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 不条理ながらも、話はそれでまとまったかに思えたが。
「なぜまたそんな派手な格好をしている!?」
 干渉しないと宣言しておきながらそんな口を男が挟む。
「あら?」
 派手と男は表現したが、地味だった令嬢はただ美しくなっただけだった。
「そちらのお金を使い込むことは今もこれからもしませんし、こちらの予算も増やしていませんわ」
 令嬢の金遣いが荒くなったわけではなく、ただ方向性を変えただけだ。それも特に奇抜な意匠にしたわけでもない、化粧や衣服を年相応に改めただけだ。むしろ今までが地味すぎた。
「ですからあなたに迷惑はかけていないはずですけれど?」
 それこそわきまえていない愛人のような真似はしていない。
「それはそうなのだが……」

 確かに直接的に迷惑をかけられた訳ではない。
 最低限と言ったため同伴が必要な社交すら衣装などを贈るどころか事前の打ち合わせなども最低限になったのだから、よほど常識外れでもない限り格好に口を出す権利はないだろう。
 ただ、他の男が令嬢を見る目が変わった。
 既に婚約者がいることを知っているのであからさまな真似はしてこないが、あわよくば、将来的に実質的な婚姻関係でなくなった後ででもと思っているであろう事は想像が付く。
 将来どころか、既に未来の婚姻関係が破綻しているとしられれば割り込んでくるだろう。

 けれど婚約の破棄は出来ないし、実のところするつもりもなかった。今となっては特に。
 政略の利点を失えないせいもある。
 好きな人が妻になれる立場を有していないせいもある。
 けれど何より、美しくなった婚約者をお飾りで済ますつもりがなくなっていた。
 恋と呼ぶには歪んでしまっているが、そうさせてしまうほどの魅力が今の令嬢にはあった。
 戻れるというのならあの日に戻って宣言を取り消したいほどに。
 今からでもやり直せるならそうしたいと思うほどに。

 なのに。
「だってお飾りですら、せいぜい飾り甲斐のある格好かたちをしませんと」
 そんな事を美しく微笑みながら言われてはそれを口に出せない。
 お飾りでなくなれば、この格好をやめてしまえば、あの一緒にいてつまらない婚約者が戻ってきてしまうかもしれない。
 かつては良くも悪くも普通でつまらないとまでは思っていなかったはずだが。
 他の人を経て、今の飾り甲斐のある姿を見てしまうと、同一人物のはずなのにそうとしか思えない。
 お飾りにしか出来ないとしても婚約者であることは変わりない。
 時間はある。
 今の格好が普通と思うようになるまで待てばいい。
 それからすべてを手に入れればいい。
 好きになったはずの人のことも、ずれていたとはいえ持っていた誠実さも、既に男からは消えていた。
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