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一章 女神と花冠の乙女
60 たまにはボケる?
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本番も間近に迫ったこの日、私はひたすら案山子の気分を味わっていた。
精霊が小道具やらを持って忙しく立ち回る。
スイレンが持って来たそれは、漆黒に見える衣装だった。
だが、歩く度にふんわりと揺れる衣は波打ち紫の色合いを艷やかに魅せる。
東の帝国の特徴を取り入れた衿元には若草色の伊達襟が薄桃の小花を散らして華やかだ。
蜉蝣の様に薄い黒紫の帯が結ばれた背中は、蝶の羽の如く私の動きに合わせてヒラリと空を仰ぐ。
細長い花弁を模したスカート部分は小悪魔と言うよりも、まるで悪戯好きの妖精のよう。
伸縮性のあるズボンはふくらはぎまでで、幅広のリボンを足首で巻いて留めるバレーシューズが可憐さを演出している。
上衣も動きやすさを重視して、全体的に軽く、袖もない。ノースリーブタイプだ。
袖の代わりに二の腕まである手袋は、レース仕立てで、細やかな刺繍が何とも•••••そこだけは婀娜っぽい。うん。
髪はいつもの様に、ポニーテールからの輪っかを二つ。衣装と同色の飾り紐は房に金色を混ぜてある。
背中に流れる尻尾は真ん中辺りで筒状の髪留めで纏めて、激しく動いても風に舞うのを防いでくれそうだ。
仕上げに精霊のローズが目尻に薄く紅を刷かせてくれる。
うん、何となく妖しさが出たような気がするよ。つくづくメイクって偉大だと思う。
そうーーー今私は、悪役衣装が出来上がったと言うので、こうして身体に合わせているのだ。後は細かい所を直すんだって。
「ああ、良くお似合いですよ。まるで朝露の名残を陽光に煌めかせた黒薔薇の蕾のようです」
「うん、いいね。流石俺!フィーは色気を全体的に出すのはちょっと無ーーーポヤッーーーあー、咲き初める蕾、花開く前の危うい艶やかさを出した方が良い」
「「おおー!これが噂の馬子にも衣装!」」
「フィアは何を着ても可愛い」
「姫様、ささ、こちらを向いて下さい。母君様達もご覧になりたがっていらっしゃいますので」
んん!?何か引っ掛かるモノ言いがあった気がするけど、ツッコミを入れる前にメルガルドが不思議な物体を取り出した。
銀色をしていて、球型のーーー眼球のような見た目をしている。そう言えばキョロ助ちゃんとお仕事してるかな?
落ち着いたら宝物庫の皆に会いに行っていいか聞いてみよう。
「メルガルド、それってなぁに?映像?それとも写真?とか撮れたりするの?」
こっち向いて、母様達に見せるって言ったし、画像系の道具だと思うんだけど。
「はい、こちらは写真でございます。皆様、姫様のお姿を心待ちにしておりますので、こうして準備いたしました。やはり記録として残したいとの仰せで」
そうなんだ!じゃぁ後でティティとも一緒に撮ってもらおうっと。皆で写っているのも欲しいな。
そう言うと、メルガルドは、着付けが終わったらティティを連れて来てくれると言ってくれた。
「ふおぉぉぉ!」
連れて来てもらったティティは、何と言うか、ババン!と圧巻だった。
マーメイドラインを基本の形にして、床に流れる程に長い裾は優雅なラインで波打つ。その裾と、大胆にカットされた胸元、肩に黒鳥の羽があしらわれている。
私と同じ生地を使っているので、光沢が深い紫に艶めき、それが紫色をした炎の揺らめきにも見えた。
朝露の結晶はティティの瞳に合わせていて、緑色を基準とした石が裾に散りばめられ、紫炎から逃げる魂なのか、それとも浄化された清き魂なのか。
髪も頭の高い位置で縛られ、無造作に垂らされている様に見えて、よく見れば細い束がいくつも連なっているのが分かる。
黒紫の細い糸で括らられた銀色の髪がシャラ、と流れる。
太ももの半ば辺りから入ったサイドのスリットから除く白い足との対比も匂い立つ色気が漂い、バレーシューズはお揃いなのに、ここまで雰囲気が違く見えるなんて、妖艶さのマジックよ、君はいい仕事してるよ。
ーーーー私の方にも、もう少しそのお仕事をして欲しかったよ。
私と同じに目尻に紅を刷き、額に描かれた花鈿は、燃え盛る炎の様な彼岸花をモチーフにしていて、一種の侵しがたい神聖さの中に、美しくも禍を感じる。
彼岸花が一面に咲き誇る野原に、小さな社を見たような、生き人が決して立ち入れぬーーーそんな恐れを抱かせた。
唇の端をくいっと上げて嫣然と微笑むその姿は、まさに悪役にふさわしい艶やかさだった。
勿論、皆で写真を撮りまくったわ。
フフン、当日はこれで悪役参上!ババン!
