1 / 2
前編
しおりを挟む
「何ですって……!?」
告げられた占い師の言葉に震える。
「わたしの娘が聖女を殺すですって?」
世も末なのか現在この国の王侯貴族に占いが大流行している。
流行なので結果を重要視するかは別問題なのだが、そんな理由で我が公爵家にもお抱えの占い師がいたりする。
これが質が悪いことにそこそこ当たる。
全然当たらないなら聞き流せばいいし、百発百中なら何も考えず結果に従っていればいい。
けれど中途半端に当たるというのは結局自分で結論を出さなければならず、それでは占っても占わなくても考えはそれが理由ではめったに変わらない。
そんな占い師が、尋ねも想定もしていないとんでもないことを妙に具体的に言った。めったが起こるのかもしれない。
そのいう聖女という存在はある意味占いよりもうさんくさい。
なんでも人心を惑わし災いを撒き散らす魔族という存在が現れたとき、その対として同時期に現れ、魔族を退け、その治世を祝福し、国を栄えさせるそうだ。
ただし聖女も覚醒するまではただの人で、必ずしも清く正しく育つわけではないし、事故や病気そして人の手で簡単に死がもたらされる。
それでも魔族は直接聖女には手を下せず、聖女本人は騙せず、聖女当人に関しての質問に偽りで答える事も出来ないので、周囲の人間を上手く誤魔化しそそのかし覚醒するまでに殺させようとするらしい。
よって、聖女と判明した場合国が全力を持って保護し、害したものには苛烈な罰が与えられる。
その聖女を、わたしのまだ赤子といっても問題ない年齢の娘が将来的に殺すというのだ。
とはいえ有史に聖女の存在は残っていない。王が国の隆盛を自分の手柄にするために聖女の存在を秘匿したという陰謀説も根強いが、恐らく御伽話に過ぎないというだけだろう。
「……誰が聖女かは分かっていて?」
それでも対策を取らないという選択肢はなかった。
外れるならそれに越したことはないが、占い師が箔を付けるために適当に言ったことにしては問題が大きすぎる。
「…………旦那様が外で作った愛人の娘です」
「何ですって!?」
それは違う意味でも言いづらかろう。
「……それは、占いで分かったのかしらぁ?」
占い師が目をそらす……抱き込まれていたか。
占い師には占い師のコネがあり、それは時に貴族に勝る。
「……まぁ、いいわ」
しょせん政略結婚で夫に対する愛は元からない。既に長子はいるわけだから家を乗っ取られるわけでもないし、細かいところをつついて険悪になるより今の生活を守る方が大切だ。
そう、今の生活。
もし聖女を殺した犯人が家族から出たとなれば、犯人は言うに及ばず、公爵家といえど家自体も取り潰される可能性が高い。今の生活どころか一家そろって罪人扱いだろう。
しかし、よりにもよって愛人の娘だなんて。
妾に迎えることも出来ないのだから身分は低いはず。何も知らずとも何かの拍子に会ってしまいもめでもして、不敬だと殺すよう命じてしまってもおかしくないし、貴族教育に失敗すれば父親の不貞の結果なのだからその存在を嫌悪し排除しようとするかもしれない。
心優しい娘に育てる? 貴族教育をたたき込む?
いっそ聖女だと教えてしまう?
……いや、占い師が言う聖女と公爵家の人間の言う聖女では重みが違う。実際はどうでも分別の付く前の子供に軽々しく言っていいものではない。
「どうやって殺すかは判明していて?」
「そこまでは分かりかねます」
ならばどうすればいい?
聖女も娘も守るには……。
「その娘のところに秘密裏に案内なさい」
「奥様っ、お赦し下さい奥様ぁぁ」
外で囲っていた愛人とやらが一年以上前に体調が悪いからとろくに働かなくなったのでやめさせた女中だったことはこの際目を瞑ることにする。
その女かの手から恐らく娘より半年ほど年下であろう赤子を取り上げる。
女の表情がますます酷くなる。
床に叩き付けでもして殺すとでも思った? 本音ではそうしてもいいのだけれど。
取り上げた赤子を優しく抱くと、代わりに占い師に抱かせていた娘を女に差し出させる。
「は?」
展開について行けないらしい女が涙の止まった目で目の前のおくるみを見つめている。
「この子は公爵家でわたしの娘として育てます。あなたはどこか遠くでわたしの実娘を自分の子として育てなさい。資金は出してさしあげます」
幸か不幸か父親が同じのため顔も色彩も似ている。
「は?」
まったく、愚図い女だこと。
……本当は、実娘を今のうちに殺してしまうのが一番安全なのだろう。
けれどそれがためらわず出来るほどわたしは貴族ではなかったらしい。占い師の占いもそこまで当てにできないことだし。
ならばふたりが出会わない状況を作る。聖女と実娘に間違っても接点が出来ないよう遠くに引き離す。
そして接点が出来たとしても、聖女の方が公爵家の令嬢ならばそうそう無礼は働けない。
最悪愛人の子と本妻の子の確執が出来たとしても公爵家の令嬢にその辺の庶民が害するために近づける可能性は逆よりもうんと少ない。
さらに言うなら公爵家で育てば病気になったときの対処も早いし、怪我をする危険性も少ない。
……それに、公爵家から聖女が出たとなれば誉れだ。
それが自分の実娘でないのは残念だけれど。
「分かったわね?」
告げられた占い師の言葉に震える。
