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君の未来の夢を見る

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 君はこのさき恋をして、僕を忘れてしまうだろう。

 結婚式から指で数えられるほどだった。
 なのにというか、だからというか、妻は事故に遭い延々と眠り続けた。目を覚ます見込みはなく、いずれ死んでしまう――はっきりとではないがそう言われた。
 お腹にはすでに新たな命が宿っていたというのに。

 出産が終わるのを待つように、あるいは出産に耐えきれず妻は命を落とした。
 残されたのは妻の面影を持つ娘と悲しむよりも先に途方に暮れた僕だった。何せ子育ての経験も、弟妹が居た試しもない。
 ただし姉は二人いた。そのうちの一人が旦那と離婚して親権は向こうに取られたとかで帰ってきたので頼み込んで子守りの仕方を教えてもらう。
 こうして行政と家族のサポートを受けながら娘と生きていくことにした。

 そんな風に始まった娘との生活だったが、それなりに年月は過ぎ、日に日に妻に似てくる娘は僕のすべてだったというしかない。

 その日、一緒に遊園地に行った。
 昔は直接的に体験する遊具が多かったが、最近は半分ゲームセンターのようにヴァーチャルで体感するものも多い。
 ヴァーチャルのジェットコースターに身長制限はないがあまりに小さいと泣いてしまわないのか心配になる。
 その中に未来の姿をヴァーチャルで見えるという触れ込みの顔スキャン型の子供向けシミュレーターがあった。AIがスキャンしたデータから大人になった顔を推測し、それをアバターに埋め込み、その姿とその視点からのアバターの動きが体感できるという、ぎこちなさが減った事以外は真新しさも何も無いようなシロモノだった。
 けれどそれでも娘には新鮮に映ったらしい。自分からは特に何も出来ないシロモノだというのに職業や状況を変え何度もやりたがった。
 アバターの視点で見えるのはプレイヤーだけだが、保護者やプレイヤーの許可がある人にはその様子が第三者の視点で見える。
 娘が繰り返す度に機械は妻の姿を映し出した。
 どう判定しているのか、本当に将来そうなるのか、妻にしか見えなかった。
 それでも最初は良かった。娘は楽しそうだったし、遊びだと割り切れた。
 けれど娘は花嫁にも母親にもなった。
 母親なんで何をどう認識してなりたいと思ったのだろう?
 機械は叶わなかった妻の姿を映す。
 そしてそこに寄り添うのは僕じゃない。
 誰とは特定出来ないようになっている男の姿なのにそれだけは強く思う。
 もし妻が生きていたとしても、絶対に浮気や離婚をしないとはいいきれない。
 けれどその姿を見て娘は妻ではないとはっきりと認識した。

 つもりですらなく分かっていたはずだった。
 子供と大人はもちろん違うし、娘も妻も愛しいと思いは似ていても違う部分はまるで違う。
 けれどそう、例えば生まれ変わったような、どこかふわふわした曖昧な部分で同一視していたのだろう。
 仮に本当に生まれ変わりだったとしても娘はこのさき恋をして、前世の恋なんて忘れてしまうだろうのに。

 VRはよく出来ていて、本当に妻が目の前にいるようにしか見えない。
 なのにようやく僕は妻がもういないと知った。
 泣くことすら出来ないほど今更だった。
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