい! 言えないわ! 本当に心にもないことは言えないのね!」
後ろめたい気持ちを吹き飛ぶくらい嬉しそうに興奮するエレナ様を見てホッとする。
そう言えば初めてエレナ様の前で魔法を使った時も魔法にかかったか確認するために嘘をついてみたいっておっしゃっていた。
「よかった。魔法がしっかりとかかったみたいで。これからここにいるみんなの言葉は信じられますか?」
ここから先は「エレ推し会」の出番だ。
深呼吸をして、観客に向かい顔を上げた。
言い慣れない、意味のわからないその言葉を叫んで腕を精一杯伸ばす。
手のひらに隠し持っていた何面にも削られたガラス玉が、明かりとりの窓から入る光に照らされてキラキラと光る。
驚いたエレナ様は目を見開く。エメラルドみたいな瞳もキラキラと輝いてきれいだ。
こんなに純粋なエレナ様にこれから嘘をつくことに後ろめたさを感じる。
ううん。エレナ様を幸せにするためには必要なことだもん。
「これで魔法が展開されました」
わたしはエレナ様に嘘をついた。
──数日前。
「エレナ様が観客の発言を信じられるように魔法をかける。ですか?」
王太子殿下から突然執務室に呼び出しを受けて何事かと思えば、そんなことを命じられた。
もちろん王太子殿下から命令を断るわけにもいかいし、それにそもそもエレナ様のためならなんでもする。
わたしは「御意」なんてカッコよく返事をしたはいいけれど困り果てていた。
わたしは嘘をつくときに耐えられない痛みを与える魔法をかけることができる。
それはエレナ様もご存知だ。
以前感じの悪いご令嬢達に「魔女」って蔑まれて魔法を使った時はエレナ様も一緒だった。
わたしの魔法は対象範囲を広げれば広げるほど効果のある時間は短くなる。対象範囲を絞らないと効果はほとんどない。
いまさら出来ませんなんて言えない……
困ったわたしは、メアリ先輩とリリアンナ様に相談をすることにした。
お二人は王立学園や王宮で水面下で広がる「エレナ王太子妃殿下推進派」通称「エレ推し会」の活動でお会いした、エレ推し会の発起人。
メアリ先輩もリリアンナ様もエレナ様が王室に嫁がれた際に王太子妃付きの侍女としてお仕えになるらしく、王立学園で「王太子妃付きの騎士」を目指している私たちに声をかけてくださり、度々会合によばれている。
会のメンバー経由で言伝を頼むとすぐ時間を作ってくれた。
「わたしの魔法はそんな広範囲に長い時間効果を発揮できるものじゃないんです」
わたしは王太子殿下からの命令を説明する。
リリアンナさんは「エレナ様のためと言われれば断れないのをいいことに無理難題言って! あんの傲慢男!」と罵る。
エレ推し会の中でも過激派なリリアンナ様の発言は最初は戸惑ったけれど、いつものことなので軽く流すのが最適解だ。
「何かいい案はありませんか?」
思案顔のメアリ先輩に尋ねる。
「うーん。要は、エレナ様とあわよくば観客も魔法がかかってると信じる環境さえ用意できれば実際に魔法が効いてなくてもいいってことでしょう?」
「効いてないのにかかってるって信じさせるなんて無理じゃないですか?」
「エレナ様ってほら、単純だからめちゃくちゃド派手に魔法使ってますって演出をしたら絶対に騙されると思うの。しかもエレナ様なら騙された上に『みんなに魔法がかかってるのね! すごーい!』ってあの無駄に通る声で、感動して騒ぐと思うのよね。単純だから。エレナ様がいつものキラキラで騒いだらみんなも信じちゃうんじゃない?」
メアリさんはエレ推し会の発起人になるくらいなのに、少しエレナ様を軽んじてらっしゃる気がする。
エレナ様は単純なんじゃなくて純粋なのに。
「メアリさん。エレナ様は単純だから信じるのではありません。私たちのことを信用してくださっているからこそ疑わないのです」
リリアンナ様がメアリ先輩をピシャリと叱る。
けど、要はリリアンナ様もエレナ様は疑わずに信じちゃうって思ってるってことだ。
「でも……そんなうまくいくでしょうか」
「じゃあエレナ様には魔法をかけよう。一人に向けてなら効果はあるんでしょう? とにかくエレナ様が観客の言葉を信じられたらいいんでしょ?」
頷くとなんだかメアリ先輩はワクワクし始めた。
「呪文詠唱してエフェクトっぽい光ピカピカさせたいなぁ」
「呪文詠唱? エフェクト?」
「ああ、そうか通じないんだ……」
「なんでメアリさんは聖女様たちと同じようなこと言ってるの?」
なんか呟いているメアリさんに疑問をぶつける。
わたしは聖女様たちの第一発見者のうちの一人だ。初めて会った時に聖女様たちに魔法をかけて驚かれたのを思い出す。
「あ、そういや聖女様たちって異世界からきたんだよね」
「そうです」
「聖女様たちも現代日本から来たのかぁ。まぁ、名前からして日本人っぽいもんね……」
「ゲンダイニホン? ニホンジン?」
「ああ、気にしないで、それより呪文ってどうやって唱えるの?」
メアリ先輩の発言は気になるけれどいまはそれを追求している場合じゃない。
「名前とか、まあ名前が分からなくてもここにいる人とか範囲を決めて、嘘をつけないって指示をするだけです。そう意図して指示をすればいいので、例えば『あなた答えて』でも魔法がかかります」
「えー。地味!」
「それでいいんです。だって、尋問相手にバレないように魔法をかけたいのに光ったらダメじゃないですか」
「確かに。まあ今回はエレナ様と周りが素直に信じちゃうくらい、はったりがきいた呪文とキラキラエフェクトを考えよう」
そう言ってメアリ先輩とリリアンナ様が準備してくれたのがいま手に握ってるガラスの多面体と、不可思議な詩だった。
そう。本当は用意してくれた呪文の詩はもっと長かったけど最後の単語しか覚えられなかったんだ。
キラキラ輝くエレナ様と目が合う。
「もうみんな嘘をつけないの?」
「エレナ様は心にもないことは言えません」
範囲を絞り指示を出す。これでエレナ様にだけ魔法がかかる。
「本当に?」
「はい。これから何か嘘をついてみてください」
「えっ、ええ? 急に言われても思いつかないわ」
観客も自分たちにも魔法がかかってると思い込んでいるみたい。効果がどれくらいなのか気になってるのか固唾を飲んで見守っている。
「じゃあ……わたしに嫌いって言ってみてください」
「スピカさん、き……痛い!」
痛みで顔をしかめるエレナ様を見ているのは苦しいのに、わたしを嫌いと言えないことに喜んでしまいそうになる。
「すごい! 言えないわ! 本当に心にもないことは言えないのね!」
後ろめたい気持ちを吹き飛ぶくらい嬉しそうに興奮するエレナ様を見てホッとする。
そう言えば初めてエレナ様の前で魔法を使った時も魔法にかかったか確認するために嘘をついてみたいっておっしゃっていた。
「よかった。魔法がしっかりとかかったみたいで。これからここにいるみんなの言葉は信じられますか?」
ここから先は「エレ推し会」の出番だ。
深呼吸をして、観客に向かい顔を上げた。
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