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彼が見たい夢は見えない
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「また患者の脳波が乱れました」
そうカプセルがモニターしていた結果が伝えられる。
「そうか……しばらくVRは切って投薬に切り替えてくれ」
この患者は知り合いの女性が死んでしまったと思い込んでいた。
いや事実死んだのだが、女性自体は記憶のバックアップとクローン技術で蘇った。
その死んでいたはずなのに戻って来たということが患者にはショックだったらしい。恐らくクローンを受け入れられなかったのだろうと。
まだまだそんな人は多い。
そして心を閉ざした。対人的な意味ではなく外部刺激に身体反射以外の反応を示さなくなった。
とりあえず生命維持のためにカプセルに入れられ、カウンセリング代わりにVRを体験させた。
クローンである事が問題なら、とりあえず無事だったと思い込ませ徐々に現実を受け入れされる方針だった。
思い込ませるといっても患者の方の記憶のバックアップはなく、もしあったとしても以前の記憶を単純に上書きしては問題の部分はそのままだし、記憶を綺麗に消す術はまた開発されていない。
なので負荷を最低限に止めるため『無事だった』という必要最低限な情報のみをVRで体験させた。繰り返せばどちらが真実かが曖昧になり、やがては作り物のほうを信じ始める。多少の齟齬は適当に補完されるだろう。そうやって先に反応を示す状態に戻してから現実を受け入れさせる予定だ。
けれどこの患者にそれは効かなかった。成功例は多い代物なのに。ましてや悪影響があった事なんてなかった。
何が問題なのかが分からない。
もしかしたら患者の中でされている補完が予想外の結果を生み出しているのかもしれない。
けれどそれを知ることは出来ない。記憶をバックアップすることもそれをVRで体験させなおす、あるいは何も記憶のない脳に体験させることは出来るが、他人の記憶を正確に覗くことはまだ出来ない。
我々は無力だ。
あの方の老後までに間に合うだろうか?
そうカプセルがモニターしていた結果が伝えられる。
「そうか……しばらくVRは切って投薬に切り替えてくれ」
この患者は知り合いの女性が死んでしまったと思い込んでいた。
いや事実死んだのだが、女性自体は記憶のバックアップとクローン技術で蘇った。
その死んでいたはずなのに戻って来たということが患者にはショックだったらしい。恐らくクローンを受け入れられなかったのだろうと。
まだまだそんな人は多い。
そして心を閉ざした。対人的な意味ではなく外部刺激に身体反射以外の反応を示さなくなった。
とりあえず生命維持のためにカプセルに入れられ、カウンセリング代わりにVRを体験させた。
クローンである事が問題なら、とりあえず無事だったと思い込ませ徐々に現実を受け入れされる方針だった。
思い込ませるといっても患者の方の記憶のバックアップはなく、もしあったとしても以前の記憶を単純に上書きしては問題の部分はそのままだし、記憶を綺麗に消す術はまた開発されていない。
なので負荷を最低限に止めるため『無事だった』という必要最低限な情報のみをVRで体験させた。繰り返せばどちらが真実かが曖昧になり、やがては作り物のほうを信じ始める。多少の齟齬は適当に補完されるだろう。そうやって先に反応を示す状態に戻してから現実を受け入れさせる予定だ。
けれどこの患者にそれは効かなかった。成功例は多い代物なのに。ましてや悪影響があった事なんてなかった。
何が問題なのかが分からない。
もしかしたら患者の中でされている補完が予想外の結果を生み出しているのかもしれない。
けれどそれを知ることは出来ない。記憶をバックアップすることもそれをVRで体験させなおす、あるいは何も記憶のない脳に体験させることは出来るが、他人の記憶を正確に覗くことはまだ出来ない。
我々は無力だ。
あの方の老後までに間に合うだろうか?
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