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初恋を教えてくれるひと
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陳腐な言葉だが初恋は実らないとよく言われる。これは初めてなので上手く気持ちを伝えられなかったり接することが出来なくて結果的にそうなる場合と、幼すぎてそれが恋だと気づく前にいろいろな意味で終わっていたりするからそうなるのだろう。
同じぐらい陳腐な言葉に男の子は年上の女の人に憧れるというのもある。男の子より上ならそれはエロい意味だろうし、それより上になると今度は若い女性がいいと言い出す大人が多いのだが。
小さな頃、確かに周りの友人に年上の女性に憧れたヤツはいたが、年上だから淡い思いを抱いたというより他に選択肢がなかったという方が正しい。
過疎が進んだ田舎なので、同世代に女児はほとんどいなかった。年下にもいたがさすがにその当時だと意思の疎通が出来てるか怪しいくらいなので憧れる暇があったら危ないことをしないか見張らなければという感じだったので無理だ。……大人達から見たら俺たちもそう変わらなかったのだろうが。
実は俺にも憧れている人がいた。
あまり関わりのない、それなりに年が離れていた、けれど俺を子供扱いしない人だった。
友達にはあまり人気がなかった。もっと優しくて構ってくれる人の方がいいと。
それは甘えたいだけで恋ではないだろうと、思っていたが幸い口には出さなかった。
そしてそれと同時に、自分の気持ちが恋であることを自覚した。
初恋に気づいたとき、一般的にはどうするものなのだろうか?
未知の感情に恐れおののいて、そのくせ浮かれたり、相手と自分を比べてみて喜んだり絶望したり、気持ちを伝えようとしてできなかったり、伝えて上手くいったりいかなかったりするのだろう。
俺はなにも言わなかった。
こちらがどんな感情を持とうとも子供のいうこととしか思われないだろう。
だったら告げて流されてその印象引きずられるより、本気だと最低限でも信じてもらえる年齢まで待とうと。
それでもその前に恋人が出来たり結婚したりしないかとひやひやしていた。
彼女に近い年齢の独身男性は現在ほぼいないが、いきなり街から帰ってくる可能性はあるし、それより上の死別や離婚で独身となった男性の再婚相手に選ばれることもあり得る。
そう心配しながらも、彼女はずっと独りだった。
年月が経ち、その時の想いすら所詮子供のものだったと思い知った頃。
ようやっと想いを告げようと決意したとき、不意にその衝動はやってきた。
――彼女を望んではいけない。
最初は、単純にひるんでいるのだと思った。
いくら決意したといえど、長い間こじらせて来たのだから、現状を変えることにためらいが出るのもしょうがない。
すぐに受け入れてくれると思うほどうぬぼれられる何かがあるわけでもないし。
それでも地道に行くつもりだった。
けれど恋情に逆らうように、その衝動はますます強くなる。
こんなにも恋い焦がれているのに、それを止めようとする。
そう言っているのが他人だったらどんなによかっただろう。
たとえ頭がおかしくなったのだとしても、他人の言葉と思い込めたのならばあらがい続ける事も出来ただろう。
けれどこれは自分自身だという強い確信があった。
迷っている訳でもないのに、なぜ止めるのか分からなかった。
その板挟みに疲れ果ててしまったとき、優しくしてくれた女性がいた。
他に好きな人がいてもいいという言葉に、卑怯にも俺は逃げた。
なぜか以前にも同じ事をしたような気がした。
それでもこれで望まなくなったのだからもう少し冷静に彼女の事を考えられるようになるだろうと思った矢先、彼女はあっさりと事故で死んでしまった。
まるで俺の恋情のためだけに存在していた幻のようだった。
きっと生まれ変わっても、俺は彼女に恋をするだろう。
何度でも初恋を教えてくれるだろう。
その時も何かが俺を止めようとするのだろうか?
愛していた。
同じぐらい陳腐な言葉に男の子は年上の女の人に憧れるというのもある。男の子より上ならそれはエロい意味だろうし、それより上になると今度は若い女性がいいと言い出す大人が多いのだが。
小さな頃、確かに周りの友人に年上の女性に憧れたヤツはいたが、年上だから淡い思いを抱いたというより他に選択肢がなかったという方が正しい。
過疎が進んだ田舎なので、同世代に女児はほとんどいなかった。年下にもいたがさすがにその当時だと意思の疎通が出来てるか怪しいくらいなので憧れる暇があったら危ないことをしないか見張らなければという感じだったので無理だ。……大人達から見たら俺たちもそう変わらなかったのだろうが。
実は俺にも憧れている人がいた。
あまり関わりのない、それなりに年が離れていた、けれど俺を子供扱いしない人だった。
友達にはあまり人気がなかった。もっと優しくて構ってくれる人の方がいいと。
それは甘えたいだけで恋ではないだろうと、思っていたが幸い口には出さなかった。
そしてそれと同時に、自分の気持ちが恋であることを自覚した。
初恋に気づいたとき、一般的にはどうするものなのだろうか?
未知の感情に恐れおののいて、そのくせ浮かれたり、相手と自分を比べてみて喜んだり絶望したり、気持ちを伝えようとしてできなかったり、伝えて上手くいったりいかなかったりするのだろう。
俺はなにも言わなかった。
こちらがどんな感情を持とうとも子供のいうこととしか思われないだろう。
だったら告げて流されてその印象引きずられるより、本気だと最低限でも信じてもらえる年齢まで待とうと。
それでもその前に恋人が出来たり結婚したりしないかとひやひやしていた。
彼女に近い年齢の独身男性は現在ほぼいないが、いきなり街から帰ってくる可能性はあるし、それより上の死別や離婚で独身となった男性の再婚相手に選ばれることもあり得る。
そう心配しながらも、彼女はずっと独りだった。
年月が経ち、その時の想いすら所詮子供のものだったと思い知った頃。
ようやっと想いを告げようと決意したとき、不意にその衝動はやってきた。
――彼女を望んではいけない。
最初は、単純にひるんでいるのだと思った。
いくら決意したといえど、長い間こじらせて来たのだから、現状を変えることにためらいが出るのもしょうがない。
すぐに受け入れてくれると思うほどうぬぼれられる何かがあるわけでもないし。
それでも地道に行くつもりだった。
けれど恋情に逆らうように、その衝動はますます強くなる。
こんなにも恋い焦がれているのに、それを止めようとする。
そう言っているのが他人だったらどんなによかっただろう。
たとえ頭がおかしくなったのだとしても、他人の言葉と思い込めたのならばあらがい続ける事も出来ただろう。
けれどこれは自分自身だという強い確信があった。
迷っている訳でもないのに、なぜ止めるのか分からなかった。
その板挟みに疲れ果ててしまったとき、優しくしてくれた女性がいた。
他に好きな人がいてもいいという言葉に、卑怯にも俺は逃げた。
なぜか以前にも同じ事をしたような気がした。
それでもこれで望まなくなったのだからもう少し冷静に彼女の事を考えられるようになるだろうと思った矢先、彼女はあっさりと事故で死んでしまった。
まるで俺の恋情のためだけに存在していた幻のようだった。
きっと生まれ変わっても、俺は彼女に恋をするだろう。
何度でも初恋を教えてくれるだろう。
その時も何かが俺を止めようとするのだろうか?
愛していた。
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