「わたしの娘が聖女を殺すですって?」
世も末なのか現在この国の王侯貴族に占いが大流行している。
流行なので結果を重要視するかは別問題なのだが、そんな理由で我が公爵家にもお抱えの占い師がいたりする。
これが質が悪いことにそこそこ当たる。
全然当たらないなら聞き流せばいいし、百発百中なら何も考えず結果に従っていればいい。
けれど中途半端に当たるというのは結局自分で結論を出さなければならず、それでは占っても占わなくても考えはそれが理由ではめったに変わらない。
そんな占い師が、尋ねも想定もしていないとんでもないことを妙に具体的に言った。めったが起こるのかもしれない。
そのいう聖女という存在はある意味占いよりもうさんくさい。
なんでも人心を惑わし災いを撒き散らす魔族という存在が現れたとき、その対として同時期に現れ、魔族を退け、その治世を祝福し、国を栄えさせるそうだ。
ただし聖女も覚醒するまではただの人で、必ずしも清く正しく育つわけではないし、事故や病気そして人の手で簡単に死がもたらされる。
それでも魔族は直接聖女には手を下せず、聖女本人は騙せず、聖女当人に関しての質問に偽りで答える事も出来ないので、周囲の人間を上手く誤魔化しそそのかし覚醒するまでに殺させようとするらしい。
よって、聖女と判明した場合国が全力を持って保護し、害したものには苛烈な罰が与えられる。
その聖女を、わたしのまだ赤子といっても問題ない年齢の娘が将来的に殺すというのだ。
とはいえ有史に聖女の存在は残っていない。王が国の隆盛を自分の手柄にするために聖女の存在を秘匿したという陰謀説も根強いが、恐らく御伽話に過ぎないというだけだろう。
「……誰が聖女かは分かっていて?」
それでも対策を取らないという選択肢はなかった。
外れるならそれに越したことはないが、占い師が箔を付けるために適当に言ったことにしては問題が大きすぎる。
「…………旦那様が外で作った愛人の娘です」
「何ですって!?」
それは違う意味でも言いづらかろう。
「……それは、占いで分かったのかしらぁ?」
占い師が目をそらす……抱き込まれていたか。
占い師には占い師のコネがあり、それは時に貴族に勝る。
「……まぁ、いいわ」
しょせん政略結婚で夫に対する愛は元からない。既に長子はいるわけだから家を乗っ取られるわけでもないし、細かいところをつついて険悪になるより今の生活を守る方が大切だ。
そう、今の生活。
もし聖女を殺した犯人が家族から出たとなれば、犯人は言うに及ばず、公爵家といえど家自体も取り潰される可能性が高い。今の生活どころか一家そろって罪人扱いだろう。
しかし、よりにもよって愛人の娘だなんて。
妾に迎えることも出来ないのだから身分は低いはず。何も知らずとも何かの拍子に会ってしまいもめでもして、不敬だと殺すよう命じてしまってもおかしくないし、貴族教育に失敗すれば父親の不貞の結果なのだからその存在を嫌悪し排除しようとするかもしれない。
心優しい娘に育てる? 貴族教育をたたき込む?
いっそ聖女だと教えてしまう?
……いや、占い師が言う聖女と公爵家の人間の言う聖女では重みが違う。実際はどうでも分別の付く前の子供に軽々しく言っていいものではない。
「どうやって殺すかは判明していて?」
「そこまでは分かりかねます」
ならばどうすればいい?
聖女も娘も守るには……。
「その娘のところに秘密裏に案内なさい」
「奥様っ、お赦し下さい奥様ぁぁ」
外で囲っていた愛人とやらが一年以上前に体調が悪いからとろくに働かなくなったのでやめさせた女中だったことはこの際目を瞑ることにする。
その女かの手から恐らく娘より半年ほど年下であろう赤子を取り上げる。
女の表情がますます酷くなる。
床に叩き付けでもして殺すとでも思った? 本音ではそうしてもいいのだけれど。
取り上げた赤子を優しく抱くと、代わりに占い師に抱かせていた娘を女に差し出させる。
「は?」
展開について行けないらしい女が涙の止まった目で目の前のおくるみを見つめている。
「この子は公爵家でわたしの娘として育てます。あなたはどこか遠くでわたしの実娘を自分の子として育てなさい。資金は出してさしあげます」
幸か不幸か父親が同じのため顔も色彩も似ている。
「は?」
まったく、愚図い女だこと。
……本当は、実娘を今のうちに殺してしまうのが一番安全なのだろう。
けれどそれがためらわず出来るほどわたしは貴族ではなかったらしい。占い師の占いもそこまで当てにできないことだし。
ならばふたりが出会わない状況を作る。聖女と実娘に間違っても接点が出来ないよう遠くに引き離す。
そして接点が出来たとしても、聖女の方が公爵家の令嬢ならばそうそう無礼は働けない。
最悪愛人の子と本妻の子の確執が出来たとしても公爵家の令嬢にその辺の庶民が害するために近づける可能性は逆よりもうんと少ない。
さらに言うなら公爵家で育てば病気になったときの対処も早いし、怪我をする危険性も少ない。
……それに、公爵家から聖女が出たとなれば誉れだ。
それが自分の実娘でないのは残念だけれど。
「分かったわね?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる