婚約破棄はされないけれど

こうやさい

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 それまでは真綿でくるまれていたように守られていたわたくしは、殿下との婚約で存在が注目され当然のように羨望と、それ以上に悪意に晒されました。
 免疫もなく、言い返す言葉も思いつかず、ただ鬱屈だけを募らせていきます。
 そしてそれに比例するように殿下に依存してゆきました。
 それでも王子様と結婚すれば幸せになれるのだと、それだけを心の支えに過ごしてまいりました。

 それは殿下も似たようなものだったのでしょう。
 将来は兄上の役に立ちたいと、まだ殿下も状況がよく分からなかったであろうころ、そう聞かされた覚えがあります。
 王族として残れるかは微妙なところでしたでしょうが、それでももう少し中枢に近いところにいられるつもりだったのでしょう。
 その夢が壊れたのです。少なくとも喜びはしていないことくらい分かります。

 けれど殿下はわたくしに依存はしませんでした。
 むしろ陛下ちちおやよりもある意味で近い位置にいた分、より疎ましく思っていたのでしょう。
 何も考えずに無邪気に生きていた状態から否応なくいろいろなことを突きつけられ打ちのめされたわたくしに対し、殿下はただただ冷ややかでした。
 今とこれからのこともありますが、おそらく妾腹の第二王子殿下としてそれまでも思うことがあったのでしょう。
 それがこんな形で出てきてしまったのでしょう。

 そんないびつな状態ながらも将来はそれでも変わらないと信じようとしていました。

 それが壊れたのは学院に入学し、殿下が特待生の少女を手元に置き始めた時でした。
 明確に不貞だと責められるほどの距離ではありませんでした。親しい友人程度の付き合いです。
 けれど態度の端々からお互いが惹かれつつあることがわかります。
 それが貴族の娘だったならここまで気に障ることはなかったでしょう、たとえ家格が下だったとしてもです。
 けれども特待生は王子様と結ばれればめでたしめでたしで終われると信じられる場所にいる人なのですから。
 その立場ゆえ身分差に基づく無礼は学院内に限りある程度許されているとはいえ、殿下に近づきそのままいるということはそういうことなのでしょう?

 わたくしを変えてしまった原因がかつてのわたくしのような少女を傍に置くというのです。
 それは屈辱としか思えませんでした。

 すべてを殿下のせいにするのは間違っているとはわかっています。
 家の思惑もありましたし、周りに悪意を吹き込む輩が多かったせいもあるでしょう。
 わたくし自体が至らぬことも多々あったでしょう。

 それでも殿下がわたくしを守りも正しもせずにいたことは確かです。
 その上で当てつけるようにわたくしがなくしたものを持つ存在を見せつけるのかと。

 その思考はわたくしが殿下を好きではないと気づかせるには充分なものでした。
 殿下が好きなのではなくただ恋に恋していただけなのだと。
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