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一章 女神と花冠の乙女

20 第一と第二?

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お茶を入れ直しましょう、とティティが席を立つ。
一つ一つの所作が美しく、無駄が無い。
指先の動きまで上品で優雅だ。
流石公爵令嬢だよね。それにあの第一王子の婚約者だったんだし、王子妃教育もきっと厳しかったと思う。それを熟して来たんだから元の素養があったとしても、凄く努力をしてきたんだろうな。

ーーーーーーんん?第一?

そうだ、ちょと疑問に思ってたんだよね。
だって、第一って事は、第二とか第三とかもいるって事?でしょ?

「ね、ティティ。第一王子っていう事は第二とか第三とかもいるの?」

ティティが持っているティーポットが揺れて、ピチャンとテーブルにお茶の染みができる。

聞いちゃいけなかったのかな。

そっと伏せた睫毛が僅かに滲んだ気がする。


「お話しなくては、と思っていたのですが、私もーーーどう、説明をしたら、と•••不確かな、噂でしか無い事もありますので•••」

「そういえば、いたね。第二王子が。アレクストだっけ?第一王子と同い年の」

え、カリン知ってるの?
流石、噂好きの女官だっただけの事はありますな。
って言ったら、「フィアが興味なさ過ぎて人の話しを聞いてないだけでしょ」って。
おっと、私、聞いていたらしい事実が発覚。

「はい。アレクーーーアレクスト様と私とトリスタンとアレブレフトとは幼馴染なんです。幼い頃から仲が良くてーーートリスタンとアルブレフトはアレク様が十歳になった折に側近となり、私とは日を占い、婚約する予定でした」

へぇ、その二人って第二王子の側近だったんだ。
宰相子息と騎士団長子息が側近って事は、もしかして第二王子が王太子になる予定だったとか?!

「アレクスト様はーーー本当にお優しくて、文武両道、眉目秀麗、そう、ゲームの中の王太子が当にそうでしたが、理想の王子様を体現したみたいな方でした」

出来の良い同い年の弟VS出来の悪い兄の構図が出来上がっていますな。

「もう、三年前になりますでしょうか。丁度、今の季節でした。婚約式の花冠を編むフィアリスの花を摘みに行くとお一人でーーー」

後は言わなくても伝わってくる。
第二王子は行方知れずになってしまったのだと、ティティの頬を静かに流れた一雫が教えてくれる。

ーーー大好きなんだね。

「ですが、あの方はお約束してくださいました。私を迎えに来ると。フィアリスで編んだ花冠を贈って下さるって」

指先でそっと目尻を抑えて微笑む姿は儚くて、でも信じるって決めた眼差しは凛としてぶれない。

「この国って婚約する時とか、結婚式の時に女性に花冠を贈るんだっけ?誰にも見られずに編むんだよね、確か」

フロースがそんな事を言いながら、フィアリスの白い花びらを風に載せて私に飛ばす。
それって、花冠の乙女が愛しい殿方と結ばれる時に贈られたって言うアレですかね。吟遊詩人がその瞳と同じフィアリスの花ーーー青だか緑だか夕日色だとか、歌う人によって色が違うヤツ。

あ、ラインハルトが花びらを叩き落とした。

「ーーーカップに入る」

花を浮かべたお茶って駄目なのかな。
ティティがお茶を注ぎながら話しを続ける。

「お二方とも先王陛下によく似ていらっしゃって、明るい茶色の髪も、お顔立ちも双子のようで。ただ瞳の色が、ハルナイト様が深い落ち着いた緑色で、アレク様がスフェーンのような、オリーブ色の中に鮮やかな明るいグリーンとオレンジ、イエローが揺らめいていて、魔力を高めたりする時には赤い閃光が瞳に現れるのです。それは美しいーーーあ、申し訳ありません」