と、行くのですよ。
「フィーはこっそりだけどね」
ーーーーーーうん、フロースさんや、そうなんだけどね。知ってたけどね、テンション上げて行かないと、プレッシャーでペション、ってなってしまうから!
私って意外とデリケートだったんですよ。
「ああ、有刺鉄線のアレか?」
真顔で言わないでくださいませんか、ラインハルトさん。それはバリケードです。
繊細な心が傷つきます。
「洗濯に使う粉ですね」
眼鏡を光らせて言わないで?ロウ。
驚きの白さになるかも知れない?元のアヤツは、洗剤です。
「ーーー•••••泣いていい?」
「おや、柄にも無く緊張しているようなので、ボケてみましたがーーーお気に召しませんでしたか?」
ロウの半分は優しさで出来てるって信じてるからね?
「フィア、大丈夫だ。ここにいる皆、お前の味方なんだから」
ーーー三日後の儀式当日に、私達は大神殿へと移動する。
私、ね、眠れないかも知れない!
#####
読んでいただきありがとうございます!大変嬉しいです(*´∇`*)
もうこれは、もう、ぬ、脱ぐしか•••••ロウが。
いえ、最近ロウを脱がせたい症候群に罹ってしまいまして。
ロウはいつ如何なる時もキッチリ着込むお方で、着崩す事は稀なのですが、剥いてみたく•••••ゲフンゲフン。
ラインハルト、君は駄目だ。最後の砦を無くしたらナニが残るというの!?
夜着以外はキッチリ着る派なのですが、怪しいので。
精霊が小道具やらを持って忙しく立ち回る。
スイレンが持って来たそれは、漆黒に見える衣装だった。
だが、歩く度にふんわりと揺れる衣は波打ち紫の色合いを艷やかに魅せる。
東の帝国の特徴を取り入れた衿元には若草色の伊達襟が薄桃の小花を散らして華やかだ。
蜉蝣の様に薄い黒紫の帯が結ばれた背中は、蝶の羽の如く私の動きに合わせてヒラリと空を仰ぐ。
細長い花弁を模したスカート部分は小悪魔と言うよりも、まるで悪戯好きの妖精のよう。
伸縮性のあるズボンはふくらはぎまでで、幅広のリボンを足首で巻いて留めるバレーシューズが可憐さを演出している。
上衣も動きやすさを重視して、全体的に軽く、袖もない。ノースリーブタイプだ。
袖の代わりに二の腕まである手袋は、レース仕立てで、細やかな刺繍が何とも•••••そこだけは婀娜っぽい。うん。
髪はいつもの様に、ポニーテールからの輪っかを二つ。衣装と同色の飾り紐は房に金色を混ぜてある。
背中に流れる尻尾は真ん中辺りで筒状の髪留めで纏めて、激しく動いても風に舞うのを防いでくれそうだ。
仕上げに精霊のローズが目尻に薄く紅を刷かせてくれる。
うん、何となく妖しさが出たような気がするよ。つくづくメイクって偉大だと思う。
そうーーー今私は、悪役衣装が出来上がったと言うので、こうして身体に合わせているのだ。後は細かい所を直すんだって。
「ああ、良くお似合いですよ。まるで朝露の名残を陽光に煌めかせた黒薔薇の蕾のようです」
「うん、いいね。流石俺!フィーは色気を全体的に出すのはちょっと無ーーーポヤッーーーあー、咲き初める蕾、花開く前の危うい艶やかさを出した方が良い」
「「おおー!これが噂の馬子にも衣装!」」
「フィアは何を着ても可愛い」
「姫様、ささ、こちらを向いて下さい。母君様達もご覧になりたがっていらっしゃいますので」
んん!?何か引っ掛かるモノ言いがあった気がするけど、ツッコミを入れる前にメルガルドが不思議な物体を取り出した。
銀色をしていて、球型のーーー眼球のような見た目をしている。そう言えばキョロ助ちゃんとお仕事してるかな?
