私悪役令嬢、今作者の中にいるの。

こうやさい

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 気がつくと何か記号らしきものが規則的に描かれている光る板の前に座っていました。
 くらりと目眩がして固く目を瞑ります。
 流れ込んでくる何かに意識が流され、気を失うかと思った寸前、何事もなかったかのように意識がになり、記憶が統合されます。
 けれど理解までにはもうしばらく時間がかかりました。

 ディスプレイには、他の令嬢に心奪われた婚約者である皇太子殿下に婚約破棄された悪役令嬢の小説が……って、これ私ですわ。
 私は確かにここに書かれているとおりに、これではヒロインと書かれている少女に殿下が心奪われ、婚約破棄され……って、どうして悪役令嬢としか書かれていませんの!? って、名前覚えられないからというのが記憶から思い出せる辺り頭が痛いですわ。私にはきちんと名前があります。……後で一括置換すればいいという思考が出てきて混乱します。気をつけないと残すべきところも変わったり、中途半端に名前を呼んだり名前からあだ名を付けている場所が変わってなかったりで失敗するというのは誰の言葉なのかしら?
 まぁいいですわ、一括置換とやらに付き合って差し上げます。

 とにかくその悪役令嬢としての私は、ヒロインに心引かれた殿下によってどこからか冤罪を押しつけられ婚約破棄と共に国外追放を命ぜられました。
 そこで隣国から留学していたヒロインが、小国だし今までほどの暮らしは出来ないだろうけれどと、お従兄様を紹介してくださって、ああこの人相手なら負けてもしょうがないのかもしれませんわと妙にすがすがしい気持ちで隣国に向かいましたわ。

 本当に感謝していましたの。貴族社会を出れば私は現状何も出来ないと分かっていましたし、親にも早々に切り捨てられましたのでつてもありませんでしたから、屋根と壁があるだけでも助かるほど何も持っていないと本当の意味でかどうかはとにかく分かっておりましたから。技術的に出来るかどうかはとにかく、下働きでも何でもする覚悟はしていましたわ。

 ところがそのお従兄様はずいぶんと優しくしてくださり、却って居心地の悪くなるほどでしたので仕事はないかと尋ねたところ妹様のマナーレッスンと後は出来れば自分の話し相手になってくれといわれ……恐らくつまらないであろう女のおしゃべりを熱心に聞いてくださるんですもの、好きになったのは私が悪いわけじゃないですわよね?

 と、ここまではディスプレイにも書かれているようですわ。
 でもこれ私以外の視点もあるようで……えーっと。
 って、あのヒロインさん間諜でしたの!? 冤罪はあなたが殿下に吹き込んでいましたの!?
 お従兄様も一味でしたの!? 私の話を聞いてくださったのは探るためでしたの!?
 しかも人間ですらなくて、最終的には故国を食料の養殖場にするつもりですって!? 食料って人間でしてよ!?

 これでどうして私が悪役令嬢ですの!?

 ……失礼、取り乱しましたわ。
 これはどうすればいいのでしょう?
 推測に過ぎませんけれど、決定しているのはここに書かれた部分まででしょうか? 少なくとも私は知りませんし。
 だとすればここの続きを都合のいいように書き換えればよろしいのかしら?

 ですか、それは誰の都合ですの?
 私と致しましては元婚約者には未練がないのでお従兄様と…………ももうどうでもいいですわね、今までの言動ももくろみがあると分かればうさんくさいだけに思えてきましたし、それくらいで醒める程度にしか愛情を信じられる余裕が今はありませんわ。人外に関しては実感がないので保留で。

 それに今私がいますのは今までいた世界ではなくディスプレイの前なんですわよね?
 続きを書いたとして、結局誰の物語になるのでしょう?
 この身体の都合としては考えたとおりに進んだ方がよろしいんでしょうけど、まだ決めあぐねていたようですし。

 そういえば私の話を書いてたらしいこの身体の持ち主は今はどうなっているのでしょう?
 まさか私と入れ替わったりはしていませんわよね?

 ……このまま何もしなくていい気がしてきましたわ。
 幸いこちらで暮らしていける知識と実感は伴わないとはいえ記憶はあるようですし。
 生活にも困りそうもないというか、ある部分ではこちらの方がよい生活をしているようですし。

 そもそも私がこんな目に遭ってるのはこの人のせいですものね?
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