ハッとして、赤く染まる頬に手をやるティティは超絶に可愛い。

「恋する女の子は可愛いねぇ。俺は恋する女の子の味方の神様って知ってた?【本気】で祈ったら俺に届くかもよ?最後の最後で頼りたくなったら、お願いしてみると良いことあるかもね」

ありがとうございます、とはにかんだティティの顔が直後に曇る。

「アレク様は幾度かお命を狙われておりました。私が知る限りでも三度。アレク様は否定なさっておいででしたが、本当はもっとあったのではと」

「第二王子って身分が低い側妃の子だもんね。第一王子の母親の正妃としては面白くないじゃん。同い年の男児なんてさ。僕が後宮で聞いた噂話しだと二人同時に産気づいて産婆と医師が右往左往してたって」

「アレク様とハルナイト様はご誕生なされた日が近いのですーーーーーこれは噂、に過ぎませんが、実はアレク様の方が先にお産まれになったと」

継承権がーーー!の世界ですね。
取り敢えず身分上の方を先に産まれた事にしておけ、と。

「同じ年の男児です。正妃様のお子を第一王子にする事で争いの元を一つでも無くそうとの陛下のご意思もあったとも。ですがあまりに、そのーーー」

出来の違いがあったのね。

「アレク様の御生母様は産後の肥立ちが悪く、ご誕生の翌年にお亡くなりになられました。それで、我がガレール公爵家が一時お預かりしていたのです。アレク様と乳母が我が領に来るその日、アレク様の乳母が亡くなったたそうで、慌てて乳母を手配したと母が言っていた事があります。当時の事を詳しく聞こうにも、母も既に大地母神様の元へ還りましたので•••」

王侯貴族なんて、ドロドロした世界だって知ってるつもりだったけど、直接聞くと肌寒くなる。

「その第二王子ですが•••ゲームには出て来ないのですか?役どころが無くても、エピソードには出てくるとか」

それまで黙って聞いていたロウが、メモから顔を上げてティティに視線を向けた。

「いいえ、王太子が出てくるだけでーーー私が忘れているのかもしれませんが」

印象に残るものが無かったのかな。
何れにせよ、第二王子のこれも大きな違いだ。

「ーーーそれから。子爵令嬢のフィリアナですが•••転生者である可能性も考えた方が良いでしょうーーーそのゲームの内容を知っていると、私は考えてます」

「ロウのその考えって、その、フィリアナがゲームのシナリオ通りに進めようとしてる、とか?でも、転生者って滅多にいないんだよね?」

そんなに同じ場所に揃うものかな?世界の強制力が働いているとか、あったりするのかな?
私は首を捻ってウンウン考えるけど、答えが見えるわけでもないので、諦める。

「事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものですからね」

そう言って、ロウは美しい微笑を浮かべた。

「確認する?俺はあの王城ーーー特に王宮、行くのヤダ。あそこ臭くない?」
「それはフロース、貴方の圧に王子が怯えた結果でしょう。可哀想に。粗相とまではいきませんでしたが」
「ああ、チビったの?あれ位で?だらし無い奴だな。レイティティア嬢、婚約破棄して正解だ」

ティティが困り顔で、頷いている。
良かったのは間違いないもんね。あんなのと夫婦とか嫌すぎる。
ロウはフロースに困った顔して、ふぅ、と息を付いてる。

「転生者かどうかもですが、気になるのがもう一つーーー彼女の力です。蟲が居たと。聖霊達を惑わすのは何でしょうか。」

その言葉に私は、まるで、禁忌の邪香を吸い込んだような様子の妖精達を思い出していた。
酔ったような、グッタリしている妖精もいた。

「あそこに戻って調査するにしても、僕達は脱獄犯だし、レイティティア嬢は断罪受けちゃってるし」

「そうなのよねー。華麗な脱獄では無かったけど、前科一犯?で済む?」

どうするか思案していた私達に、何やら考えていたらしいラインハルトが提案してきた。


「直接見てくればいいだろう?」

ーーー面倒だ。


ドカンと投下された爆弾に私達は目を点にするしか無かった。







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