落ち着いたら宝物庫の皆に会いに行っていいか聞いてみよう。
「メルガルド、それってなぁに?映像?それとも写真?とか撮れたりするの?」
こっち向いて、母様達に見せるって言ったし、画像系の道具だと思うんだけど。
「はい、こちらは写真でございます。皆様、姫様のお姿を心待ちにしておりますので、こうして準備いたしました。やはり記録として残したいとの仰せで」
そうなんだ!じゃぁ後でティティとも一緒に撮ってもらおうっと。皆で写っているのも欲しいな。
そう言うと、メルガルドは、着付けが終わったらティティを連れて来てくれると言ってくれた。
「ふおぉぉぉ!」
連れて来てもらったティティは、何と言うか、ババン!と圧巻だった。
マーメイドラインを基本の形にして、床に流れる程に長い裾は優雅なラインで波打つ。その裾と、大胆にカットされた胸元、肩に黒鳥の羽があしらわれている。
私と同じ生地を使っているので、光沢が深い紫に艶めき、それが紫色をした炎の揺らめきにも見えた。
朝露の結晶はティティの瞳に合わせていて、緑色を基準とした石が裾に散りばめられ、紫炎から逃げる魂なのか、それとも浄化された清き魂なのか。
髪も頭の高い位置で縛られ、無造作に垂らされている様に見えて、よく見れば細い束がいくつも連なっているのが分かる。
黒紫の細い糸で括らられた銀色の髪がシャラ、と流れる。
太ももの半ば辺りから入ったサイドのスリットから除く白い足との対比も匂い立つ色気が漂い、バレーシューズはお揃いなのに、ここまで雰囲気が違く見えるなんて、妖艶さのマジックよ、君はいい仕事してるよ。
ーーーー私の方にも、もう少しそのお仕事をして欲しかったよ。
私と同じに目尻に紅を刷き、額に描かれた花鈿は、燃え盛る炎の様な彼岸花をモチーフにしていて、一種の侵しがたい神聖さの中に、美しくも禍を感じる。
彼岸花が一面に咲き誇る野原に、小さな社を見たような、生き人が決して立ち入れぬーーーそんな恐れを抱かせた。
唇の端をくいっと上げて嫣然と微笑むその姿は、まさに悪役にふさわしい艶やかさだった。
勿論、皆で写真を撮りまくったわ。
フフン、当日はこれで悪役参上!ババン!
と、行くのですよ。
「フィーはこっそりだけどね」
ーーーーーーうん、フロースさんや、そうなんだけどね。知ってたけどね、テンション上げて行かないと、プレッシャーでペション、ってなってしまうから!
私って意外とデリケートだったんですよ。
「ああ、有刺鉄線のアレか?」
真顔で言わないでくださいませんか、ラインハルトさん。それはバリケードです。
繊細な心が傷つきます。
「洗濯に使う粉ですね」
眼鏡を光らせて言わないで?ロウ。
驚きの白さになるかも知れない?元のアヤツは、洗剤です。
「ーーー•••••泣いていい?」
「おや、柄にも無く緊張しているようなので、ボケてみましたがーーーお気に召しませんでしたか?」
ロウの半分は優しさで出来てるって信じてるからね?
「フィア、大丈夫だ。ここにいる皆、お前の味方なんだから」
ーーー三日後の儀式当日に、私達は大神殿へと移動する。
私、ね、眠れないかも知れない!
#####
読んでいただきありがとうございます!大変嬉しいです(*´∇`*)
もうこれは、もう、ぬ、脱ぐしか•••••ロウが。
いえ、最近ロウを脱がせたい症候群に罹ってしまいまして。
ロウはいつ如何なる時もキッチリ着込むお方で、着崩す事は稀なのですが、剥いてみたく•••••ゲフンゲフン。
ラインハルト、君は駄目だ。最後の砦を無くしたらナニが残るというの!?
夜着以外はキッチリ着る派なのですが、怪しいので。
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